TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「海一族と山一族」49

2018年05月29日 | T.B.1998年

いつもより少し早い時間に目が覚める。
見慣れた寝室を見回す。

「………」

トーマは起き上がると
身支度を整える。

「あら、おはよう」

母屋へと食事に向かうと
すぐ上の姉が先に食事を済ませている。

「今日は香草焼があるのよ。
 好きでしょう、とっておいたわよ」
「ありがと」

席について、食事をはじめたトーマを
姉はまじまじと見つめる。

「………なに?」
「ううん。
 ちょっと寂しくなったわね、って」

カオリの事。
トーマは首を横に振る。

「そんなことはないよ。
 良かったんだ、家に帰れて」
「そう?
 私は妹が出来たみたいで
 少し楽しかったけどな」
「悪かったな、弟で」

そんな会話を交わしながら食事を終えると
いつの間にか時間は過ぎていて
結局いつも通りの時間に家を出る。

「………」

海一族の村では比較的山沿いにある自宅から
広場を横切り港へ向かう。

一連の騒ぎから、数週間。
火事で燃えた船着場の修理も終わり
村もかなり落ち着いて来た。

「ケガはどうだ、トーマ」
「ミナト」

同じ様にここの様子を見に来ていたのだろう。
ミナトが手を振る。

「大した事は無いよ」
「そうか?」
「そうだよ」
「ん」

ミナトがでを差し出すので

「?」

トーマもそうする。

握手。

ギュッと握手。

「痛っっつ!!!!」
「大した事あるようだな」
「ケガしている手を
 力入れて握ればそうなるだろうよ」
「また、ミナトはトーマをからかって」

もう、と、カンナが加わる。

「利き手でしょう。
 ご飯食べるときとか不便よね」

示し併せたかのように
いつもの3人組になる。

「トーマは見張って置かないと
 割と無理するからな」
「ミナトが無理に引きずり込む側だろう」
「そうよね~」
 
こちらが当たり前の日常で
あの日の出来事が特殊だっただけのこと。

何も無いというのは何よりだ。
身に染みて思う、が。

カオリと過ごした数日
アキラに至ってはたった一日の出来事。
それでも、
長い時間を共にしたようだった。

「もうすぐ時間だな」

ミナトが言う。

「俺達もそろそろ行くか」


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「山一族と海一族」52

2018年05月25日 | T.B.1998年

 相容れない一族。
 山一族と海一族。

 その両一族が、大人数で揃っていると云うのは、壮観である。

「アキラ!」

 メグミが、アキラに近寄る。

「無事で、よかったわ」

 その姿をよく見る。

「いえ……、そこそこに無事みたいね」
「そう云うことにしておいてくれ」
「カオリもマユリも!」

 メグミは、ふたりを抱きしめる。

「無事でよかった!」

「さて」

 海一族の長が、声を出す。

「共に、怪我人がいるようだが、」

 アキラとトーマ
 それに、生け贄のふたりは、応急処置を施してもらった。

「これまでの話を聞かせてもらおうか、トーマに山一族」

 アキラとトーマは頷き、これまでのことを話し出す。

 異変には、裏一族が関わっていたこと。
 生け贄は、そもそも裏一族が欲していたこと。
 すべてに裏一族の痕跡があること。

 そして

「もう、生け贄は必要ないんだ」

 トーマが云う。

「犠牲者はもう出ることはない」

