田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『バルド、偽りの記録と一握りの真実』

2022-10-31 09:35:45 | 新作映画を見てみた

『バルド、偽りの記録と一握りの真実』(2022.10.30.よみうりホール.東京国際映画祭)

 ロサンゼルスを拠点に活躍する著名なジャーナリストで、ドキュメンタリー映画製作者のシルベリオ・ガマ(ダニエル・ヒメネス・カチョ)は、国際的な賞の受賞が決まり、一時母国メキシコへ帰ることになる。その旅の過程で、シルベリオは、自らの内面や家族との関係、過去の問題と向き合うことになる。

 アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督にとっては、『アモーレス・ペロス』(00)以来、20数年ぶりに故郷メキシコで撮影した作品で、自伝的な要素を盛り込み、故郷への愛憎を絡めながら、一人の男の心の旅路を描いている。

 共同脚本はニコラス・ヒアコボーネ。撮影監督のダリウス・コンジが、35ミリフィルムでメキシコの風景とシルベリオの心の風景を美しくとらえた。

 今回は、事前に記者会見を取材し、この映画に対する監督自身の思いや意図を聞き、この日も上映前の舞台挨拶で、ルイス・ブニュエルの言葉を引用しながら、「映画は夢である。論理のスイッチをオフにして見てほしい」と言っていたので、まあ、ある程度の予想はできたのだが、実際は予想を遥かに超えていた。

 何しろ、夢(幻想)と現実が入り混じったイニャリトゥ監督自身の心象風景を延々と見せられるのである。しかもストーリーも無きに等しいのだから、我慢比べの2時間40分という感じもした。正直なところ、自分も睡魔に襲われる瞬間が何度かあったし、隣の席からはいびきが聞こえてきた。

 では、全く取るに足らない映画だったのかといえば、決してそうではないのだから困ってしまう。前半は困惑が先行したが、慣れてくるに従って、良くも悪くも、とんでもない映画を見ているという気分になり、魅力的なショットにも助けられて、好奇心を刺激された。

 これは、イニャリトゥ流の、フェデリコ・フェリーニの『81/2』(63)であり、ボブ・フォッシーの『オール・ザット・ジャズ』(79)であり、黒澤明の『夢』(90)であり、ブニュエルや晩年の大林宣彦の諸作とも通じるものがあると感じた。

 『燃えよドラゴン』(73)のブルース・リーのセリフじゃないが、まさに「Don't think! Feel=考えるな!感じろ!」という映画だったのだ。こういう映画を作らせてしまうNetflixは、ある意味すごいというべきか。

 監督の分身であるヒメネス・カチョが難役を見事にこなしていた(『オール・ザット・ジャズ』でフォッシーの分身を演じたロイ・シャイダーとも重なる)。

 さて、この遺言のような映画を撮った後、イニャリトゥ監督はどこに向かうのだろうと思った。

 【蛇足】会場のよみうりホールは、中学生時代に初めて試写会で映画を見た所(『ドラゴンへの道』)なので、思い出深い劇場なのだが、今回は前席に大きな外国人が座ったため、頭が字幕に重なって難渋させられた。


アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督来日記者会見
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/a2baaf10ba01fe7aa28ebc2be8c10922


『レヴェナント 蘇えりし者』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/b565179d9ee78f4e134844d89c2b8cca

『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/aab60f354c98d323d1f4f96ad5b9d97b

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「BSシネマ」『俺たちは天使じゃない』

2022-10-31 06:15:57 | ブラウン管の映画館

『俺たちは天使じゃない』(89)

 1935年、カナダとの国境近くの州刑務所から、凶悪犯のボブ(ジェームズ・ルッソ)が死刑執行直前に脱獄、近くにいたネッド(ロバート・デ・ニーロ)とジミー(ショーン・ペン)も巻き込まれ、はからずも脱走することに。国境に近い町にやってきた2人は、到着予定の神父と間違われ、修道院で暮らすことになるが…。共演はデミ・ムーア。監督はニール・ジョーダン。

 デ・ニーロが製作総指揮も務め、ハンフリー・ボガート主演の同名映画をリメークした。

『俺たちは天使じゃない』(55)
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/1c7b3c237569d943a91bb54fe267316e

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ノア・バームバック『イカとクジラ』

2022-10-30 10:26:51 | BIG ISSUE ビッグイシュー

『イカとクジラ』(05)(2006.8.18.聖路加ソニーピクチャーズ試写室)

 突然離婚した両親と彼らに振り回される息子たち…という4人家族をシニカルかつコミカルに描く。ウディ・アレンの線を狙ったスケッチドラマなのだが、ノア・バームバック監督の趣味や、独り善がりで思わせぶりな描写が多いため、登場人物の誰にも感情移入が出来ず、見ていてどうにも落ち着かない。親父役のジェフ・ダニエルズはこの役で“新境地開拓”なのだろうか。ウェス・アンダーソン絡みの映画はどうも苦手だ。


『ビッグイシュー日本版 第63号』(2006)


『ヤング・アダルト・ニューヨーク』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/d79a4aa4f89c5dc2ae406393d233b5a8

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『ホワイト・ノイズ』

2022-10-30 10:05:57 | 新作映画を見てみた

『ホワイト・ノイズ』(2022.10.29.よみうりホール.東京国際映画祭)

 化学物質の流出事故に見舞われ、死を恐れる大学教授のジャック・グラドニー(アダム・ドライバー)が、妻バベット(グレタ・ガーウィグ)の秘密を知る。夫婦が“死”を身近に感じる環境下で、愛や幸福感といった漠然とした問題と向き合っていく。

