田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『探偵マーロウ』

2023-05-31 07:57:50 | 新作映画を見てみた

『探偵マーロウ』(202.5.30.オンライン試写)

 1939年、ロサンゼルス。私立探偵のフィリップ・マーロウ(リーアム・ニーソン)のもとに、裕福そうなブロンド美女クレア(ダイアン・クルーガー)が現れ、姿を消した元愛人を捜してほしいと話す。依頼を引き受けたマーロウは捜索を進めるうちに、急成長するハリウッドの裏の世界を知る。

 レイモンド・チャンドラーが生んだハードボイルドヒーローを主人公にした一編。ジョン・バンビルがベンジャミン・ブラック名義で執筆し、チャンドラーの『ロング・グッドバイ』の続編として本家から公認された『黒い瞳のブロンド』を原作に、ニール・ジョーダン監督が映画化。クレアの母親の映画女優役でジェシカ・ラングも出演している。

 恐らく日本の宣伝会社が付けたと思われるが、「リーアム・ニーソン出演100本記念作品」だそうだ。

 マーロウを演じた俳優は多く、中でも、ハンフリー・ボガートとロバート・ミッチャムが当たり役としたが、チャンドラーがマーロウのイメージに合っているとしたのはケーリー・グラントだったという。

 その点、憂いと困惑の表情を得意とするニーソンもちょっと違う気もするが、今回は渋く演じて新たなマーロウ像を生み出している。そろそろアクション物がきつくなってきたニーソンにとっては、今後はこういう役の方がいいのではないか。

 30年代の雰囲気を出すために、建物、車や装飾、ファッション、小道具、照明などは凝ったものを使っているので、そこも見どころ。ただ、イメージとしては、70年代に作られた『さらば愛しき女よ』(75)や(マーロウ物ではないが)『チャイナタウン』(74)に近いものがあると感じた。

 マーロウの相棒になる黒人のセドリック(アドウェール・アキノエ=アグバエ)が面白いキャラクターとして印象に残る。パトリス・ルコントの『メグレと若い女の死』(22)もそうだが、今どきこうした映画が出てくるのはうれしい限り。


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「BSシネマ」『奥さまは魔女』

2023-05-31 06:48:48 | ブラウン管の映画館

『奥さまは魔女』(05)(2005.7.13.ヤマハホール)

 オリジナルは60年代の人気ドラマ。「奥さまの名前はサマンサ。そして、旦那さまの名前はダリーン。ごく普通の2人は、ごく普通の恋をし、ごく普通の結婚をしました。でも、ただ一つ違っていたのは、奥さまは魔女だったのです…」という中村正のナレーションも懐かしい。

 で、そのままリメークしたんじゃ能がないってんで、ひとひねり。リメークドラマ『奥さまは魔女』を製作しようとするが、サマンサ役がなかなか見つからない。困ったところに、ニコール・キッドマン扮する“本物の魔女”が現れる、というもの。

 つまり劇中劇の形でオリジナルとリメークドラマが微妙に交錯していくというわけ。オリジナルのエリザベス・モンゴメリーの印象が強いこともあって、気の強そうなキッドマンはちょっと違う気がしたのだが、結構かわいく演じていた。女優はよく化けると、感心するやらあきれるやら。

 また、ダーリン役のウィル・フェレルも新たなダーリン像を作り上げ、脇役マイケル・ケインとシャーリー・マクレーンもさすがのうまさを見せるが、オリジナルのシーンや音楽が流れると途端にそちらの方に思いが行ってしまうのは仕方がないところか。いささかオリジナルに敬意を払い過ぎたきらいがある。

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『プロ野球通訳奮闘記』『サムライ野球と助っ人たち』

2023-05-30 15:08:48 | ブックレビュー

『プロ野球通訳奮闘記-涙と笑いの異文化交流』(中島国章)(94.日本放送出版協会)

