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「悟と行子」6

2014年10月10日 | T.B.2002年

「いろいろ話してくれて、ありがとう」

 彼女は、彼を見る。
「怪我を……」
 彼の腕から、血が流れている。
 その血が、床に滴る。

「これが、最期だ」
「西一族の村に、……帰ってしまうのですね」

 部屋の中にいても、東一族の村が慌ただしいと、わかる。
 西一族が、この村に入り込んでいる、と。

 彼は、東一族に見つかったのだ。

 そこで、逃げられたのだから
 そのまま、東一族の村を出てしまえば、よかったのだろうけど。
 彼は、彼女に会いに、来た。

 彼女は、黙って、水と布を準備する。
 彼の手当てをする。

「俺は、さ。西一族から来た諜報員なんだよ」
 彼女は頷く。
 手当てを続ける。

 彼は、彼女を見る。

 あんたから、東一族の情報を聞き出そうとしていた、と

 気付いているのか
 ……いないのか

 彼は、息を吐く。

 ふと、思う。

 自分が、西一族の村に帰って、普通の暮らしに戻っても
 彼女は
 誰とも、会話することもなく
 こうやって、ここに居続けるのだろうか。

「来るか?」
「え?」

 彼の言葉に、彼女は、洗っていた手を止める。

「俺と一緒に、西一族の村に、来るか?」
「……西一族の村、に?」
 彼女は、彼を見る。
「あんたのその容姿なら、西一族と偽ってやっていける」

 外の世界を見ることが出来る。
 東一族なのに白色系の髪だと、……罵られずに、生きていけるじゃないか。

「あんたは、俺によくしてくれた。だから」
 彼が云う。
「俺が、連れて行ってやるよ」
「私も、……一緒に?」
「行こう」

 彼が、彼女の手を引く。
 部屋の外へ向かって、歩き出す

 が

 突然、彼女は、うずくまる。

「どうした!?」
 彼女が首を振る。
「体調が、」
「……ごめんなさい」

 その場にうずくまったまま、彼女が云う。

「私は行けません。……立ち上がれない」

 東一族の村が、さらに、慌ただしくなる。

「早く」
 彼は焦る。
 彼女を立ち上がらせようとする。
 彼女は、彼を振り払う。
「行ってください」
 彼女が云う。
「こんな身体だから、足手まといになってしまう」

 このままだと、村を出られなくなる。
 東一族に、捕まってしまう。

「ごめんなさい」
 彼女が云う。
「ありがとう。本当に、ありがとう」

 彼は、彼女を見る。
「いつか」
 云う。
「いつか、……迎えに来てやる」

「ええ」

 彼女は、顔を上げる。
 苦しいのか、顔をしかめている。

 でも

 笑おうと、している。

「……さようなら」
 彼女がつぶやく。

 彼は、立ったまま、彼女を見つめる。

 窓から、外を見る。
 こちらの方向には、誰もいない。

 もう一度振り返り、彼女を見る。

 そして、

 窓から、部屋を出る。

 東一族の村の外へと、一気に走る。



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