「うーん、びっくり、
そして、びっくり」
水樹は兄の大樹(だいき)に問いかける。
「大樹兄さん、
嗣子って知ってる」
つぐこ、と
しばし時間をかけて、大樹は頷く。
「………確か、
次樹さんの所の、子?」
「おお、兄さんでも疑問系なのか」
「俺だって全員を把握している訳じゃないぞ」
知りたければ
名札管理人の所にでも行くんだな、と。
「いや、簡単に見れる場所じゃないし」
そう言う所ではないのだ。
お役所みたいな。
「戦術大師になれば見れるかもしれん」
「おお、爺ちゃんみたいに!?」
長年戦術大師を勤めた
夏樹爺ちゃんと
武術を教えてくれた
成院は水樹の憧れ。
「で、その嗣子がどうしたんだ?」
「この前初めて会ったんだけど」
ちょっと驚き、びっくり、と
テンション少上り。
「この村に、知らなかった人居るとか
俺もまだまだだな~って」
「いや、名前ぐらいは
みんな知ってると思うぞ」
ついこの前まで
宗主様は宗主様って呼ぶから
本名知らなかったわーとか。
そんな経歴のある水樹だからありうる、と
頭を抱える大樹。
「お前、
得意な事しかしないの直せ」
「突然の飛び火!?」
「武術だけじゃ戦術大師にはなれないからな。
もっと歴史とか、算術とかの座学をだな!!」
いや、それより
常識からか、と
大樹がじっと水樹を凝視する。
「兄さん、俺もう
子どもじゃないんだからさ~」
「俺にとっては
お前と辰樹は同じ立ち位置だ」
「たっちゃんと!?」
もう十六歳になる弟と
生まれたばかりの我が子が同じポジション。
「あら、辰樹の面倒を
見てもらってるのに?」
そういう言い方する、と
お茶を運んでくるのは大樹の妻の篤子(あつこ)。
水樹にとっては義姉(おねえ)さん。
「篤子姉さんお茶ありがとう。
出来ればお菓子も欲しい!!」
「そういう所だぞ!!!!」
聞こえません~、と
耳を塞ぎながら、水樹は篤子に声をかける。
「たっちゃん預かるよ」
「あら、助かるわ」
はい、と
篤子の背から甥の辰樹を受け取る。
「よう、辰樹。
また大きくなったんじゃね」
水樹は辰樹のほっぺをぶいぶい突く。
「そうよ、ちょっと
標準より増え過ぎかしらね」
「マジか~辰樹~」
あ、そうそう、と
大樹は水樹に尋ねる。
「今日、夕飯は
ウチで食べていくだろ?」
「え?」
「そうよ、春巻きなんだけど、
水樹好きだったわよね」
「春巻きっ!!」
言われて、動きが固まる水樹。
「そうよ、キクラゲも入れるわ」
「キクラゲ!!」
「……キクラゲは誘惑ポイントなのか?」
あああ、うーん、と
歯切れの悪い水樹。
「今日は、
兄さん達の飲み会に行く予定で」
兄さんとは大樹の事では無く、
一緒に砂漠の見張り当番をしている
兄貴分達という事で。
「お前、飲めるのか?」
「俺、十六歳だぜ~」
東一族の酒解禁は十五歳から。
「でもあんまり
飲ませてもらえないというか
ご飯食べるの担当というか」
「うん、正しい判断だ」
「そうね、
なんか与えちゃ駄目な気がするわ」
「駄目なの!?」
うんうん、と
納得する大樹篤子夫婦。
「なんというか」
「子どもに飲ませている感」
「十六だって、俺!!」
NEXT