 ヤクルト・スワローズの通訳であるルイジこと中島国章氏による外国人選手に関する裏話集。かの悪名高きジョー・ペヒトーンに始まって、それぞれが魅力的だった、チャーリー・マニエル、デーブ・ヒルトン、レオン・リー、ロベルト・マルカーノ、ボブ・ホーナー、ラリー・パリッシュ、レックス・ハドラー…、そして今のジャック・ハウエル(なぜ彼を首にしたんだ。スワローズに明日はないぞ!)に至るまでのスワローズ歴代の外国人選手たちの興味深い逸話が明かされる。

 先に、横浜ベイスターズの牛込惟浩氏が書いた『サムライ野球と助っ人たち-横浜球団スカウトの奮闘記』にも通じる、通訳という役割の大変さ、言葉を訳すだけにとどまらない選手たちとの交流の様子が垣間見れて興味深かった。大げさにいえば、外国人選手たちの活躍の鍵は、彼ら通訳が握っているといっても過言ではないのだ。


『サムライ野球と助っ人たち-横浜球団スカウトの奮闘記』(牛込惟浩)(93.三省堂)

 大洋ホエールズから横浜ベイスターズで長く通訳を務めた牛込惟浩氏。通訳の大変さは、先に公開された『ミスター・ベースボール』(92)でも描かれていたが、こうした実際にご本人の声で、というのも、本音の部分が出ていて面白かったし、日米の人物交流ものが好きという自分の嗜好にも合っていた。

 マイク・クレスニック(クレス)との不思議な友情、クリート・ボイヤーの素晴らしさ、ジョン・シピンの屈折などがにじみ出てくるあたりに、大洋という恵まれないチームでの牛込氏の奮闘ぶりがうかがえる。


【今の一言】95年に野茂英雄、01年にイチローがメジャーリーグにデビューし、大活躍したことから、日本の野球に対する見方も、これらの本が出た頃からは大きく変わった。そして今は大谷翔平である。来日する外国人選手たちも、昔のようにハナから日本の野球をばかにするような態度は取らなくなった。そして、通訳といえば、今はエンゼルスで大谷の通訳を務める水原一平氏の存在に注目している。


『ミスター・ベースボール』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/f734bd7027874717271fb42d2641cf19

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『渇水』

2023-05-30 08:39:23 | 新作映画を見てみた

『渇水』(2023.5.29.オンライン試写)

 前橋市の水道局に勤める岩切俊作(生田斗真)は、水道料金を滞納している家庭や店舗を回り、料金の徴収および水道を停止する「停水執行」を担当している。

 日照り続きのある夏、市内に給水制限が発令される中、妻子との別居生活が続き、心の渇きを感じる岩切。そんな中、仕事中に育児放棄された幼い姉妹と出会った彼は、その姉妹に救いの手を差し伸べようとするが…。

 河林満の同名小説を原作に、心の渇きにもがく水道局職員の男が幼い姉妹との交流を通して生きる希望を取り戻していく姿を描く。白石和彌監督が初プロデュースし、岩井俊二監督作や宮藤官九郎監督作で助監督を務めてきた高橋正弥が監督デビューを飾った。

 見どころは、平凡で覇気のないな岩切を演じる生田の意外性を感じさせる名演と、岩切を中心に、職場の後輩・木田(磯村勇斗好演)、幼い姉妹(山崎七海、柚穂)、妻(尾野真千子)、そして水道を停められる人々の点描を絡めた人間模様の妙。その中に、水不足、貧困、格差、ネグレクトといった問題を描き込んでいる。

 中山晋平作曲の童謡「シャボン玉」(作詞・野口雨情)と「あめふり」(作詞・北原白秋)の挿入、「太陽も空気もただなのに、何で水は…」というセリフも印象的だが、いろいろな意味で“水”にこだわった映画。近々公開の前田哲監督の『水は海に向かって流れる』と対で見ても面白いかもしれない。 

 後半の展開は原作とは大きく違うという。ラストに訪れる“小さな奇跡”も含めて、高橋監督は“希望”を描きたかったのだろう。「レインメーカー(雨を降らせる人)」という言葉を思い出した。久しぶりに“小品佳作”を見た思いがした。

