田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『旅する映写機』

2015-12-31 20:21:43 | 映画いろいろ

映画を上映すること”に生きがいを感じる人たち



 映画のデジタル化が急速に進む中、シネコン以外の映画館の閉館が相次いでいる。そんな中で、今も現役として頑張っている映画館がある。

 閉館になった映画館から映写機を譲り受けた北海道の大黒座、昭和30年代に作られたカーボン映写機が現役で働く福島県の本宮映画劇場、幻の上映技術“流し込み”を再現している高知県の大心劇場、そして岡山のシネマ・クレール、シネマ尾道、川越スカラ座…など、

 全国各地を訪ね、映写機を媒介にして、映画館を支えてきた館主や映写技師の姿を映し出す。 35ミリフィルムの古い映写機とそれを扱う裏方さんたちに光を当てた珍しいドキュメンタリー映画。オープニングにはすでに閉館したシアターN渋谷の様子も映る。

 映画を仕事にする人、映画を趣味にする人…、映画へのさまざまな愛の形があるが、ここでは“映画を上映すること”に生きがいを感じる人たちが登場する。今や家でも手軽に映画が観られる状況の中で、改めて映画館の存在意義とは何なのかを考えさせられる。

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【ほぼ週刊映画コラム】2015年映画ベストテン

2015-12-30 10:50:52 | ほぼ週刊映画コラム

TV fan Webに連載中の
『ほぼ週刊映画コラム』

今週は、今年最後ということで

2015年映画ベストテン


詳細はこちら↓

http://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1030519

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『消えた声が、その名を呼ぶ』

2015-12-30 00:00:00 | 新作映画を見てみた

私的 2015年外国映画のベストワン



 1915年のオスマン・トルコ。鍛冶職人のナザレット(タリール・ラヒム)は、アルメニア人であるが故に、妻と双子の娘から引き離される。砂漠での強制労働の末に、喉をナイフで切り裂かれ、声を失ったナザレットは、娘に会いたい一心から、レバノン、キューバを経て、最後はアメリカ、ノースダコタにたどり着く。

 トルコで実際に行われたアルメニア人の虐殺を背景に、娘を捜すために、世界を旅する一人の父親の姿を描く。監督は『ソウル・キッチン』(09)などを撮ったトルコ移民のドイツ人ファティ・アキン。原題の「カット」には、喉を切られることと、家族と切り離されることという二重の意味が込められているのだろう。

 この映画の魅力は、壮絶かつ過酷、絶望的ですらあるナザレットの流浪の旅を見せながら、どこか冒険映画を見ているような興奮を感じさせるところだ。ナザレットのサバイバルの様子を見ながら西部劇を見ているような思いにとらわれたが、アキン監督自身も「西部劇的なものを目指した」と語っているとのこと。ライナー・クラウスマンの撮影も素晴らしい。

 また、単なる被害者の話とせず、ナザレットが巻き込まれたやるせない状況を生んだのも人間なら、彼を救う思いやりや慈悲を示すのも人間という、矛盾や不条理を描いて映画に広がりを持たせている。このあたりは、『レイジング・ブル』(80)の監督、脚本コンビである、マーティン・スコセッシとマルディク・マーティンの協力が大きく影響しているのかもしれない。

 声を失いながら娘を捜すナザレットが、サイレントで親子の物語でもあるチャップリンの『キッド』(21)を巡回映画で見て、泣き笑いをする場面が象徴的で印象に残る。

 さて、アルメニア人といっても日本人にはなじみが薄いが、『人間喜劇』などを書いた作家のウィリアム・サローヤン、トルコ政府から弾圧を受けてフランスに移住した映画監督のアンリ・ベルヌイユ、歌手兼俳優のシャルル・アズナブール、テニスのアンドレ・アガシ、そしてこの映画の脚本に協力したマルディク・マーティンらがアルメニア系だという。

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『フレンチ・コネクション』

2015-12-29 10:57:49 | All About おすすめ映画

『フレンチ・コネクション』(71)

アクション映画に革命を

 フランスとアメリカを結ぶ麻薬密売ルート“フレンチ・コネクション”をめぐって、犯罪組織と刑事がハードなアクションを展開させます。この映画の特筆すべきところは、アクション映画に二つの革命をもたらした点にあります。

 一つ目は、むくつけき中年俳優のジーン・ハックマンが、犯罪者を追うためには手段を選ばぬポパイことジミー・ドイル刑事に扮し、単純な正義の味方やヒーローではない型破りな刑事像を構築したことです。ハックマンはこの映画でアカデミー賞主演男優賞を受賞し、映画スターは美男と美女という定説をくつがえしたのです。

