最後の新橋文化
名画座案内のフリーペーパー「ミニシアターかんぺ8」所載の新橋文化劇場閉館に関する従業員の方のコメントを転載し、感謝の気持ちをこめて新橋文化への別れとしたい。
「昭和32年より続いた当館も、いよいよこの月で最後です。遺書みたいな8月の番組は、セガールの台詞に何かを託しました。今まで来て頂いたお客様、今まで当館に関わった人々、今まで上映した全ての映画に感謝を込めて。小さなスクリーン、ボロいスピーカー、明るい場内、止まない電車音…。ここで見た映画を思い返す時、そんな劇場の記憶も共にあれば嬉しいです」
セガールの台詞とは『エグゼクティブ・デシジョン』(96)でセガールがカート・ラッセルに言った「後は任せたぞ」のことか…。最後まで決して気を抜かず、上映前は入口で丁寧に対応し、休憩中は館内の隅々まで清掃する従業員の方の態度も映画以上に素晴らしかった。ありがとう新橋文化 さらば新橋文化!
2012年11月に取材した違いのわかる映画館「新橋文化劇場」
http://season.enjoytokyo.jp/cinema/vol25.html
続さらば新橋文化劇場
昨日は長年親しんだ新橋文化劇場の最終日ということで同好の士である友人と共にその“最期”を看取りに行った。
満員の観客の中で、壁に貼られた「昔の上映映画のポスター」に囲まれながら見た最後のプログラムは、美女軍団が殺人鬼に立ち向かう、痛快バイオレンス『デス・プルーフinグラインドハウス』(07)と、孤独な青年の姿を通して、腐敗したニューヨークの狂気と混乱を描く、言わずもがなの『タクシードライバー』(76)。ひたすらアクション洋画の2本立てにこだわって上映してきた、いかにもここらしい2本で締めくくってくれた。2作の共通項はバイオレンスと車、そしてグラインドハウス(B級映画を2、3本立てで上映する映画館)でこそ真価を発揮する映画であるということ。
『デス・プルーフinグラインドハウス』は、タランティーノの趣味趣味の映画で、いつものようにおしゃべりが過ぎて鼻につくところもあるが、この映画を通して、『バニシング・ポイント』(71)や『ダーティ・メリー/クレイジー・ラリー』(74)、引いてはB級アクション映画全体への彼の偏愛ぶりを見ると、こいつも自分と同じような映画が好きなんだなあと共感させられる部分も多々ある。カート・ラッセルが女たちにボコボコにされるラストで館内に歓声と拍手が沸いたのがうれしかった。
『タクシードライバー』を映画館で見るのは実に37年ぶりのこと。ニューヨーク、ダウンタウンの光のカクテル、スモークが漂い、濡れたアスファルトの中、タクシーを走らせるトラビス(ロバート・デ・ニーロ)。そこにトム・スコットのアルトサックスがけだるく流れるオープニングを見ていると、「あー70年代の音と色だ」と感じて、別に泣ける場面でもないのに何故か目頭が熱くなった。
どちらもDVDではなく映画館で見ることでその良さが分かる2本。見事な“ラストショー”だった。
『ほぼ週刊映画コラム』
今週は
すごいぞ唐沢寿明!