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「BSシネマ」『グッドモーニング, ベトナム』

2023-05-30 06:20:04 | ブラウン管の映画館

『グッドモーニング, ベトナム』(87)

不思議な味わいのあるベトナム戦争映画
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/18a51a5f698203726e571c4186b68636

「この素晴らしき世界」『グッドモーニング, ベトナム』『12モンキーズ』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/c1c85075e7fe26271580e385dd3e6bbc

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『怪物』

2023-05-29 11:20:15 | 新作映画を見てみた

『怪物』(2023.5.28.オンライン試写)

 舞台は大きな湖のある郊外の町。主な登場人物は、息子を愛するシングルマザーの麦野早織(安藤サクラ)、生徒思いの小学校教師・保利(永山瑛太)、そして少年たち(黒川想矢、柊木陽太)…。それは、子ども同士のけんかやいじめに見えた。しかし、彼らと周囲の人々の食い違う主張は次第に社会やメディアを巻き込み、大事になっていく。そしてある嵐の朝、子どもたちはこつ然と姿を消した。

 監督・是枝裕和、脚本・坂元裕二、音楽・坂本龍一。田中裕子、高畑充希、角田晃広、中村獅童など多彩なキャストが助演する。

 この映画は、大別すると、同じ事象を、母親の早織、担任教師の保利、息子の湊という、三方の異なる視点、それぞれの言い分や考えから描くという、黒澤明の『羅生門』(50)を思わせる映画的な手法を駆使している。映画を見ながら、登場人物に対する気持ちがどんどんと変化していき、物事は一面的に見てはいけないのだと思わされる。

 つまり、一体何が起こっているのか、果たして真相はという一種の謎解きミステリー仕立てで引っ張りながら、本当の“怪物”とは何なのか、誰なのかというテーマを浮かび上がらせていくのだが、最後は明確な結論を出さずに観客に判断を委ねているので、見終わった後に、何かもやもやしたものが残るのは否めない。

 『万引き家族』(18)について、「是枝裕和の映画は、劇映画とドキュメンタリーの狭間で家族というテーマを淡々と描きながら、同時に鼻に付くような作為的なものも感じさせる。そして最後は明確な結論を出さずに観客に判断を委ねるという手法には、それを問題提起や、余韻とする見方もできようが、ある意味、ずるさを感じるところがある。それは、カンヌの常連であるダルデンヌ兄弟の諸作にも通じる点であり、だからこそ是枝映画はカンヌで受けがいいのかとも思う」と書いたが、坂元の脚本を得たこの映画からも同様のものを感じた。

 なじみのある諏訪湖周辺でロケをしたということで、どのように撮ったのかという興味があったのだが、まるで別の町のように見え、つくづく“映画のマジック”を感じさせられた。そして坂本龍一の音楽が美しい。

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「BSシネマ」『優駿 ORACION』

2023-05-29 06:34:09 | ブラウン管の映画館

『優駿 ORACION』(88)(1988.8.7.日比谷スカラ座)
夢や希望の勘違い

 宮本輝のベストセラー小説をフジテレビが映画化。北海道の小さな牧場で生まれた一頭の子馬の成長を軸に、日本一の競走馬を育てることを夢見る牧場主親子(緒形拳、緒形直人)、馬主となった会社社長(仲代達矢)の娘(斉藤由貴)や、腹違いの弟(吉岡秀隆)など、さまざまな人間模様を描く。ドラマ「北の国から」シリーズを手がけた杉田成道の映画デビュー作。

 競馬はレースを展開する馬と騎手だけのものではなく、その馬一頭に、さまざまな人々が夢や希望を託し、馬にも血統という目に見えない重荷があり…というように、一頭の馬にまつわる多様なドラマを描くだけで、感動的な物語を作ることは可能なはずである。

 恐らく、未読の原作にはそうした諸々がもっとうまく描かれているのだろう。ところが、この映画は、登場人物をむやみに殺したり、不幸にしたりすることで、感動をあおるところがある。また、あまりにも音楽を多用し過ぎて、せっかくのいい場面が単なるお涙頂戴のメロドラマに見えてしまう。

