『ミッドナイト・イン・パリ』(11)(2012.6.3.丸ノ内ピカデリー)
現実をしっかりと生きるべし
夫:久しぶりにウディ・アレンの映画を映画館で見たなあ。皮肉屋の彼にしては、正攻法のロマンチック映画に仕上げていたので、随分丸くなったなあと感じたよ。
妻:とにかく画面がとてもきれいだったわ。
夫:まずオープニングのパリの点描が見事。こちらもパリを訪れたような気分にさせてくれる。ニューヨークを点描した『マンハッタン』(79)のオープニングを思い出した。あっちはモノクロだったけどね。
妻:特に、光と闇に浮き上がる昔の夜のパリの街が素晴らしい。マリオン・コティヤールが雰囲気があってよかったわ。
夫:オーウェン・ウィルソンの演じる脚本家が、1920年代にタイムスリップしてコール・ポーター、F・スコット・フィッツジェラルド、ジャン・コクトー、ジョセフィン・ベイカー パブロ・ピカソ、サルバドール・ダリ、ルイス・ブニュエル、マン・レイ、そしてアーネスト・ヘミングウェイらと交流する。これはアレン自身の願望を描いているんだろうね。
妻:彼が憧れる、才能にあふれたスノッブな人たちに会いたい、ってことかしらね。
夫:さすがに現代と20年代をつなげる話の転がし方がうまいし、さり気なくタイムスリップするところもいいね。アカデミー脚本賞の受賞も納得。
妻:あり得ないーと思うんだけど、妙に気持ちが入っちゃたわ。
夫:タイムスリップものではないけど、アレンが描いた非現実的な物語としては、映画の登場人物がスクリーンの外に出てくる『カイロの紫のバラ』(85)の味わいがこの映画に近いかな。
妻:ミア・ファローの不思議ちゃんぶりが、現実逃避するヒロイン役にぴったりだったね。物悲しい結末なんだけど、彼女のキャラクターのおかげでしんみりしすぎないのよ。
夫:ところがこの映画では、ただのノスタルジーで終わらせないところにアレンの真骨頂が発揮される。たとえ、憧れの過去へ行っても、その時代の人間はさらなる過去に憧れているという皮肉を描き、いくら過去に憧れてもきりがないと説く。そして、さればこそ現実をしっかりと生きるべしという前向きな結論を引き出す。これは、主人公が悩みの果てにたどり着いた楽観を描いた『ハンナとその姉妹』(87)のラストシーンとも相通じるものがあるんだな。
旧ブログ「お気楽映画談議」より