昨日、テレビで久しぶりに『男はつらいよ 寅次郎の休日』(90)を見ていたら、ラスト近くで満男(吉岡秀隆)が「幸せとは…」と考えながら、金町から、自転車で京成金町線の線路沿いに柴又へ帰るシーンがあった。今、自分が住んでいる金町は、この映画の公開当時は未知の土地だったから、こんなシーンがあったことは全く覚えていなかった。
また、満男が主人公になった前作『ぼくの伯父さん』(89)からは、寅=渥美清をはじめ、レギュラー陣が老けていく姿を見るのが忍びなく、否定的に捉えていたのだが、年月を経た今、改めて見ると妙に心に染みた。
そして、この映画で、寅が満男に「困ったことがあったら風に向かって俺の名前を呼べ。おじさん、どっからでも飛んできてやるから」と言う名セリフが『お帰り 寅さん』(19)に通じたことも確認することができた。
ところで、金町は柴又の隣町だから、『男はつらいよ』シリーズにはしばしば登場する。
例えば、『続男はつらいよ』(69)の寅の恩師・坪内散歩先生(東野英治郎)は金町の葛西神社近くに住んでいたし、寅は食べ過ぎで腹痛を起こして金町中央病院に入院する。
また、『葛飾立志篇』(75)で学生服を着て鉛筆を売ったのをはじめ、寅は時々ここで商売をしたし、ここの不動産屋で部屋探しもした。『 寅次郎紙風船』(81)の 寅の同級生の安男(東八郎)は金町でクリーニング屋をやっている。
『サラダ記念日』(88)の早大生・尾美としのりは「家は金町」だと言っていたし、『心の旅路』(89)のウィーンに住むマダム・淡路恵子も「金町出身」だと言っていた。
そして、事実上の最終作となった『紅の花』(95)のラスト近くで柴又からタクシーに乗ったリリー(浅丘ルリ子)は、運転手(犬塚弘)に、行く先を「JR金町駅」と告げる。そう、実は金町は『男はつらいよ』シリーズの隠れた名脇役なのである。
そんなことを考えていたら、今日は柴又の料亭「川甚」閉店の日だったことに気付いた。
隣町の金町に越してきてから10余年、江戸川土手から柴又は散歩コースの一つとなり、土手を降りて帝釈天参道に向かう途中にある「川甚」の前を何度も通った。
妻と、「博(前田吟)とさくら(倍賞千恵子)はここで結婚式を挙げたんだよねえ」「一度ここでうなぎでも食べようか」などと話していたのだが、ついに訪れることがないまま閉店されてしまった。残念。