湖面に写った顔は真っ青だった。
酷い顔だ、と、成院は思う。
きっと引きずってでも杏子を連れてくるべきだったのに
さようなら、と杏子が言った後
どうやってその場を離れたのかも覚えていない。
杏子の相手は、死んでしまった婚約者ひとりだけだ。
だから、
成院は自分の思いを伝えたこともない。
杏子も成院の思いを知らない。
それは分かっていた。
けれど
成院が手を差し出しても、彼女は西一族を選んだ。
「俺は」
二番目でも三番目でもない。
そういう事だ。
彼女の婚約者が死んだとき
もしかしたら、なんて思ってしまった。
「そんなやつに、振り向くわけない……か」
杏子は今、幸せなのだろうか。
でも、
成院が杏子のために出来ることは、きっともう、何も無い。
それが、悔しい。
「何やってるんだ、俺」
頭を振って、成院は立ち上がる。
弟の命がかかっている。
陽はもう落ちていて、急がなければと思うのに
どこか混乱していてそれだけに集中できていない。
「薬を、西一族の病院を、探さないと」
無理に自分に言い聞かせている。
そう、分かりながらも
成院は暗闇の中を進む。
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