田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『悪魔と夜ふかし』

2024-10-02 16:12:13 | 新作映画を見てみた

『悪魔と夜ふかし』(2024.10.1.オンライン試写)

 1977年、ハロウィンの夜。米放送局UBCの深夜のトークバラエティー番組「ナイト・オウルズ」(夜ふかし)の司会者ジャック・デルロイ(デビッド・ダストマルチャン)は、生放送のオカルトライブショーで視聴率の低迷を打開しようとしていた。

 怪しげな超常現象が披露された後、この日のメインゲストとして、ルポルタージュ「悪魔との対話」の著者であるジューン博士と本のモデルとなった悪魔つきの少女リリーが登場する。

 視聴率獲得のためには手段を選ばないジャックは、テレビ史上初となる“悪魔の生出演”を実現させようとするが、番組がクライマックスを迎えたその時、思わぬ惨劇が起こる。

 テレビ番組の生放送中に起きた怪異を、ファウンドフッテージ形式(怪異に見舞われた撮影者が残した映像の体裁を取る)で描いたオーストラリア製ホラー。監督・脚本はコリン&キャメロン・ケアンズ兄弟。

 この映画のアイデアの基は、実際にオーストラリアで放送されていた深夜のテレビショーにあるようだが、日本でも「11PM」のような同種の番組があったので、そのうさんくさい雰囲気に懐かしさを感じながら、ジャズ(フュージョン)風の音楽やスタイリッシュな衣装と美術に彩られた70年代のテレビショーの再現に目を見張った。

 そして、その中から、心に傷と秘密を抱えた主人公ジャックのおかしみと悲しみ、その裏に潜む狂気をあぶり出す手法はお見事。ダストマルチャンの好演も光る。

 ケアンズ兄弟監督は「この映画は、70年代のトークショーとホラー映画に寄せた、私たちなりの悪夢的な抒情詩」と語っている。

 その言葉通り、ウィリアム・フリードキンの『エクソシスト』(73)、ブライアン・デ・パルマの『キャリー』(76)、デビッド・クローネンバーグの『スキャナーズ』(81)といったホラーはもちろん、TV 業界で成功するために狂気に陥る人物を描いた、シドニー・ルメットの『ネットワーク』(76)やマーティン・スコセッシの『キング・オブ・コメディ』(82)など、自らが影響を受けた70〜80年代の名作へのオマージュ巧みにを盛り込んでいるので、あの頃の映画を見ているような気分になった。

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『花嫁はどこへ?』

2024-10-02 11:25:41 | 新作映画を見てみた

『花嫁はどこへ?』(2024.8.18.オンライン試写)

 大安吉日のインド。育ちも性格も全く異なる2人の女性プール(ニターンシー・ゴーエル)とジャヤ(プラティバー・ランター)は、それぞれの花婿の家へ向かう途中で、同じ満員列車に乗り合わせる。しかし2人とも赤いベールで顔が隠れていたため知らぬ間に入れ替わり、そのまま別の嫁ぎ先に連れて行かれてしまう。

 予期せぬ旅を通して新しい価値観と可能性に気づいたプールとジャヤは、周囲の人々を笑顔にしながら、生まれて初めて自分自身の手で人生を切り拓いていく。

 インドの人気俳優アーミル・カーンが製作を手がけた、ベールが鍵を握るヒューマンコメディー。監督はカーンの元妻のキラン・ラオ。

 全編を貫くのは、フェミニズムと家族愛。エンターテインメント性の高いストーリーを通してさまざまなテーマを提起し、インドの文化・風俗を知らしめるという意味では、映画の効用を感じさせる。

 2人の女性の成長と自立が物語の核となるが、彼女たちを取り巻く、刑事や駅の屋台のおばさんといった脇役たちのキャラクターも面白かった。

 その中でも、この映画の本質をついたようなこんな会話が印象に残った。

「女は機会をもらえないの? なぜ無力でいろと」(プール)
「怖いのさ。女にとって男はそれほど必要じゃない。でも女がそれに気付いたら、男たちはおしまいさ」(屋台のおばさん)

