田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『後妻業の女』

2016-08-28 10:26:02 | 新作映画を見てみた

日本では珍しいピカレスク(悪漢)映画



 結婚相談所で独り身の高齢男性を見付け、その資産を狙って結婚詐欺を行う後妻業の女・小夜子(大竹しのぶ)を主人公に、色と欲にまみれた人間喜劇が展開する。 

 まずは、小夜子と彼女を陰で操る結婚相談所所長の柏木(豊川悦司)、彼らの犯罪を暴こうとする怪しい探偵(永瀬正敏)による、裏をかいたりかかれたりの関係が面白い。

 しかも舞台が大阪なので、関西弁のせりふが絶大な効果を発揮する。深刻な話も笑いに展化してしまう関西弁の“魔力”と鶴橋康夫監督のテンポのいい演出で、実は陰惨な話なのに、まるで吉本新喜劇や漫才を見ているような気分にさせられる。

 本作は、息子を息子とも思わない小夜子、「爺(じじい)をだますのは功徳や」とうそぶく柏木のような、安易に人情には走らない人物を得て、日本では珍しいピカレスク(悪漢)映画になっているが、そこはかとないペーソスも漂うので、どこか昭和の匂いがする。

 だからこそ、「君こそわが命」や「黄昏のビギン」といった昭和歌謡の挿入歌がぴたりとはまるのだ。

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【ほぼ週刊映画コラム】『君の名は。』

2016-08-27 16:36:17 | ほぼ週刊映画コラム
エンタメOVOに連載中の
『ほぼ週刊映画コラム』

今週は

二人を隔てる時間と距離が何とも切ない
『君の名は。』



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『映画の森』「2016年8月の映画」

2016-08-22 08:00:05 | 映画の森
共同通信社が発行する週刊誌『Kyoudo Weekly』(共同ウイークリー)8月22日号で、
『映画の森』と題したコラムページに「8月の映画」として5本を紹介。
独断と偏見による五つ星満点で評価した。

ラインアップは

単純なスポーツヒーローものにあらず『栄光のランナー 1936ベルリン』☆☆☆
驚きに満ちた新たなる映像体験『ジャングル・ブック』☆☆☆☆
アニメ以外で親子そろって楽しめる『ゴーストバスターズ』☆☆☆
大スターとはこういう人のことだ!『健さん』☆☆☆
二人を隔てる時間と距離の切なさ『君の名は。』☆☆

クリックすると拡大します↓



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『ゴーストバスターズ』

2016-08-21 08:00:56 | 新作映画を見てみた

アニメ以外で親子そろって楽しめる貴重な映画



 1984と89年に製作されたシリーズのリブート(再起動版)。大量のゴーストがニューヨークに現れて…という設定は旧作と同じだが、何かと女性の強さが目立つ昨今の世相を反映してか、ゴーストバスターズのメンバーは全て理系女性に様変わり。代わりに“黒一点”のクリス・ヘムズワースが大ボケ演技で楽しませるという趣向だ。

 とは言え、おなじみのテーマ曲は新たなバージョンで引き継がれ、ビル・マーレー、ダン・エイクロイドら、旧メンバーも別の役で顔を見せ、愉快なゴーストたちも健在と、旧作ファンのことも決しておろそかにはしていない。

 懐かしさと新しさが共存した本作は、アニメ以外で親子そろって楽しめる映画としても貴重だ。この手の映画は、遊園地のアトラクションを楽しむような感覚で見るのが一番。理屈はいらない。

 また、この映画には、長々と続いて辟易させられるエンドロールを楽しむための工夫も施されている。最後まで見届けても損はない。

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【ほぼ週刊映画コラム】『健さん』

2016-08-20 17:23:41 | ほぼ週刊映画コラム
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今週は

大スターとはこういう人のことを言うのだ!
『健さん』



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『X-MEN アポカリプス』

2016-08-14 08:00:54 | 新作映画を見てみた

もはや“単品”では楽しめない



 ブライアン・シンガーが監督した「X-MEN」シリーズの第6作。人類初のミュータントであるアポカリプス(オスカー・アイザック)が数千年の眠りから目覚め、間違った方向に進んだ文明を、強力な力で正そうとする。

 今回のテーマは「X-MEN対神」。とは言え、前作を見逃した者には何が何だか分からない。プロフェッサーX(ジェームズ・マカボイ)の“そり頭”の理由はおかしかったが…。

 「アベンジャーズ」もそうだが、もはや“単品”では楽しめないのが困りもの。加えて、シンガーの“狂気”が全編にあふれ、その毒気に当てられたのか、見終わった後でかなりの疲労感に襲われた。

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【ほぼ週刊映画コラム】『ジャングル・ブック』

2016-08-13 16:13:09 | ほぼ週刊映画コラム
エンタメOVOに連載中の
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今週は

驚きに満ちた新たなる映像体験が楽しめる
『ジャングル・ブック』



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【ほぼ週刊映画コラム】『栄光のランナー 1936ベルリン』