 両一族がどよめく。

「生け贄が、」
「必要ない……?」

「俺たちは裏一族に、裏一族のために利用されていたんだ」

 そうは云っても、

 これまで伝統のように続いていた儀式。

 犠牲者が必要とは云え、

 これできっぱりと終わる、と云うことに結論付けるまで
 まだ少し、時間がかかりそうだ。

「まあ、でも」

 トーマは息を吐く。
 アキラも頷く。

 次、この儀式は、早くても10年後。
 時間はまだある。

 それまでにいい方向で、まとまるだろう。

「また改めて、正式な場を取り持つとしよう」
「では、フタミ様にそう伝えます」

 メグミが頷く。

 海一族の長が手を上げる。
 引き返すと云うことなのだろう。

「もちろんトーマもだ」
「え、でも、長」

「早く戻って、手当てをせねば」

「ほら、山一族も皆戻るわよ」
「姉様!」

 カオリはメグミを引き止め、そして、トーマを見る。

「まだ、お礼をしてない……」

「きっとフタミ様から、令状が行くはずよ」
「でも、」

 アキラもメグミを見る。

 すべてのことが終わったのだ。
 だから、山一族の村へ帰るのは、当たり前のこと。

 だが、

 ここで、

「突然にお別れも、」
「淋しいよな」

 アキラの言葉を、トーマが継ぐ。

「お別れ?」

 海一族の長が振り返る。

「お別れ、とは?」
「敵対する一族だけど、それなりに協力をした仲だから」

 トーマは苦笑いをする。

「トーマよ、そんなことを云うようになったか」
「すいません」

 海一族の長は息を吐く。

 アキラはその様子を見る。

「山一族よ」

 アキラと海一族の長の目が合う。

「これからも、トーマのことをよろしく頼む」
「…………?」

「では、」

「はい」

「しかるべき通知を出せば、海一族のへの入村を許可しよう」



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「海一族と山一族」48

2018年05月22日 | T.B.1998年

海一族と山一族。
今まで必要最低限の接触で過ごしていた
二つの一族が揃っている。

「こんなことは、
 今までには無いだろうな」

「トーマ!!」
「ミツナ!!?」

駆け寄ったミツナは
トーマを上から下まで眺める。

「いや~、無事でよかった。
 ケガは、まぁ、そこそこあるな。
 生きてるなら何より」
「なんとか、な」
「カンナや、ミナトも心配していた」
「……そうか」

彼は司祭見習いでもある。
つまり、ミツナの師は司祭。

「……ミツナ、実は」
「司祭様の事?」
「知っているのか」
「いいや」

だが、と
ミツナは何とも言えない表情を浮かべる。

「まぁ、裏一族が紛れ込んでいた事と
 あの場に姿を表さなかった事で
 皆、何となくは察している」

「そうか」

トーマは、コズエとミツグを引き連れている
長と目が会う。

「………」

うむ、と長が頷いて、声を上げる。

「さて、皆!!
 共にケガ人がいるようだ。
 まずは、彼らの治療から行おう」

そして、と長は言う。

「その後に、
 これまでの話しを聴かせてもらおうか、トーマ、それに山一族」

4人はそれぞれに応急処置を受ける。
それが少し落ち着いた頃、
トーマとアキラは共に語り出す。

全ては裏一族が仕組んだ事。
それぞれの一族に巧妙に潜り込み
元からあった別の儀式を
生け贄が必要なものだと改変していった事。
最近起きていた異変も
すべて裏一族の手によるものだったこと。