『イン・ザ・ヒーロー』
名台詞は↓
「俺がやらなきゃ誰も信じなくなるぜ。
アクションには夢があるってことを」
by本城渉(唐沢寿明)
詳細はこちら↓
http://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/963852
「映画で見る野球 その4」 番外編
『がんばれ!ベアーズ』3部作(76~78)の舞台はリトルリーグ。もちろん、子役時代のテイタム・オニールが快速球を投げるピッチャーを演じた第一作が一番の出来。最終作では日本に遠征する。
一方、『サンドロット/僕らがいた夏』(93)では、アメリカ版の少年たちの“空き地野球”がノスタルジックに描かれる。主人公の少年の夢の中にベーブ・ルースが現れ、ある選手のカードを見ながら「どうもこいつのことが気になってしょうがない」と語るシーンがある。その選手とは、後にルースの通算ホームラン記録を破る若き日のハンク・アーロンだった…という楽屋落ち的な楽しいシーンもある。少年はやがてロサンゼルス・ドジャースの専属アナウンサーとなり、ドジャースの選手となった親友のプレーを実況するという、夢のような落ちが着くのもいい。
マイナーリーグを舞台にしたものでは、ケビン・コスナーがベテランキャッチャー、ティム・ロビンスが若手ピッチャーに扮した『さよならゲーム』(88)と、ベテラン投手ロイ・ディーンの夢を新人の黒人投手が引き継ぐ『ワン・カップ・オブ・コーヒー』(91)がある。好みは分かれるだろうが、私見では断然後者がいい。1950年代末のマイナーリーグのうらぶれた雰囲気が出色で、野球しか生きる術を知らない男の悲哀がにじみ出る佳作だ。ちなみに“ワン・カップ・オブ・コーヒー”とは、コーヒー一杯を飲む間(あっという間)しかメジャーリーグにいられなかった選手を表すスラング。マイナーリーグの厳しい現実があればこそメジャーリーグの輝きがあるのだ。
珍しく日本のプロ野球が舞台になった作品では、二ューヨーク・ヤンキースから中日ドラゴンズにトレードされた強打者ジャック・エリオット(トム・セレック)の姿を通して日米の違いが露わになる『ミスター・ベースボール』(92)がある。監督役は高倉健。セレックも健さんも野球経験はほとんどなかったというが、名選手と監督らしく見せてしまうところが映画のマジックだ。2人の間で苦労する通訳(塩屋俊が好演)がこの映画の主人公だという見方もできる。
さて4回にわたってつらつらと述べてきたが、ではあなたが一番好きな野球映画は?と問われたら迷うことなく『フィールド・オブ・ドリームス』(89)だと答えるだろう。トウモロコシ畑、ベースボール、そして奇跡。アメリカの善の部分と、野球が持つスピリチュアル的な要素がこれほど素直に表された映画は他にない。
最後に、ケン・バーンズが製作したドキュメンタリー『ベースボール』(94)を紹介しよう。本作は、1イニングを1時間とし、9イニング×2の18時間にわたって野球の歴史を描く超大作。ダイジェスト版しか見ていないので、いつの日かその全編に目を通してみたいと思っている。
ビッグX、リチャード・アッテンボロー逝く
渋い脇役として、また監督としても活躍した英国出身のリチャード・アッテンボローが亡くなった。90歳。介護施設で最期を迎えたという。俳優としての彼は、『紳士同盟』(60)の集団強盗の一人、『飛べ!フェニックス』(65)の航空士役、中国人女性と結婚する『砲艦サンパブロ』(66)の船員役、ジョン・ウェインと共演した『ブラニガン』(75)のロンドン警視庁の刑事役などが印象に残る。白眉は、『大脱走』(63)で演じたカリスマ性と狡猾さを併せ持った、脱走計画のリーダー、ビッグXことロジャー・バートレット役だろう。
一方、監督としては、デビュー作の『素晴らしき戦争』(69)『遠すぎた橋』(77)など、当初はオールスター戦争映画のまとめ役という印象が強かった。ところが、20年間企画を温めていたという伝記映画『ガンジー』(82)でアカデミー賞の監督、作品賞を受賞した後は、ミュージカル『コーラスライン』(85)、実録物の『遠い夜明け』(87)、チャップリンの伝記『チャーリー』(92)と、バラエティーに富んだ大作を手掛ける監督へと華麗に変身した。
晩年は、『ジュラシック・パーク』(93)の恐竜テーマパークの責任者、リメーク版『34丁目の奇跡』(94)のデパートに現れたサンタクロースなど、好々爺を演じることも多かった。時代の変化に応じてさまざまな形で映画界に貢献した名優兼名監督である。