 『LION/ライオン 〜25年目のただいま〜』(16)『エンドロールのつづき』(21)に続いて、インドの広大でアバウトな鉄道事情が分かる描写も印象に残った。


【インタビュー】『花嫁はどこへ?』アーミル・カーン
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/81a3bea91920ff786318083cd1aca596

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『シビル・ウォー アメリカ最後の日』

2024-10-02 09:50:17 | 新作映画を見てみた

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(2024.8.15.アスミック・エース試写室)

 近未来、連邦政府から19の州が離脱したアメリカでは、テキサス州とカリフォルニア州の同盟からなる「西部勢力」と政府軍との間で内戦が勃発し、各地で激しい武力衝突が繰り広げられていた。

 就任3期目に入った権威主義的な大統領は勝利が近いことをテレビ演説で力強く訴えるが、ワシントンD.C.の陥落は目前に迫っていた。

 戦場カメラマンのリー(キルステン・ダンスト)は、ジャーナリストのジョエル(ワグネル・モウラ)とサミー (スティーブン・マッキンリー・ヘンダーソン)、新人カメラマンのジェシー(ケイリー・スピーニー)と共に、14カ月にわたって一度も取材を受けていない大統領に単独インタビューを行うべく、ニューヨークからホワイトハウスを目指して旅に出る。彼らは戦場と化した各地で、内戦の恐怖と狂気を目の当たりにする。

 女性型ロボットと青年の恋を描いた『エクス・マキナ』(14)のアレックス・ガーランドが監督・脚本を担当し、内戦の勃発により戦場と化した近未来のアメリカを舞台に、最前線を取材するカメラマンやジャーナリストを主人公にしたアクションスリラー。不穏なロードムービーとしての趣もある。

 「シビル・ウォー」とは内戦のことだが、アメリカでは南北戦争を意味する。つまりこの映画は“未来の南北戦争”を描いていることになる。そして、現実に起きた連邦議会議事堂襲撃事件やドナルド・トランプの暗殺未遂事件のことを考えると、決して絵空事とは思えないところがある。銃撃戦のリアリティーも含めて、とても怖い映画だと言える。

 また、この映画で描かれた戦場カメラマンやジャーナリストの姿を見ながら、イラク戦争に取材した『Little Birds-イラク戦火の家族たち-』(05)というドキュメンタリー映画を撮った、ビデオジャーナリストの綿井健陽氏にインタビューした時のことを思い出した。

 彼は、危険な現場に行く理由を、「今そこで何が起きているのか知りたい、見たい、確かめたい。そして、それを伝えたいということだ」と語っていた。それを聞いた時、確かに一理あるとは思ったものの、何かが心に引っかかり、もやもやとした思いが残ったことを覚えている。

 この映画の、ベテランカメラマンのリーが新人のジェシーを教え導くところも、どこかぎこちない。彼女たちもまた自分たちの行動について迷っている節がうかがえるのだ。

 この映画がユニークなのは、ポリティカル・フィクションであると同時に、そうした戦場ジャーナリズムの矛盾もついているところだ。


『ある人質 生還までの398日』『Little Birds-イラク戦火の家族たち-』https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/e52e3401d7be9ca593e512d31b813920

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ピート・ローズ逝く

2024-10-01 14:25:30 | 名画と野球のコラボ

 ピート・ローズ、その死によって、永久追放処分は取り消されるのだろうか。1978年の日米野球で”ビッグレッドマシン”と呼ばれたシンシナティ・レッズの一員として来日した時のことはよく覚えている。