 もう一つは、犯罪者を乗せて暴走する列車をドイルが高架下から車で追い掛けるカーチェイスシーンが与えた衝撃の強さでしょう。このシーンは、現在もアクションシーンのカット割りや編集の手本とされます。アカデミー賞では編集賞を受賞しました。

 『エクソシスト』(73)などで大げさな演出を得意としたウィリアム・フリードキン監督ですが、この映画では、寒風の中でピザを食べながら高級料理店で食事をする悪党を見張る刑事といった細かい描写にも冴えを見せます。ポパイ刑事のキャラクターの魅力に加え、暗闇に銃声が響くだけのラストシーンの謎もあり、75年に続編が作られています。

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『フロント・ページ』(74)

2015-12-28 09:00:52 | All About おすすめ映画

シチュエーション・コメディのお手本



 この映画の原作は劇作家のベン・ヘクトとチャールズ・マッカーサーによる舞台劇。ルイス・マイルストン監督の『犯罪都市』(31)、ハワード・ホークス監督の『ヒズ・ガール・フライデー』(40)に続く3度目の映画化です。

 後に『スイッチング・チャンネル』(88)としても映画化されたので合計4回。こうして繰り返し映画化されたのは、脚本が良くできているからに他なりません。シチュエーション・コメディのお手本と言っても過言ではないのです。

 巻き込まれ型のジャック・レモンと胡散くさいウォルター・マッソーという名コンビが、語りの名人ビリー・ワイルダーの演出に乗って大いに笑わせてくれます。

 1920年代のシカゴ、有能な新聞記者のヒルディ(レモン)は、結婚を機に記者を辞め地道な暮らしをすることを決意します。それを知った上司のバーンズ(マッソー)は、ヒルディを辞めさせまいとしてあれこれと策を練ります。

 そんな中、死刑囚(オースティン・ペンドルトン)が脱獄し、記者室に逃げ込んできます。これは特ダネと、彼をかくまいロールデスクの中に隠すヒルディ。再び記者魂に火が付いたヒルディが嬉々としてタイプライターに向かう姿や、ロールデスクを開けようとする他紙の記者とのやり取りは爆笑もの。

 ビンセント・ガーディニア(保安官)、チャールズ・ダーニング、ハーブ・エデルマン、ルー・フリッゼル(記者)、ポール・ベネディクト(役人)、キャロル・バーネット(街の女)といった個性豊かな脇役たちが記者室に出入りする記者や関係者を演じているのも見どころです。

 ラストはあっと驚くどんでん返しに続いて“その後の彼ら”の写真と一口コメントが映ります。笑いの後に哀愁が漂う名シーンですが、実はこれは新人ジョージ・ルーカスの『アメリカン・グラフィティ』(73からのいただき。この時、ワイルダーはすでに巨匠でしたが、意外とちゃっかりしていて、ほほ笑ましくなります。

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『完全なるチェックメイト』

2015-12-27 16:55:17 | 新作映画を見てみた

ボビー・フィッシャーを探して



 米ソ冷戦下の1972年、アイスランドのレイキャビクで行われたチェスの世界選手権。チャンピオンのボリス・スパスキー(ソ連)とチャレンジャーのボビー・フィッシャー(米国)の勝負をクライマックスに、“奇行の天才”と呼ばれたフィッシャーの半生を描く。

 原題は「ポーン・サクリファイス」(歩の犠牲)というチェス用語。多分フィッシャーの指し手に関係しているのだろうが、チェスには無知なのでよく分からない。

 この映画、チェスが分かればもっと面白く見ることができたのかとも考えたが、そうばかりではない。フィッシャーの人間性の掘り下げがなされていないので、彼の変人ぶりが目立つだけ。しかも、対局の様子をきちんと見せないので盛り上がる場面がほとんどない。さらに時代背景の描写も中途半端なので、なぜ人々がこの勝負に熱狂したのかもよく分からないという始末なのだ。

 皮肉にも、チェスの見せ方が見事でルールを知らずとも楽しめた、実在の天才少年チェスプレーヤーを描いた『ボビー・フィッシャーを探して』(93)の存在がかえって際立つことになった。

 フィッシャー役のトビー・マグワイアはエキセントリックな役柄を頑張って演じてはいるが、それ以上でも以下でもないという印象。むしろスパスキー役のリーヴ・シュレイバーの方がもうけ役か。CCRの「トラベリン・バンド」やドゥービー・ブラザースの「レッスン・トゥ・ザ・ミュージック」などの挿入歌は時代を反映していて印象に残る。

 同夜『スティーブ・ジョブズ』も見たので、フィッシャーのマネージャー役のマイケル・スタールバーグとは2本続けて対面することになった。なかなかいい脇役だ。

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『スティング』(73))

2015-12-27 09:00:00 | All About おすすめ映画

いよっ名人芸!



