田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

1940年代日本映画ベストテン その4『長屋紳士録』

2021-11-30 12:29:44 | 俺の映画友だち

『長屋紳士録』(47)(1992.2.18.)

 小津安二郎の戦後復帰第一作。従軍体験(記録映画製作など)を経た監督たちの中には、そのおかげで作風が変化したり、映画が撮れなくなってしまった人もいただろうに、小津の復帰作はお得意の長屋物だった。

 しかも、例えば、小津と同じような体験を経て、戦後復帰第一作として『素晴らしき哉、人生!』(46)を撮りながら、その後は尻すぼみになってしまったフランク・キャプラとは違い、小津はこの後も、“家族物”を精力的に撮り続けていったのだから、その頑固さのパワーの源はどこにあったのだろう、などと思ってしまった。

 ところで、この映画の魅力は、飯田蝶子をはじめとする配役の良さはもちろんだが、東京の下町の言葉や風景が極自然に流れてくるところだろう。

 例えば、「ひ」と「し」が逆転した言葉の懐かしい響き、本願寺がそびえ立つ築地周辺の街並みなど、今は失われたものがかえって新鮮に聞こえたり、見えたりもする。

 そして、この映画を見ていると、たとえ物質的には今より貧しくとも、当時の人々の方が心は豊かでたくましかったのではないか、と思えてしまう。戦地から帰った小津は、戦争に負けても、どっこい生きている、こうした庶民のしたたかさに心を打たれたのではないだろうかと思った。

八丁堀『長屋紳士録』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/a7adba119eec37d15de42ba0b271b8b1

 

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「BSシネマ」『哀愁』

2021-11-30 07:30:15 | ブラウン管の映画館

『哀愁』(40)(1974.11.21.木曜洋画劇場)

(1997.3.『淀川長治の証言 20世紀映画のすべて』)

 淀川長治先生の口述速記原稿をリライトするなどという、ありがたくもあるが、恐ろしく骨の折れる仕事が回ってきた。確かに先生が映画を語る術は、神業であり、至芸でもあるのだが、その独特の口調で語られたものを、そのまま原稿にすることはできない。

 加えて、さすがの先生も、88歳という高齢だから、当然記憶が曖昧になっているところもあるし、自分の頭の中のイメージで”脚色"している部分も多々ある。そうしたズレを、こちらがどこまで修正すべきかが、悩ましいところなのだ。

 というわけで、確認のため、ビデオの力を借りてマービン・ルロイ監督、ビビアン・リー、ロバート・テイラー共演の『哀愁』(40)を再見した。約22年ぶりの再見だったが、驚くほど記憶が曖昧で、先生の記憶違いをどうこう言える立場ではないことを改めて知らされた。

 リーは、この映画の1年後に見た『風と共に去りぬ』(39)のスカーレット・オハラ役での、勝気なイメージが鮮明に残っていて、この映画のような、薄幸でかれんな役も似合う美女としての魅力をすっかり忘れていた。今回、見直してみて、小学校時代の初恋の相手だったK・Iは、この映画のリーに似ていなくもなかった、などと増幅された甘酸っぱい記憶がよみがえってきた。

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【インタビュー】『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』フランソワ・ジラール監督

2021-11-30 07:15:00 | インタビュー

 第2次世界大戦前夜のロンドン。9歳のマーティンが暮らすシモンズ家に、類いまれなバイオリンの才能を持ったユダヤ系ポーランド人のドヴィドルが引き取られる。同い年の2人は兄弟のように親しくなって成長するが、デビューコンサートの日に、ドヴィドルが突然姿を消す。35年後、マーティン(ティム・ロス)は、ドヴィドルの行方を追う手掛かりを得て、彼を探す旅に出る。

 バイオリニストをモチーフにした音楽ミステリー『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』が、12月3日から公開される。本作を監督した、カナダ出身のフランソワ・ジラールに、映画への思いを聞いた。

「この映画の価値は、過去に起きた出来事を改めて思い出すきっかけになること」
https://tvfan.kyodo.co.jp/?p=1303379&preview=true

『天才ヴァイオリニストと消えた旋律
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/942ddbd257fffd2ecd48f17363f5020a

 

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1940年代日本映画ベストテン その3『わが青春に悔なし』

