『飢餓海峡』(64)(1994.11.28.)
昭和22年、青函連絡船が台風で転覆し、多くの犠牲者が出た。その同じ日、北海道岩内町の質屋一家が殺害された後、家は放火され、全町を焼きつくす大火事となる。
函館警察の刑事・弓坂(伴淳三郎)は、連絡船事故の遺体が乗客名簿より多く、身元不明の2遺体が岩内の殺人犯3人組のうちの2人だと確信。残る1人の犬飼太吉(三國連太郎)を追跡するが…。
同日に起きた青函連絡船の洞爺丸の沈没と岩内町の大火という実話から着想を得た水上勉の小説を内田吐夢監督が映画化した名作を、およそ20年ぶりに再見。
今回は、内田監督があえて撮影に使用した16ミリフィルムのざらつき感が、ドキュメンタリータッチを助長していることが確認できた。完成までにはいろいろと逸話があるようだが、この映画には内田吐夢の執念を感じる。
また、原作者の水上が「これは(松本)清張さんに影響されて書いた」と語っている映像を最近見たが、水上作品独特の仏教くささが漂う点は異なるが、清張の『砂の器』にも似た、一人二役、悲しい過去の清算故に犯される犯罪、あるいは犯人や刑事の旅の物語としては、確かに通じるところがあると感じた。
その原作を見事にシナリオ化した鈴木尚之の功績も大きい。この時期の彼は、同じく内田吐夢の『宮本武蔵五部作』(61~65)、今井正の『武士道残酷物語』(63)、田坂具隆の『ちいさこべ』(62)『五番町夕霧楼』(63)『冷飯とおさんとちゃん』(65)、加藤泰の『沓掛時次郎 遊侠一匹』(66)などを連作しているのだからすごい。
つまり、内田吐夢の執念と鈴木尚之の見事なシナリオが、この映画を第一級の異色社会派推理劇に仕立て上げたのだ。
それにしても、より複雑で猟奇的な事件を描く昨今の映画に比べると、この映画が描いた、貧しさが遠因となる悲しい犯罪、その裏に潜む純愛といったテーマは同情に値する。この話は犯人も被害者も刑事もみんなどこか悲しいのだ。これは時代の変化によるものなのだろうか。
『私説 内田吐夢伝』(鈴木尚之)
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