つまり、

「もう、生け贄は必要ないんだ」

アキラの言葉に続けてトーマが言う。

「犠牲者はもう出ることはない」

「なんだって」
「生け贄が、必要無い?」
「しかし、そんな事があるのか?」
「だが、確かに裏一族は潜んでいたし」

「俺達は、裏一族に
 裏一族のために利用されていたんだ」

両一族のざわめきは続く。

今まで、続いていた伝統の儀式が
もう必要無い、と
皆が受け入れるにはまだ時間が掛かる。

まだ、混乱している者も多いだろう。

「まあ、でも」

トーマとアキラは顔を合わせる。

次の儀式は
早くても十年以上先。
それまでには、皆が結論を出すだろう。

「それについては
 また改めて、正式な場を取り持つとしよう」
「では、フタミ様にそう伝えます」

その場にいる者の中で
ある程度の立場にいるのであろう、山一族の女性が答える。

よし、と海一族の長が手をあげる。
引き返すという事だ。

「もちろん、トーマもだ」
「え、でも、長」

「早く戻って、手当をせねば」

トーマの手のケガは
決して浅い物では無い。

「ほら、山一族も、皆戻るわよ」

山一族側も同じ様に動く。
事態は落ち着いたとは言え
それぞれの村の事もある。

「姉様、」

カオリが山一族を誘導していた女性を引き留め
トーマを見る。

「まだ、お礼もしてない」
「きっとフタミ様から礼状がいくはずよ」
「でも」

トーマも、アキラとカオリを見る。

ここに、これ以上残る理由はない、が

だがここで

「突然にお別れも」
「淋しいよな」

海一族と山一族、
本来であれば相容れない一族同士。

また今度、とは言えない。

「お別れ?」

海一族の長が振り返る。

「お別れ、とは?」

いえ、とトーマは答える。

「敵対する一族だけど、
 それなりに協力した仲だから」
「トーマよ、そんな事を言うようになったか」
「すみません」

トーマの苦笑いに、
長は息を吐く。

「………山一族よ」

長が、アキラを見る。

「これからも、トーマの事をよろしく頼む」
「………?」

「長!?」

驚いているお付きの者に
良いのだ、と告げる。

「しかるべき通知を出せば、
 海一族への入村を許可しよう」


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「山一族と海一族」51

2018年05月18日 | T.B.1998年

 アキラとマユリは、洞窟の外へと向かう。

 マユリの動きはぎこちなくはあるが、それでも動かすことが出来る。

「身体が固まっていたみたい」
「それはそうだろう」
「あら。あれはカオリ?」

 マユリは前の方を指さす。

 その方向に、トーマとカオリがいる。

 アキラが云う。

「カオリも無事のようだな」
「兄様! マユリも!?」
「よかったわ、カオリ」
「ごめんなさい、マユリ。私のせいで……」
「いいのよ」

 ふたりの様子を見て、本当によかったと、アキラとトーマは頷く。

 と

 どこからか、アキラとトーマを呼ぶ声。
 洞窟の外から。

 駆け付けた両一族なのだろう。

「行こう」

 トーマが云う。

「皆に、説明をしなくては」

 これまでのことを、すべて。

「そうだな」
「……少し、休みたいところだが」
「俺もだ」

 4人は歩き出す。

「ところで、」

 マユリはトーマを見る。

「なぜ、海一族と一緒に行動を?」
「それは、あとで、皆への説明を聞け」

 マユリがじろじろとトーマを見るので
 トーマも気になったことを訊く。

「なぜ、あんたが生け贄の代わりだったんだ?」
「私?」
「そう。カオリの生け贄の代わりを、なぜ?」

「それは、」

 マユリが答える。

「私は、カオリの義姉なの」
「義姉?」

 アキラの陰で、マユリは頷く。

「えーっと」

 トーマはカオリを見て、アキラを見る。

「カオリは、アキラの異母妹で」
「ええ」
「マユリの義理の妹……?」
「そう」

 トーマの顔は、訳が判らないと云っている。

「つまり、」

 カオリが云う。

「マユリは、アキラ兄様のお嫁さんなのよ」
「…………ん?」
「お嫁さん」
「……嫁?」
「ええ」
「何!?」

 トーマが驚く中、3人はなぜそんなに? と云う表情。

「山一族すごいな!!」

「何が?」
「何がすごいの?」
「そんなことより」