2021-11-29 21:01:04 | 俺の映画友だち

『わが青春に悔なし』(46)(1982.5.4.フジテレビ)

 戦前に弾圧された京大の八木原教授(大河内傳次郎)と学生たちの師弟関係と、自我に目覚める教授の娘・幸枝の姿を描く。

 とにかく、原節子演じる幸枝の女性像に圧倒されてしまった。前半の世間知らずのお嬢様らしい高慢さ、愛する男と共に過ごし始めてからのかわいらしさ、後半の鬼気迫るような意思の強さ…。

 実際には、こんな女性はいないだろう。黒澤明は女性を描くのが下手だという批評を目にしたことがあるが、なるほどこういうことなのかもしれないと思った。あまりにも極端で、女性を理想化して描いているところがあるのだ。

 ところで、この映画は、終戦直後に作られているのだが、思うに、黒澤にしろ、脚本の久板栄二郎にしろ、満を持してのものだったのだろう。戦時中は、軍の統制で思うような映画を作ることができなかった彼らが、その悔しさを一気に吐き出した結果、このような社会性を持った力作が出来たのだという気がする。

 戦前の滝川事件とゾルゲ事件に想を得たこの映画には、野毛(藤田進)と糸川(河野秋武)という対照的な人物の間に、ヒロインの幸枝を置いて、彼女の変転を描き込んでいる。

 見ていて、自分も野毛のように理想や信念を曲げずに生きたいと思いながらも、権力側におもねる糸川の方に感情移入してしまった。野毛ほどには強く生きられない、生きていくために理想から挫折してしまう糸川の弱さの方が分かる気がしたのだ。野毛が言うような「顧みて悔いのない青春」は俺にはないなあ。悔いだらけだもの。

 ところが、野毛が逮捕される前に、幸枝に「自分の弱みだ」と言いながら、年老いた両親(高堂国典、杉村春子)の写真を見せるシーンから見方が変わってきた。人間はいくら強がってみたところで、所詮は弱いものだ。だが、その弱さを何とか克服して生きていこうと努力する姿にこそ、人間の本当の強さが表れるのではないかと思わされた。

 その野毛の姿を見たからこそ、幸枝もあそこまで強く生きられたに違いない。そうとでも思わなければ、あのスーパーウーマンぶりは理解できない。

 先頃亡くなった黒澤映画の常連、志村喬が、この映画では珍しく、独いちごと呼ばれる憎々しい特高を演じていた。その芸域の広さを改めて知らされた思いがした。

【今の一言】何と40年前のメモ。青くさくて我ながら恥ずかしくなる。

 

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1940年代日本映画ベストテン その2『姿三四郎』

2021-11-29 08:22:56 | 俺の映画友だち

『姿三四郎』(43)(1982.11.20.千代田劇場.併映『赤ひげ』)

 黒澤明の監督デビュー作。柔道家・姿三四郎の成長を描いたストーリーは、すでに竹脇無我主演のテレビドラマでなじみがあった。では、その有名なストーリーを、黒澤がどう映像化したのか、という点に興味が湧いた。

 微速度撮影やスローモーション、ワイプなどを駆使して撮られたシーンには、今見てもすごいと思わされるものが少なくない。

 例えば、三四郎(藤田進)と門馬(小杉義男)の試合、三四郎と村井半助(志村喬)の娘小夜(轟夕起子)との出会いの積み重ね、池に飛び込んだ三四郎の目の前の蓮の花が静かに開くシーンと、檜垣源之助(月形龍之介)がたばこの吸い殻を乱暴に花の中に入れるシーンとの対比、矢野正五郎(大河内傳次郎)と門馬たちの決闘、そしてラストの右京が原での三四郎と檜垣の決闘における雲の流れ…。こうして思い返してみると、印象的なシーンが多いことに気付く。

 特に、三四郎と村井の試合の描写を見ながら、黒澤が本格的にスポーツ物(特に格闘技)を撮っていたら、すごいものができたのではないか、という気がした。

 ストーリー展開は決してうまいとは言えないが、カットされたことや、当時はまだ未熟であったろう黒澤の腕、あるいは戦中という時代背景を考え合わせれば、仕方がないとも思える。