この年のレッズの主なラインアップは
1.サード.ピート・ローズ
2.ライト.ケン・グリフィー
3.セカンド.ジョー・モーガン
4.レフト.ジョージ・フォスター
5.キャッチャー.ジョニー・ベンチ
6.ファースト.ダン・ドリーセン
7.センター.シーザー・ジェロニモ
8.ショート.デーブ・コンセプシオン
9.ピッチャー.トム・シーバー、フレッド・ノーマン、トニー・ユーム、マイク・ラコス、デーブ・トムリン
このうち、モーガンとジェロニモは不参加だった。


ローズを描いた『墜ちた打撃王 ピート・ローズ』(04)というテレビドラマがあった。

https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/94e0594ff082ade704c6d1a7109b1586


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「午後のロードショー」『カーリー・スー』

2024-09-30 08:30:14 | ブラウン管の映画館

『カーリー・スー』(91)(1995.8.18.金曜ロードショー)

 

 当たり屋で稼ぐホームレスの少女カーリー・スー(アリサン・ポーター)とその保護者のビル(ジェームズ・ベルーシ)。そんな2人にまんまとカモにされた女性弁護士グレイ(ケリー・リンチ)との奇妙な関係を描く。

 ジョン・ヒューズ、思えばずるい男である。何しろ『ホーム・アローン』(90)のマコーレー・カルキンに続いて、この映画ではアリサン・ポーターなる達者な子役を使って、またしてもハートウォームコメディを作ってしまったのだから。

 ただし、この映画は、疑似親子の成立までの描写が少々弱い。特にケリー・リンチが演じるバリバリのキャリアウーマンの改心の経緯の描き方が不十分なので、説得力に欠けるところがある。

 ただ、ヒューズが描く家族ものを見るたびに、現実のアメリカでの不幸な家庭の多さが、こうした夢のような映画を作らせるのだろうと思わされる。せめて映画の中では…という希望や夢の反映なのだろう。


 

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「BSシネマ」『パトリオット・ゲーム』

2024-09-30 08:00:31 | ブラウン管の映画館

『パトリオット・ゲーム』(92)

「午後のロードショー」
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/969c66c86a0bdc0f5eace859f9ba1b81

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マギー・スミスの出演映画 その3

2024-09-29 10:56:27 | 仕事いろいろ

『ナニー・マクフィーと空飛ぶ子ブタ』(10)(2011.6.15.東宝東和試写室)

 イギリスの児童小説の映画化で不思議な力を持った乳母が主人公と聞けば、『メリーポピンズ』(64)を思い出す。ところがこの映画のエマ・トンプソン演じる乳母のマクフィーは、魔女を思わせるメークと衣装で登場して意表を突く(一作目は未見なのでこれが初対面なのだ)。

 確かに、イギリスの児童小説は、チャールズ・ディケンズの「大いなる遺産」「オリヴァー・ツイスト」を始め、ダークでブラックなものが多いし、『メリーポピンズ』も決して明るい話ではなかった。

 この映画の舞台は戦中だがわざと時代を特定できないように描いているし、牧歌的な農場の子どもたちと都会の子どもとの対立も映し出す。子どもたちが改心するにつれてマクフィーが段々きれいになっていくところがご愛嬌。製作・脚本もエマ・トンプソンだからこれは当然の結果か。

 女性監督のスザンナ・ホワイト、母親役のマギー・ギレンホールや大ベテランのマギー・スミスが大活躍と、全体的に男性の影が薄い気がするが、この映画は父親の不在や子どもたちの自立を描いた一種の寓話なのだから、これはこれでいいのかもしれない。良くも悪くもハリウッド製のファンタジーとは違う味わいがある。


『カルテット! 人生のオペラハウス』(12)

https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/39402
https://tvfan.kyodo.co.jp/news/36937


『ミス・シェパードをお手本に』(15)

https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/9f156b66b57255d8c6a7f8e0417c5ace

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マギー・スミスの出演映画 その2

2024-09-29 10:29:58 | 仕事いろいろ

『フック』(91)(1992.8.10.日本劇場)