『ほぼ週刊映画コラム』
今週は
頻発する異常気象への不安と恐怖を反映させた
『イントゥ・ザ・ストーム』
ここで一言↓
「観客を竜巻の真ん中に放り込み、
すさまじさを実感してほしいと思った」
byスティーブン・クォーレ監督
詳細はこちら↓
http://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/960512
横浜スタジアムが出てくる映画
一昨日、横浜スタジアムで横浜対広島戦を観戦した。先発投手の山口とバリントンがどちらも乱調で、ノーガードの打撃戦となったが、全体的には大味な試合という印象だった。それにしてもカープの菊池は走攻守のどれもが素晴らしく、本当に見ていて飽きない楽しい選手だ。守備位置こそ違うが、現役時代の長嶋さんをほうふつさせるものがある、と言ってはちと褒め過ぎか。
ところで、横浜スタジアムが出てくる映画と言えば、高校野球の補欠選手を描いた『ひゃくはち』(08)がある。ちなみに、タイトルの“ひゃくはち”とはボールの縫い目の数を表す。人間の煩悩の数もこれと同じ数で、除夜の鐘はそれを取り除くために百八回つかれるという。『巨人の星』で星一徹がこの逸話を語る場面があったのでよく覚えている。両者の数が同じなのは多分偶然だろうが、話としては両者に関係があるとした方がずっと面白い。
この他、黄金町の映画館・横浜日劇の2階に事務所を構える私立探偵「濱マイク」シリーズでも横浜スタジアムが何度か映っていたような気がする。横浜スタジアムは、1978年の開場当時は、横浜らしいモダンな造りの広い球場として話題となったが、新球場が続々と誕生した現在では、少し古くさい印象を受ける。球場の華の時代は意外に短い。
気力、体力が充実しているときに見るべし
前3作からストーリーもキャストも一新して製作されたシリーズ第4作。正義のオートロボットVS悪のディセプティコンの戦い、人類が開発した人工トランスフォーマー、父と娘の絆、香港ロケ、と盛りだくさん。よく言えば、何でもありのごった煮だが、どのエピソードも薄味なのは否めない。一方、3Dで矢継ぎ早に繰り出されるVFX映像は濃厚で、これらを総合した2時間45分は長過ぎて疲れを感じた。気力、体力が充実しているときに見るべし。
by the way.
本作に登場するテキサスの田舎の風景は、『スーパーマン』(78)のクラーク・ケントや、『ナチュラル』(84)のロイ・ハブスが育った農場の風景とよく似ている。どれも架空の物語故、これらはアメリカ人が共通して心に抱く田舎の原風景を表しているのだろう。
中央区の「亀島川温泉」に一泊した。東京の中心にこんなにいい温泉があるとは…と、うれしい驚きを与えてくれた。
八丁堀とは、もともとは江戸時代から戦後まで存在した水路の名称。今は埋め立てられたが、別名、桜川とも呼ばれていたらしい。江戸時代、この辺りは町奉行所の同心や与力の居住区だったという。「必殺シリーズ」で藤田まことが演じた中村主水が“八丁堀”と呼ばれるのもそのことに由来する。また『鬼平犯科帳』の主人公、長谷川平蔵が実際に幼少期を過ごした鉄砲洲もほど近い。よくよく時代劇に縁のある地なのだ。
ところで、川に囲まれ、橋が点在するこの辺りは、映画のロケ地としては格好の場所になるのでは、と思い少し調べてみた。ところが、テレビドラマのロケはよく行われているようだが、映画のロケは、古くは、小津安二郎監督の『長屋紳士録』(47)、最近では、是枝裕和監督、ペ・ドゥナ主演の『空気人形』(09)ぐらいしか発見できなかった。これは意外な結果だった。今回、確かめることはできなかったが、5年前に『空気人形』が映した風景も、開発の波にのまれて今はすっかり様変わりしているかもしれない。
この後、『第三の男』(49)の影響を受けたと思われる『美女と液体人間』(58)のラストの地下水道のシーンは、『東京映画地図』(宮崎祐治)によれば、中央区の八丁堀近くの南高橋の辺りから地下水道に入り、最後に燃え上がるのは桜川とのことを知った。
『ほぼ週刊映画コラム』
今週は
無名の男が見せる一世一代の晴れ舞台
『太秦ライムライト』
名台詞は↓
「一生懸命やっていれば
どこかで誰かが見ていてくれる」
by香美山清一(福本清三)
詳細はこちら↓
http://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/945120