 マユリが云う。

「あなた、カオリに近すぎやしませんか」
「え?」
「海一族のあなた」
「いや、え? そう?」
「カオリは嫁入り前なので、もう少し離れて」

 マユリはトーマの表情を見る。

「私はハラ家なので、あなたのある程度のことは、」
「いやいや!」

 焦るトーマを見て、カオリは笑う。

「いいのよ。マユリ」
「カオリ?」
「いいの」

 カオリが云う。

「命の恩人だから」

「カオリ……」

 アキラが口を挟む。

「マユリ、放っておけ」
「そうですか」

 マユリは息を吐く。

「アキラ様が云うのなら仕方ありません」

 マユリは何かを取り出す。

「ならば、お近づきの印に。兄弟様」

 トーマに小さな小瓶を握らせる。

「え? 何これ??」

 それを見て、アキラとカオリは笑う。



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「海一族と山一族」47

2018年05月15日 | T.B.1998年

「ところで」

さて、洞窟を抜ける、という所で
山一族のマユリが問いかける。

「なぜ、海一族と一緒に行動を?」

もっともな疑問だが、
話せば長くなる。

「それは、あとで
 皆への説明を聞け」
「はい」

アキラの言葉に頷いたものの
マユリはじっとトーマを見る。

海一族と山一族は普段の関わりがないので
姿を見るのも珍しいのだろうが。
それならば、と
トーマも気になっていた事を尋ねる。

「なぜ、あなたが
 生け贄の代わりだったんだ?」
「私?」
「そう。カオリの生け贄の代わりを、なぜ?」

単純な疑問。

前回の儀式では
海一族の先視が選んだ者が
生け贄になったという。

その時、今の司祭は司祭見習いで
親しい者が選ばれるのを
止める事が出来なかった。

山一族はどうなのだろう。

なぜ、カオリが選ばれ
次にマユリが選ばれたのか。

「私は、カオリの義姉だから」
「あね?」

そう、とマユリがアキラの陰で頷く。
そうか、家族であるのなら、と
思いかけて、んん?と
トーマは首を捻る。

皆をぐるりと見回す。

「カオリは、アキラの妹、で」
「ええ」
「マユリの妹、ん?義理の妹?」
「そう」

ますます、分からない。
みんな兄妹なのだっけ?

「つまり」

カオリが言う。

「マユリは、アキラ兄様のお嫁さんなのよ」

「………ん?」

恋人、ではなく。

「お嫁さん」
「………嫁?」
「ええ」
「何!!??」

どう見ても、アキラやマユリは
トーマと歳も近いだろう。

早っ。

自分は恋人もまだだというのに。

いや。
一族が違えば風習も違うと言うし。
海一族では早い者は居るには居るが
もう少し先が適齢期というか。

「山一族すごいな!!」

山一族の3人は
トーマが驚いている事に驚いている。

「何が?」
「何がすごいの?」

「普通、なのか、これ」

「そんなことより」

マユリが言う。

「あなた、カオリに近すぎませんか」
「え?」

トーマが辺りを見回しているので
念押しをするように続ける。

「海一族のあなた」
「俺?いや、え?そう?」
「カオリは嫁入り前なので、
 もう少し離れて」

確かに、抱きしめたりしたし、
言い寄って無いと言えば嘘になる。

「私はハラ家なので、
 あなたのある程度のことは」
「いやいや!!」

ハラ家。
山一族で占いを司る家系。
全て見てましたよ、なのか
呪いをかけることも可能です、なのか。

トーマが慌てているのを見て
カオリが笑う。

「いいのよ。マユリ」
「カオリ?」
「いいの」

カオリがトーマを見て言う。

「命の恩人だから」

「カオリ……」

トーマも、頷く。

「マユリ、放っておけ」
「そうですか」

アキラが言うなら仕方無いとばかりに
マユリが息を吐く。

「ならば」

と、マユリが懐から小瓶を取り出し
トーマに握らせる。

「お近づきの印に。兄弟様」

「兄弟って、そんな」

少しは認めてくれたのだろうか、と思いつつ
その瓶を見る。

「………」

瓶自体は綺麗な作りだが
中身が濃紫とも、泥とも、深緑ともとれない
なんともいえない色をしている。

「え?何これ??」

義姉さん、怖い。


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