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【絵本から専門書まで】 塾講師が、生徒やご父母におすすめする書籍のご紹介です。

『官僚病の起源』 岸田秀

2006年10月21日 | 政治・経済・外交
 

Kannryou病.JPG


税金の無駄使い、公務員や政治家の不祥事が後を絶ちません。それはいじめがなくならないとか、談合がなくならない、選挙違反がなくならないのと同じように、日本人社会の性のようなものかもしれない。そんな問題意識で本書を読みました。

岸田氏の著作は、以前に 『一神教VS多神教』 という、宗教を扱ったものを取り上げましたが、岸田氏は精神分析が本職だそうです。本書では、専門の精神分析の手法で、国家の行動とか、特性や、その歴史を説明しようというのです。


日本では、特に権力者や官僚は、清潔で有能だという共同幻想を昔から持っていると言います。なるほど、水戸黄門や遠山の金さんなども、結構好きでした(笑)。あんな人物は昔からいないのに、それをいるのではないかという幻想にかかっているために、それに甘えた官僚の不祥事が続くのだという指摘です。

太平洋戦争で陸軍(官僚)は国のためだと言いながら、陸軍という自閉的組織のために動いたし、エイズ被害を引き起こした厚生省や、外務省の裏金問題、旧大蔵省の接待漬け事件など、どれをとっても問題の根っこは、自分の組織だけを守るという、同じ原因だということです。

いじめを苦に自殺した生徒に対する、校長、教育委員会の態度も全くそのとおりですよね。“先生は立派だ”という共同幻想を日本人は持っていて、教員はそれに甘えているのでしょうか。


さて、小さな自閉的組織(共同体)が、その利益のために、より大きな組織を犠牲にしたり、欺いたりするという事例はどこにでもありそうです。派閥があって党がないとか、省あって国なしの縦割り行政で国の財政を脅かすなど、枚挙に暇がありません。

なるほど、ここまでは分かります。

“縦割り”、“たこつぼ型組織”、“縄張り争い” の弊害は、多くの評論家などが指摘してきたことでもあります。ではなぜ日本人は組織の下部に自閉的組織を作るのか、これが本書の主題です。


国全体が自閉的になれば、それは鎖国をしているということになる訳ですが、その下部組織に至るまで、自閉的組織を好む理由をさぐるために、日本の建国にまでさかのぼって、そこで培われた日本人のメンタリティーを分析するのです。

筆者によれば、日本という国は、強大な唐に対抗するために、そもそも割拠していた自閉的小集団(豪族)をまとめる必要に迫られてできた。その中で一番、無難な存在が、天皇のはじまりであり、昔から、天皇は武力で地方を統一するような存在ではなく、その成り立ちから象徴的なものであったと考えます。

各集団は、自閉的なまま、つまり思想、文化を統一しないまま、より大きな組織を作るという特性があるというわけです。 平たく言えば、仲間だけで仲良くやっていたいのに、事情があって外界と付き合う必要のために、大きな器を作ったということですか。

他国の場合は、常にある集団が別の集団を虐殺したり、吸収したりしながら、一つのまとまりへ進む経緯で、国家が統一されて行きますが、それとは対照的だと指摘します。

特にアメリカなどは、先住民を大虐殺し、それを文明の名の下に正当化するという欺瞞で建国した歴史があるために、その後も、ベトナムや日本、今はイラクでしょうか、他民族を虐殺するということを繰り返さざるを得ない(反復強迫)。

だから原爆投下を絶対に謝ることができない。謝るということは建国以来の米国の歴史のあやまちを認めることになるというわけです。(すごいですね。どうですか?この分析)

フランスは、自由、平等、博愛などと言ってはいても、歴史を見れば、フランス人ほど、自らのリーダーにナポレオンドゴールなど強い独裁者を好み、育ててきた国はないと指摘します。共和制はいつも短い期間しか続かない。だからこそ、シラクは世界中が敵になろうとも、それに屈して 核実験をやめる訳にはいかないと。


アメリカのモンロー主義(孤立主義)は大陸への他国の介入を許さないという現実的な権力主義の現われで、中国は常に、中華思想、すなわち他民族はすべて朝貢する、東夷西戎北狄南蛮といって、すべて蛮人であるという、自民族優越主義だと、“精神分析”するわけです。



実に、新鮮な指摘で大変おもしろく読みました。まだまだ続きが読みたいと思います。ただ、まだ個人と国家の行動が、完全に同じ精神分析で説明してしまっていいのだろうか。う~ん、どう思われますか?日本は近代以降特に、精神分裂状態なんだそうですよ。

じゃあどうしよう??? ここまで言っちゃうと絶望的、身もふたもないじゃないか。だって悪いことした役人に、『まぁ日本人だからな』とも言えないし(笑)。そういう一冊でした。精神分析に興味のある方にお薦めします。怒り出す人もいるかもしれません。



http://tokkun.net/jump.htm 


官僚病の起源

新書館

詳  細


『官僚病の起源』岸田秀
新書館:239P:1325円



P.S.
 どれほど本書が “みもふたもない” のか表す好例が、日本人の英語に対する記述です。外的自己と内的自己が分裂しているとしています。引用します。

日本人がどれほど勉強しても英会話が下手なのは、能力が不足しているためでも、教授法がまずいためでもなく、本心は英語なんかしゃべりたくないからである

く~、ここまで言い切るか。誰か、なんか言ってやって下さい(笑)。



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10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
本質を突かれすぎて、返す言葉無し (Mizo)
2006-10-21 18:14:08
>日本人がどれほど勉強しても英会話が下手なのは、(中略)本心は英語なんかしゃべりたくないからである



自分の本心を探ると・・・・その通りです。

仕事柄、英語は話さないといけないですが、本心は話したくないのです。これじゃあ、うまくなりませんね(苦笑)

アメリカが謝れないのも、その通りのような気がします。謝ると自己を全否定してしまいそう。
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はじめまして (ゆきえ)
2006-10-21 21:10:22
はじめまして。ブログランキングから来ました。

この記事、すげ~~面白かったです!