 ドン・デリーロの同名小説を、『イカとクジラ』(05)『ヤング・アダルト・ニューヨーク』(14)のノア・バームバックの監督、脚本で映画化。

 人間には生まれたその時から、死への道を進み始めるという不条理がある。死への恐怖に取りつかれた夫婦の姿を、シュールに描いたブラックコメディー。

 全体的にはウディ・アレンやウェス・アンダーソンの諸作をほうふつとさせる。特に、夫婦がたどり着いた“楽観”に『ハンナとその姉妹』(86)のラストを思い出した。それにしてもドライバーはこういう映画にはぴったりの怪優だ。

 また、オープニングの騒々しい家族の日常風景の長回しはロバート・アルトマン風、事故後の家族の様子はスピルバーグの『未知との遭遇』(77)を思わせるところもある。

 東京国際映画祭の一環ということで、会場は外国人の観客も多く、彼らは頻繁に笑っていたが、正直なところ、何で笑っているのか分からないところもあった。こういう映画を見る場合は、言葉や生活習慣の違いが大きく作用すると改めて感じさせられた。

 とはいえ、この映画はNetflix製作の配信もので決して大作ではないのだが、こうして劇場で見ると、やはり「映画を見た」という気分にはなる。

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『バルド、偽りの記録と一握りの真実』アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督来日記者会見

2022-10-29 16:58:31 | 仕事いろいろ

 イニャリトゥ監督「この映画は、私の個人的な視点に起因していますが、父性、喪失感、愛情、不確かな感情といった、普遍的なテーマを描いています」

https://tvfan.kyodo.co.jp/news/topics/1356625

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『すずめの戸締まり』

2022-10-29 12:10:34 | 新作映画を見てみた

『すずめの戸締まり』(2022.10.28.東宝試写室)

 九州に暮らす17歳の岩戸鈴芽=すずめ(声:原菜乃華)は、扉を探しているという旅の青年・宗像草太(声:松村北斗)に出会う。彼の後を追って山中の廃墟にたどり着いた鈴芽は、古びた扉を見つけ、引き寄せられるようにその扉に手を伸ばすと、不思議な現象が起きる。

 やがて、日本各地で次々と扉が開き始める。扉の向こう側からは災いがやって来るため、鈴芽は扉を閉める「戸締まりの旅」に出ることに。数々の驚きや困難に見舞われながらも、前へと進み続ける鈴芽だったが…。

 日本各地の廃墟を舞台に、災いの元となる「扉」を閉める旅に出た少女の冒険と成長を描いた長編アニメーション。

 『君の名は。』(16)の彗星衝突、『天気の子』(19)の異常気象、そしてこの映画と、新海誠監督の映画は、緻密な風景描写を背景に、天変地異とボーイ・ミーツ・ガールを融合させるパターンの繰り返しだが、今回は、鈴芽が旅する、九州から愛媛、神戸、東京、東北へのロードムービーとしての要素を加えている。

 東日本大震災から10年余を経て、震災が与えた結果を直視し、亡くなった人への思いをファンタジーに仮託して描くという点では、先に公開された『天間荘の三姉妹』と通じるところがあると感じた。

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【ほぼ週刊映画コラム】『アムステルダム』『チケット・トゥ・パラダイス』

2022-10-29 08:01:04 | ほぼ週刊映画コラム

共同通信エンタメOVOに連載中の
『ほぼ週刊映画コラム』

今週は
監督はつらいよ『アムステルダム』『チケット・トゥ・パラダイス』

詳細はこちら↓
https://tvfan.kyodo.co.jp/?p=1356579&preview=true

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「金曜ロードショー」『君の名は。』

2022-10-28 09:34:16 | ブラウン管の映画館

 『すずめの戸締まり』の公開を前に、『君の名は。』(16)

【コラム】「君の名は。」、中高年になつかしさ すれ違いドラマの伝統踏襲」
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/e5d9e9f65378287add2d012701915d3e

【ほぼ週刊映画コラム】『君の名は。』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/5691ae0a3c38476568b1c4fc335d731f

 

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「BSシネマ」『ワイルド・アパッチ』

2022-10-28 06:19:26 | ブラウン管の映画館

『ワイルド・アパッチ』(72)

「ザ・シネマ」
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/b54f0bb3543e207691551a7b987ae8ea

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「午後のロードショー」『キリング・ゲーム』

2022-10-28 06:12:09 | ブラウン管の映画館

『キリング・ゲーム』(13)(2013.10.30.ショウゲート試写室)

 アパラチア山脈に山小屋を構え、一人暮らしをしている元アメリカ軍人のベンジャミン(ロバート・デ・ニーロ)。そんな彼の前にセルビア人の元兵士コヴァチ(ジョン・トラボルタ)が現れ、一緒に狩りを楽しむことに。ところが、山へ足を踏み入れるや、コヴァチはベンジャミンに向けて矢を放つ。

 デ・ニーロとトラボルタが、人里離れた山奥で壮絶なサバイバルゲームを繰り広げる。2人の対立の背景にはボスニア紛争があるが、その設定は取って付けただけで、いささか上滑りしている感がある。

 デ・ニーロ、山奥、鹿とくれば、『ディア・ハンター』(78)を思い出すところもあるが、ここまでハードに、いじめや痛みを執拗に描く点では、“サド・マゾ映画”といえるかもしれない。とにかく痛そうで、見ていてつらくなった。監督は、マーク・スティーブン・ジョーンズ。

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