 『明日に向って撃て!』(69)に続いて、監督ジョージ・ロイ・ヒル、主演ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォードのトリオが作り上げた快作コメディです。

 1936年のシカゴ、ギャング組織に仲間を殺されたフッカー(レッドフォード)は、大物詐欺師のゴンドルフ(ニューマン)と組んで、組織のボスのロネガン(ロバート・ショウ)への復讐を企てます。

 この映画は、観客をだますことに腐心して作られているので、ストーリーについてはあまり多くは語れません。実際に見て、だまされる快感を味わって楽しんでもらうのが一番だと思います。

 と言う訳でディテールの紹介を。

 ニューマン、レッドフォードに加えて、レイ・ウォルストン、ハロルド・グールドといった名脇役たちが演じる詐欺師が次々と集まる場面や、彼らがどんな役割を果すのかが見ものです。

 音楽のマービン・ハムリッシュは、20世紀初頭に作られたスコット・ジョプリンのラグタイムピアノ曲を映画に使い、サウンドトラック盤は大ヒットを記録しました。

 また、アカデミー賞の常連であるイーディス・ヘッドが担当した衣装をはじめ、大道具、小道具なども含めて見事に30年代を再現。アカデミー賞では作品、監督、脚色、編集、美術、衣装デザイン、音楽の各賞を受賞しました。

 そんなこの映画は、もちろん、ラストの大どんでん返しを知らずに見る方がいいのですが、そこに至るまでにさまざまな伏線が張り巡らされているので、例え結末を知った後でも何度見ても楽しめます。

 落ちが有名な古典落語も、名人が語れば何度聴いても楽しいではありませんか。見終わった後で、思わず「いよっ名人芸!」と一声掛けたくなる逸品です。

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【ほぼ週刊映画コラム】『クリード チャンプを継ぐ男』

2015-12-26 19:00:28 | ほぼ週刊映画コラム
TV fan Webに連載中の
『ほぼ週刊映画コラム』

今週は

熱き“ロッキー魂”の継承がうれしい
『クリード チャンプを継ぐ男』



詳細はこちら↓

http://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1030205
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『ホット・ロック』(72)

2015-12-26 10:16:55 | All About おすすめ映画

誰も死なない犯罪映画



 原作はドナルド・E・ウエストレイクの「ドートマンダー」シリーズの一編。監督はイギリス出身のピーター・イエーツです。

 アフリカの某国から、博物館にあるダイヤの強奪を依頼されたドートマンダー(ロバート・レッドフォード)。彼は3人の仲間(ジョージ・シーガル、ロン・リーブマン、ポール・サンド)を集めて博物館に押し入り、見事強奪に成功します。ところが、ひょんなことからダイヤは警察から銀行へと移動し、彼らはその後を追うことに…。

 一つのダイヤを狙って3度も泥棒を繰り返すというドタバタな展開は、犯罪アクションというよりも立派なコメディです。そしてラストにはあっと驚く展開が待っています。

 「アフガニスタン・バナナ・スタンド」という不思議な言葉が物語のキーワードになりますが、この映画を見た後は忘れられない一言になるはず。ぜひ確かめてみてください。

 レッドフォード主演の痛快なグループ犯罪劇として後年『スニーカーズ』(92)が作られましたが、この映画の続編のように感じた人も多かったようです。誰も死なない犯罪映画というのもまた乙なものです。

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『おかしなおかしな大追跡』

2015-12-25 09:51:54 | All About おすすめ映画

『おかしなおかしな大追跡』(72
四つのかばんが巻き起こすコメディ



 サンフランシスコを舞台に、外見が全く同じな四つのかばんをめぐって展開されるコメディです。四つのうち、ジュディ(バーブラ・ストライサンド)とハワード(ライアン・オニール)のかばんの中身は極普通のものでしたが、あとの二つには宝石と機密文書が納められていました。それらのかばんがひょんなことから取り違えられて、彼らはスパイや悪漢たちに追われる身となります。

 監督のピーター・ボグダノビッチは映画評論家から転進し、『ラスト・ショー』(71)『ペーパー・ムーン』(73)といった名作を残しました。この映画では、チャップリンやキートンに代表される、サイレント映画のスラプスティック(激しい動作を伴うドタバタ)コメディを再現しています。

 それから、巻き込まれ型のサスペンスという意味ではヒッチコックの映画を参考にしていますし、わがままなストライサンドと気弱で真面目なオニールの関係は、ハワード・ホークスの『赤ちゃん教育』(38)のキャサリン・ヘプバーンとケーリー・グラントのリメークです。

 またオニールが、自身が主演した『ある愛の詩』(71)の「愛とは決して後悔しないこと」という名セリフを、「くだらんセリフだね」と一蹴するシーンもあります。さまざまな映画ネタが散りばめられた“映画狂”ボグダノビッチの面目躍如のコメディをお楽しみください。

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