2016-08-06 18:07:16 | ほぼ週刊映画コラム
エンタメOVOに連載中の
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今週は

改めて五輪の功罪について考えるきっかけに
『栄光のランナー 1936ベルリン』



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『ぼくのシネマ・グラフィティ』(田中小実昌)『東京映画地図』(宮崎祐治)『ゴジラとエヴァンゲリオン』(長山靖生)

2016-08-03 11:06:31 | ブックレビュー

 1970年代から80年代の映画とそれを取り巻く諸々を綴った田中小実昌の映画日記『ぼくのシネマ・グラフィティ』(83・新潮文庫)を再読。


 
 コミさんの偉いところは、極力試写では映画を見ないこと。ふらりと電車やバスに乗って、安い弁当を買い、街の映画館で映画を見るという姿勢が自由でいい。

 作家と学生という立場こそ違え、この時代はオレも似たような生活を送っていたので、どこかの映画館で、知らず知らずのうちに、コミさんと一緒に映画を見たことがあったかもしれない。

 日記には、映画館までの経路、電車賃、弁当代、入場料なども細かく書かれているので、当時の世相や物価が懐かしく思い出されるところがある。

 映画館で映画を見ると、映画の印象のみならず、その日の天気や気分、一緒に見た人、映画館の設備や雰囲気など、映画を取り巻くさまざまなものもひっくるめて記憶に残る。だから映画館で見た映画のことは忘れないのかもしれない。

 そんな中、偶然にもキネマ旬報連載の『東京映画地図』(宮崎祐治)が書籍化された。 古今の映画の舞台となったロケ地を、イラストと地図も含めて地域ごとに紹介するもの。



 過去の『映画のなかの東京』(佐藤忠男)『東京映画名所図鑑』(冨田均)『銀幕の東京』(川本三郎)といった名著に匹敵する興味の尽きない一冊だ。

 ところで、東京で生まれ育った人間は、ほとんどのことが自分のテリトリー周辺でまかなえてしまうので、地元以外にはあまり足を伸ばさないという傾向がある。

 例えば、江戸城(現在の皇居)を中心に、東西南北に地域分けをすると、自分は、城南で生まれ育ち、40歳を過ぎてから城東に移ってきたので、こちらはほとんど未知の地域だった。

 ところが、住んでみると意外に面白い。おかげで東京を見る目が大きく広がり、街歩きも楽しくなった。そんな、映画と街歩きが好きな者にとっては、この本は恰好のガイドブックと言えるだろう。

 『シン・ゴジラ』は、総監督の庵野秀明が手掛けた「エヴァンゲリオン」の世界をほうふつとさせるものがあるという。

 だが「エヴァンゲリオン」をほとんど見ていないこちらとしては、よく分からない。というわけで、『ゴジラとエヴァンゲリオン』(長山靖生・新潮新書)を読み始める。

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『シン・ゴジラ』

2016-08-02 08:31:08 | 新作映画を見てみた

怪獣映画ではなくポリティカルドラマ



 12年ぶりの“東宝ゴジラ”の復活作。総監督は「エヴァンゲリオン」の庵野秀明。

 ストーリーは、東京湾・羽田沖に突如出現した謎の巨大生物が東京に上陸。蒲田や品川を破壊しながら変態し、完全生物ゴジラとなる、という単純なものだが、東日本大震災と原発事故を経験し、現実が映画を超えてしまった今の日本で、もはや昔ながらの怪獣映画を作るのは無理な話。

 それを反映してか、この映画は、さらに巨大化し、歩く原子炉と化したゴジラは脇役で、主役はゴジラ出現に伴う危機管理を担当する政治家や官僚たちになっている。長谷川博己ら、出演者たちは専門的なせりふを覚えるのが大変だったのではと推察するが、これはもう怪獣映画ではなく、危機管理をシミュレーションするポリティカルドラマである。

 趣としては、“ゴジラ対小林桂樹首相”の感があった84年版の『ゴジラ』の発展形であり、縦割り組織の描き方は『踊る大捜査線』シリーズに近いものがあるか。

 ただ、これまでのゴジラ映画のほとんどが、54年の第一作や前後作とのつながりを持たせるために苦心し、それに縛られて広がりを欠いていたことを考えれば、伊福部昭の音楽やタイトルなどに過去作へのオマージュは示しつつも、しがらみを取っ払って、全くのオリジナルストーリーとしたこの映画は新鮮だった。

 もとより、世界中にいるゴジラファンの全てを納得させる映画を作ることは至難の業。今回もその描き方に賛否は分かれるだろうが、これはこれで十分に面白いと思う。

 ちなみに、上陸後のゴジラの進行ルートは、呑川→JR蒲田駅→京急北品川駅→八ツ山橋(品川神社)。再上陸は鎌倉→武蔵小杉→丸子橋(多摩川台公園)…。かつて自分が住んでいた地やご近所が、ゴジラに破壊される様を目撃するのは複雑な思いがした。

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