『ディア・エヴァン・ハンセン』(2021.10.28.東宝東和試写室)
ブロードウェーのヒットミュージカルを映画化。『ワンダー 君は太陽』(17)のスティーブン・チョボウスキーが監督し、音楽を『ラ・ラ・ランド』(16)など、ヒットミュージカル映画に携わってきたベンジ・パセック&ジャスティン・ポールが担当。今年の東京国際映画祭のクロージング作品。
高校生のエヴァン・ハンセン(ベン・プラット)は友達もなく、母(ジュリアン・ムーア)にも心を開けずにいる。ある日、医者の勧めで自分宛に書いた「Dear Evan Hansen(親愛なるエヴァン・ハンセンへ)」から始まる手紙を、図らずも同級生のコナー(コルトン・ライアン)に持ち去られてしまう。
後日、校長から呼び出されたエヴァンは、コナーが自殺したことを知らされる。悲しみに暮れるコナーの両親(ダニー・ピノ、エイミー・アダムス)は、エヴァンの手紙をコナーが書いたものと勘違いし、息子とエヴァンが親友だったと思い込む。彼らをこれ以上苦しめたくないと考えたエヴァンは、思わず話を合わせ、促されるままに、ありもしないコナーとの思い出話を語る。
その後、エヴァンの語った作り話が人々の心を打ち、SNSを通じて世界中に広がり、ひそかに思いを寄せていたコナーの妹ゾーイ(ケイトリン・デバー)とも親密になるが…。
手紙、身代わり、成りすまし、噓も方便…、これは古典劇『シラノ・ド・ベルジュラック』の変型ではないかと思ったが、それをミュージカル仕立てにし、若者が抱く精神的な苦痛やSNSの功罪を反映させているところが、今の映画の証しだ。
前半は、『ワンダー 君は太陽』を撮ったスティーブン・チョボウスキーらしく、善意の嘘によって弱者が救われていく姿が描かれるが、同時に、こんなことがいつまでも続くはずがない、一体エヴァンはいつまで噓をつき続けるのかという、心配ややるせなさを感じる。だから、曲に乗ることもできずに、ずっと落ち着かない気分を抱いたまま見続けることになる。
決して救済を描いたものではないところが、逆にリアルなのか。自分の中でも、もう一つ評価が定まらず、もやもやした気持ちが残った。
『ワンダー 君は太陽』
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