マギー・スミスはウェンディ・ダーリング役

 ピーターパン・シンドロームと揶揄され続けてきたスピルバーグがついに撮った本物のピーターパン映画。だが志向的には甚だピーターパン的であった『未知との遭遇』(77)『E.T.』(82)を超えてはいなかったし、アクションの面白さから見ても「インディ・ジョーンズ」シリーズには及ばない。

 贔屓目に見ても、スピルバーグの力量低下やアンブリンプロ製作映画のマンネリ化は否めない。こうなると、スピルバーグもジョージ・ルーカスのように、プロダクションを作った時点で監督ではなくプロデュース側に回った方がよかったのかもしれないと思えてくる。

 なぜなら、彼はもはや若いうちに自らの映画的な夢は達成してしまったのだから、あとは何を撮っても、かつての栄光と比較されてしまうからだ。

 もちろん、ルーカスとは違い監督にこだわり続けるスピルバーグの方に好感は持てるのだが、そこに何らかの新味がなければ観客は離れていくだろう。今日のように、彼の映画をガラガラの客席で見るのはつらいものがあった。

 とはいえ、百歩譲ってこの映画を弁護すれば、この、大人になってしまい、夢と現実のはざまで悩むピーターパンこそ、スピルバーグ自身の投影なのではないか。そしてこの直球ではない、変化球ピーターパンこそ、彼の映画をピーターパン・シンドロームと揶揄する世評に対する彼流の答えなのではないかという気もする。

 この映画が彼のピーターパンに対するエンディングであるならば、それを乗り越えたところで、新たな展開に移行する可能性も大いにあるのだ。

【今の一言】今から思えば、この頃のスピルバーグはスランプ期だったと思うが、それを見事に乗り越えて、いまだに現役の監督であり続けているのだから感服する。


『天使にラブ・ソングを…』(92) 修道院長

https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/e18d403aa1902cfed9b1d5bce3adef04


『天使にラブ・ソングを2』(93)

https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/4de5ce0f5651871f819f8bc26799cbb5

https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/89b957d241687f1fdcd7d5e3cb53414e


『ハリー・ポッターと賢者の石』(01) ミネルバ・マクゴナガル先生
『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』(07) 

https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/a1e81f2ae9b62b1f03412be2b9449434

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マギー・スミスの出演映画 その1

2024-09-29 09:23:15 | 映画いろいろ

 

『予期せぬ出来事』(63)

https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/0c88113285fbe0bd58b9650bc4bc6524


『名探偵登場』(76)

https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/933d6a655b34bead1a6bd66a35486a30


『ナイル殺人事件』(78)

https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/aee0aa3e6a11c6a73a06ba1b052da8f6


『地中海殺人事件』(82)

https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/cffbb16ecac149356749bd2d2dba7f8f


 

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「虎に翼」最終回

2024-09-27 13:26:29 | テレビ

 朝の連続テレビ小説「虎に翼」が最終回を迎えた。吉田恵里香の脚本は、法律を中心に置きつつさまざまな問題を提起し、朝ドラのタブーを破った挑戦的なものだった。

 主人公の猪爪(佐田)寅子役の伊藤沙莉を見ながら、「ひよっこ」(17)の米子が随分と立派になったものだと思ったりもした。

 途中からは、宮藤官九郎作の「新宿野戦病院」とのキャストの重なりも楽しんだ。

 そして、主題歌である米津玄師の「さよーならまたいつか!」を流しながらのカーテンコールのようなラストシーンを見ながら、あー半年が過ぎたのか…とちょっと感傷的な気分になった。

https://www.youtube.com/watch?v=5DNqESedFMk

 このところの朝ドラは、この「虎に翼」も含めて、「エール」「おちょやん」(20)「カムカムエヴリバディ」(21)「らんまん」「ブギウギ」(23)と、現代劇よりも時代物の方が出来がいい気がする。

 

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