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「燕と規子」13

2016年04月26日 | T.B.1962年

着いたぞ、と
声をかけられて燕は瞼を開ける。

馬車の中。

どうやら燕は最期のようだった。
差し出された手を
大丈夫、と断って荷台から降りる。

うたた寝をしていたせいか
晴れきらない頭で
辺りを見回す。

久しぶりの再会を喜ぶ人。
待ち人の訃報を聞いて悲しむ人。
気が抜けたように座り込む人。

不思議な雰囲気だ、と思いながら
広場を抜ける。

戦いが終わった後の引き上げは早かった。
特にケガ人は早く戦場から帰された。
足に矢を受けた燕もその1人。

馬車に乗り込む時に
見送った兄に燕は問いかけた。

「和平の話は知っていた?」

兄は困った様な顔をしていた。

「……そんな話があるというのは
 聞かされていた」

「戦いに意味はあったのだろうか」
「意味はある。
 沢山の犠牲が戦いを終わらせた」
「どっちが勝ったわけでもないのに?」
「それでも、だ」

未だに納得が出来ていない弟に
兄は言う。

「終わったんだ、もう。
 お前は帰って足を治すことを考えろ」

兄が決めた事では無い。
それでも。

「俺は、まだ、戦えたよ」

そうか、と
兄は答えた。

燕は広場を抜けて歩く。

歩けるとは言え、
足を引きずる状態では
本当は早く医者にかかった方が良いのだろう。

それ以前に
家に帰り、妻に顔を見せるべきだろうか。

悪いな、と思いながらも、
足はどちらとも違う方向に進む。

船着き場には
水上戦から引き上げて来た
人たちが溢れている。

「………」

そんなやりとりも
おそらく、これが最期。

きっと、彼女は
どんな言葉を掛けようとも
山一族の村へと嫁いでいくのだろう。

それでも燕は
彼女に行くな、と言うのだろう。

船が着く。
以前と同じ
最期に船を降りた彼女に、燕は歩み寄る。


「おかえり、規子」



T.B.1962

西一族の村にて
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