『真夜中まで』(99)
ジャズトランペッターの守山(真田広之)は、演奏の合間の休憩中に、殺人事件を目撃したクラブのホステス(ミッシェル・リー)を助けたことから、2人で逃走する羽目になる。次のステージまであと1時間。果たして守山は再びステージに立てるのか。
なぜかタイミングが合わず、和田誠監督作で唯一見逃していた映画。装丁を担当したエド・マクベインの『ダウンタウン』を思わせるところもある。
殺人現場の駐車場からジャズクラブへと一気に移動する撮影(篠田昇)、夜を強調するスタイリッシュな照明(熊谷秀夫)、「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」を演奏するジャズトランペットの音色…という冒頭から引き込まれる。
『罠』(49)や『真昼の決闘』(52)と同じように、彼らの逃避行の様子と実際の時間をシンクロさせたリアルタイムサスペンスで盛り上げるあたりが映画狂・和田誠の真骨頂。キーワードとなるのは「ソー・ホワット=それがどうした」と「月の砂漠」だ。
真田が犯罪に巻き込まれていく形は『快盗ルビイ』(88)と同じだが、何があってもトランペットを離さないなど、この映画では、過去にアクション俳優として鳴らした片鱗がうかがえるのがうれしい。
ホームレスの名古屋章、奇術師の小松政夫、トラック運転手の六平直政ら、彼らとかかわるゲストの扱いも面白い。
リアルタイムで見逃して、宿題のように残っていた最後の映画を見終わって、もっと映画を撮ってほしかったと思う半面、『麻雀放浪記』(84)ではモノクロのピカレスクロマンを、『快盗ルビイ』ではミュージカルコメディを、『怖がる人々』(94)ではオムニバスホラーを、そしてこの映画ではジャズ映画をと、和田さんは自分が好きなジャンルの映画を一通り撮り終えたのかもしれないと思った。