『キック・オーバー』(12)(2012.9.5.シネマート六本木)
初めて試写状の写真を見たときは、正直なところ、メル・ギブソンの人相の変わり様というか、やつれ具合にがく然とした。思えば『ダンス・ウィズ・ウルブズ』(90)でアカデミー賞を取った後から凋落が始まったケビン・コスナー同様、ギブソンも『ブレイブ・ハート』(95)での受賞後は迷走しているのだから皮肉なものだ。
最近のギブソンは、飲酒運転やDV絡みの離婚裁判などのスキャンダルで話題になることが多く、そのやつれ具合も、さもありなんと思えたのだが、今回の映画の出来は思ったほどひどくはなかった。
舞台は、スラム街のようなコミュニティーを形成しているメキシコに実在した刑務所。そこに、国境で捕まった現金強奪犯(ギブソン)が入所したことで巻き起こる騒動が描かれる。
「ハウ・アイ・スペント・マイ・サマー・バケーション」というふざけた原題からも分かる通り、全体のテイストはB級アクションで、ナレーションもギブソンのぼやき気味の独白だ。
何だかなりふり構わぬヤケクソ的なところ(隠し技?としてクリント・イーストウッドの物まねも披露)も多々あるが、もともと彼は演技派の俳優ではなくチンピラ役が似合うような野卑なところに魅力があったのだ。
してみると、この映画はただ原点に戻っただけだと言えるのかもしれない。実際この映画の彼は、見た目よりはずっと生き生きとしていたし、監督はこれがデビュー作ののエイドリアン・グランバーグだったが、B級アクションとしても上出来で、見ていてうれしくなってくるところがあった。メル・ギブソン復活か?