『男はつらいよ 寅次郎の縁談』(93)(1994.2.16.丸の内松竹)
このところのこのシリーズには、随分否定的な意見を述べてきたし、それは決して間違ってはいないとも思うのだが、何と今回は久しぶりにホロリとさせられてしまった。それはゴクミから解放された満男(吉岡秀隆)のドラマが膨らんだこともあるが(今回のマドンナの城山美佳子もなかなかいい感じだった)、今回の主舞台となった四国の離れ小島でのドラマに、その昔の『愛の讃歌』(67)を思わせるような、いい味わいがあったことが最大のポイントであった。
こういう、しっとりとしたいいドラマを見せられると、レギュラー陣の老い(渥美清、倍賞千恵子の顔のしわが増え、声の張りも落ちた。撮影の高羽哲夫がメインから退き、ついに笠智衆の姿が消えた…)という、もはや後戻りできない現実を感じながらも、やはり終局まで見続けねばならないか…などという思いも浮かんできてしまう。
そして、併映の『釣りバカ日誌』の質が落ちてきたこともあり、改めてこのシリーズの偉大さを感じさせられたりもする。これは決して喜ぶべきことではなく、むしろローソクの炎が燃え尽きる寸前の一瞬の輝きだとは知りつつも…。何だかジャイアント馬場の32文キックを久しぶりに見せられたような、妙な気分になった。