 藤田進、大河内傳次郎、月形龍之介らが、皆それぞれ若くてはつらつとしていて驚いたが、何と言っても、轟夕起子が魅力的だった。加えて、志村喬が、若い頃からこうした老け役を見事に演じていたことにも気づかされた。

 このように、今はもう亡くなってしまった人や年老いてしまった人たちの若き日の姿が見られることも、古い映画の魅力の一つであろう。 

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1940年代日本映画ベストテン その1『無法松の一生』『風の又三郎』

2021-11-29 00:07:00 | 俺の映画友だち

 さる映画同好会で、1940年代日本映画ベストテンのアンケート結果が発表された。最多得票を集めたのは、監督・稲垣浩、脚本・伊丹万作、主演・阪東妻三郎の『無法松の一生』(43)だった。

 自分が選んだベストテン(製作年度順)は以下。間に戦争があったので、この結果は仕方ないかな…。というか、改めて、自分は黒澤映画が好きなのだと実感した。

『風の又三郎』(40)(1993.10.)

 宮沢賢治の原作を映画化。監督は島耕二。主人公の高田三郎を演じたのは息子の片山明彦。子役時代の大泉滉も出演。後年の『風の又三郎 ガラスのマント』(89)よりも、映像的には稚拙だが、原作の雰囲気がよく出ているのはこちらの方だと思う。

『無法松の一生』(43)
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/e0547cf601cdd13e9f0608808382b7a6

『無法松の一生』「月曜ロードショー」荻昌弘さんの名解説
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/c318bbcce6bb2d8ecd37240b74fe6953

(続く)

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「和田誠展」からピックアップ

2021-11-28 11:16:18 | 雄二旅日記

「和田誠展」(東京オペラシティアート・ギャラリー)からピックアップ。

『生きる』『シェーン』『アパートの鍵貸します』『手錠のまゝの脱獄』『十二人の怒れる男』『ヴェラクルス』『イエロー・サブマリン』『ジョン・フォード』『華麗なるギャツビー』『マルタの鷹』「ヒカリエ壁面画」

 

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「BSシネマ」『決斗!一対三』

2021-11-27 07:46:14 | ブラウン管の映画館

『決斗!一対三』(52)

 テキサスに実在した賭博師で無法者としても名高いジョン・ウェス・ハーディンの自伝を基に、賭博と決闘に明け暮れた波瀾万丈の半生を描く西部劇。監督ラオール・ウォルシュ、脚本バーナード・ゴードン。原題は邦題とは全く違う「THE LAWLESS BREED」。

 聖職者で厳格な父(ジョン・マッキンタイア)に反発して家を出た青年ウェス(ロック・ハドソン)は、賭博が元で人を殺してしまう。追われる身となったウェスは酒場女のロジー(ジュリー・アダムス)に助けられ、2人で逃亡するが…。

 いい加減で荒っぽい進行やご都合主義が目に付くのだが、テンポがいいからついつい見てしまうといった感じ。何しろ83分で全ての方を付けてしまうのだから…。最近のやたらと長いだけの映画とは比べるべくもない。

 前半の若き日は、役柄のせいもあり、でくのぼうのように見えるハドソンだが、後半の老けた姿はなかなかよかった。酒場女から農婦に変身する相手役のアダムスは『大アマゾンの半魚人』(54)のヒロインが有名だが、最近まで長く活躍した。

 また、この映画は脇役が楽しい。主人公の父と叔父の二役を演じたマッキンタイア、ヒュー・オブライエンとリー・バン・クリーフ(砂塵の中で撃たれる)とマイケル・アンサラが兄弟とは…。デニス・ウィーバーやコメディリリーフ的な葬儀屋も登場する。

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【ほぼ週刊映画コラム】『ディア・エヴァン・ハンセン』

2021-11-25 10:38:25 | ほぼ週刊映画コラム

共同通信エンタメOVOに連載中の
『ほぼ週刊映画コラム』

今週は
ブロードウェーのヒットミュージカルを映画化した
『ディア・エヴァン・ハンセン』

詳細はこちら↓
https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1303424

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「BSシネマ」『ニュー・シネマ・パラダイス』

2021-11-25 07:18:36 | ブラウン管の映画館

『ニュー・シネマ・パラダイス』(89)

80年代に映画館で見た最後の映画
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/2d2f25fcdaf56b54e33bef898be9e0ec

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