 どうせハッピーエンドにするなら、明るくからっと、みんなが幸せというようなものは作れないのだろうか。われわれは現実社会でさまざまな困難を経験しているのだから、映画にまで、これでもかとでもいうように不幸を見せられてはたまらないのである。

 だから、こうした、夢や希望を描く映画で、不幸を描くことで盛り上げられても、かえって暗い気分になるだけで、素直に夢や希望は浮かんでこない。

 その点、ハリウッド映画などは心得たもので、ちゃんとそれぞれの映画が持つ役割や領域を全うしている。所詮これは国民性の違いや、映画製作者のスタンスの違いによるものだから、そうしたものを望む方が無理なのかもしれない。

 馬に対する愛情はよく描かれていただけに、とても残念な気がする。

【今の一言】同じくフジテレビの「オレたちひょうきん族」でやっていた、この映画のパロディが印象に残っている。今思えば、メディアミックスということだったのか。

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カンヌ国際映画祭『パーフェクト・デイズ』の役所広司が男優賞を受賞 脚本賞は『怪物』の坂元裕二

2023-05-28 17:19:14 | 仕事いろいろ

カンヌ国際映画祭、役所広司が男優賞を受賞 脚本賞は『怪物』の坂元裕二

https://tvfan.kyodo.co.jp/news/topics/1388576

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ムービープラス『チャイルド・プレイ』(19)

2023-05-28 14:18:13 | ブラウン管の映画館

『チャイルド・プレイ』(19)

 引っ越ししてきたばかりで友人がいないアンディ(ガブリエル・ベイトマン)のために、シングルマザーのカレン(オーブリー・プラザ)は音声認識やセンサー付きカメラ、高解像度画像認識などの付いた“バディ人形”をプレゼントする。

 人形は自らをチャッキーと名乗るが、実は工場から出荷された際に手が加えられた欠陥品だった。チャッキーはカレンの恋人を手始めに、アンディに関わる人々を次々と殺していく。

 後にシリーズ化もされた『チャイルド・プレイ』(88)をリブート。オリジナルは、人形に連続殺人鬼の魂が乗り移るというオカルト仕立てだったが、今回は改造されたAIが反乱を起こすという現代的な設定になっている。監督はラース・クレブバーグ。チャッキーの声をマーク・ハミルが演じている。

 ホラーとコメディは紙一重だが、この映画の場合はスプラッター要素が強過ぎると感じた。先日見た『M3GAN ミーガン』は、ある意味この映画の“女の子版”だったんだんだなあ。

 映画とは全く関係ないが、チャッキーという名前を聞くたびに、リッキー・リー・ジョーンズの「恋するチャック=Chuck E.'s In Love」のことを思い出す。
https://www.youtube.com/watch?v=82e7GDo3yek


『チャイルド・プレイ』(88)
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/288a6a97de3f7693f1587aaf95ffa274

『M3GAN ミーガン』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/81490b4e61620cb2853836178c65bcf7

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ザ・シネマ『ジョーズ2』

2023-05-27 15:40:03 | ブラウン管の映画館

『ジョーズ2』(78)

 スピルバーグが撮らずにジョー・ジョンストンが頑張って撮った『ジュラシック・パークⅢ』(01)同様、この映画も、青春ドラマの要素を入れながら、ヤノット・シュワルツが頑張って撮っているし、ロバート・ショー、リチャード・ドレイファスという飛車角抜きで、ロイ・シャイダーも頑張りを見せる。

 この後、サメは3Dになったり、ショッピングモールやスキー場に現れたり、砂浜に潜ったり、空を飛んだりと、何でもありの様相を呈していくことを考えると、今更ながら、この映画の真面目な作りが際立つ。

午後のロードショー
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/6177d49c6b0a514ab9850ba7693964ef

『ジョーズ』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/e3f4e551d4ef9c382ae37997f36f4764

 

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