こういったジャンルの本はあまり読まないのですが、

なるほど、各国の歴史的な事情が裏にあると理解できると、

現在の混乱した世界情勢の背景がよくわかる気がします。

また勉強しに来ます。

ありがとうございました。
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Mizoさん (VIVA)
2006-10-22 07:15:06
おはようございます。



そうですか。Mizoさんは大筋は本書の主張に賛成ですね。ボクもそうなんですが、↑で書いたとおり、そうすると、日本の基本政策ずいぶんやり直さないといけませんね。大変だ。
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ゆきえさん (VIVA)
2006-10-22 07:17:49
はじめまして。



こちらこそお越しいただきありがとうございます。背景が何となくわかるとして、どうしましょ。もう1回鎖国するわけにも行かないし(笑)。



これからもよろしくお願いします。
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またまた「買い」です! (ysbee)
2006-10-23 06:15:13
いやー、解説だけでもすごく面白かったです。なるほど、なるほど……の連続で。またまた「買い!」ですね。

VIVAさんは「こういう本を探していたのよ」というドツボにはまる本を次々紹介して下さるので、ウィッシュリストもどんどん長くなってきました。



岸田さんの『一神教…』は観点がユニークで非常に面白く読みましたが、こちらの本もまた目からウロコの視点に出会えそうですね。特にアメリカに関する指摘はその通り。柔軟な理想主義の若者だったはずの国家が、いつのまにか頑迷で因習深い陋習政治におちいってしまって……転換期です。



英語に関してはただひと言。必要性に迫られるといやでも覚えます。北鮮の核実験の時ニュースを見てへんなところでショックだったのは、韓国のフツーの女の子たちが英字の韓国の新聞をフツーに読んでいる写真でした。どういう英語教育をしているのでしょうね? なぜかひっかかりました。
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ysbeeさん (VIVA)
2006-10-23 17:30:31
ysbeeさん、お優しいコメントに感激です。岸田氏は和光大学の名物教授だったのですが、あまりにも大胆というか、身もふたもないためか、悪くいう人も多いんですね。



ですから、ご紹介はこわごわです(笑)。『一神教~』も白人は突然変異でできたとか書いてありましたよね。



本書は、『一神教~』を、おもしろいと思っていただける方なら、同様に興味を持っていただけるような気がします。
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Unknown (プレッツェル)
2006-10-26 03:36:36
始めまして。大変興味深い内容の本が挙げられていて、たまに読ませていただいてました。

最近の官僚の不祥事。よく取り上げられていますよね。。。残念ですよね。

でも、それは官僚に限らずどの企業であっても不祥事が溢れている。これが今の日本という気がします。

でも、一つ思うのが政治家や公務員の半端ない働きっぷりを見た時に、私はこの人たちすごすぎる!と思いました。

私はただ今海外在住なのですが、日本のこの手の本に心が痛むんですよね。大丈夫か日本!って。。。

日本のすばらしさ、期待を持てる本はなかなか出会えない。この手の本を興味深く読める本をご紹介していただけたら嬉しいです。



ごめんなさい。初コメでこんな内容で。
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プレッツェルさん (VIVA)
2006-10-26 08:29:46
はじめまして、コメントありがとうございます。率直な感想に感謝しております。



私の友人にも、超人的に働いている官僚がおります。信じられないほどの労働時間ですし、同年代のサラリーマンと比べても給料は決して高くありません。



本書の意図も、個人の怠惰や、日本人の能力に疑問を投げかけたものではなく、超人的な頑張りが、結果として、狭い範囲の利益にはなっても、国の利益につながらない、集団としてのメンタリティーを分析しようということだと思います。



一つの刺激的な意見だと思いました。一方日本は自分たちが考えているより、誇り高く、優秀であるというような本も取り上げております。



ご覧になっていただけるとうれしいです。また、ぜひ率直なご意見をいただきたいと思います。
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精神分析の集団への適用 (古井戸)
2007-07-08 09:13:12
>まだ個人と国家の行動が、完全に同じ精神分析で説明してしまっていいのだろうか

全く同じとはいえないだろうが、ほとんど同じでしょうね。ソレが文化のチカラです。文化がなければ人間は犬猫と同じ。

岸田秀と岡田英弘(歴史家)の対談『起源論』で、
 集団に精神分析が通用しない、と思っている人が多いが、集団も病気に掛かるのです、と岸田が述べ、それに岡田が、そのとおりです、と応じている。
精神分析が集団にも適用できなければ歴史は成立しない、とおもいます。犬猫に歴史がない、ということです。
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古井戸さん (VIVA)
2007-07-08 12:08:36
なるほど、。それにしても集団の精神分析は、病気かどうか判断するには、歴史観をきちんと持ち、正常な状態と比べるとすると相当な難事ですね。貴重なご意見ありがとうございました。
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