田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

【ほぼ週刊映画コラム】『散り椿』

2018-09-29 16:18:02 | ほぼ週刊映画コラム
エンタメOVOに連載中の
『ほぼ週刊映画コラム』

今週は

“黒澤映画の影”が見え隠れする
『散り椿』



詳細はこちら↓
https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1165223
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『空の走者たち』(増山実)

2018-09-29 09:58:14 | ブックレビュー
 2020年の東京オリンピックの女子マラソン代表に、福島県須賀川市出身の円谷ひとみが選ばれた。くしくも須賀川は、1964年の東京オリンピックのマラソンで銅メダルを獲得した円谷幸吉と、特撮の神様と呼ばれた円谷英二の故郷でもあった。作者の分身のような通信社の記者・田嶋と、地元の高校生ひとみを主人公に、無名の市民ランナーがなぜ代表になれたのかが明かされていく。



 『勇者たちへの伝言』に続き、タイムトラベルを使って、過去と現在、事実とフィクションを巧みに融合させている その中に、幸吉と英二についてはもちろん、東京オリンピックのマラソンで幸吉と競い5位に入ったシュトー・ヨーゼフ、英二の作った「ウルトラマン」「奥の細道」で須賀川に立ち寄った松尾芭蕉、世阿弥の「離見の見」、日航機事故で命を落とした坂本九の「ステキなタイミング」、ビートルズの「ラン・フォー・ユア・ライフ」、そして東日本大震災…と、さまざまなエピソードが挿入される。

 今回は、この作者の作品に共通する“絵空事”が重要なキーワードとなる。“絵空事”が大好きな大林宣彦監督は「フィクションには、“嘘から出たまこと”がある。たとえ絵空事でも、根も葉もあれば花が咲く」と語っているが、多分、この作者が小説を通して語りたいと思っているのもそういうことなのだろう。

 沢木耕太郎が『敗れざる者たち』「長距離ランナーの遺書」で描いた円谷幸吉像に異を唱えているのも興味深かった。
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『search/サーチ』

2018-09-28 18:54:36 | 新作映画を見てみた
 最近妻を亡くした韓国系アメリカ人のデビッド。彼の16歳の娘マーゴットが、ある日忽然と姿を消した。行方不明事件として捜査が開始されるが、家出なのか、誘拐なのかも分からないまま、時は刻々と過ぎていく。娘のSNSを必死に探ったデビッドは、そこに自分の知らない娘の姿を見ることになる。



 キム一家の歴史を紹介する映像のモンタージュに始まり、全編がパソコンの画面で展開するというアイデアが秀逸。我々はいかにパソコンやスマホに依存しているのかが見えてきて、怖くなってくるところもある。

 この映画が、監督デビュー作となったインド系アメリカ人のアニーシュ・チャガンティは「スピルバーグ、シャマランに次ぐ、映画の天才登場」と騒がれているようだが、スピルバーグの『激突!』(71)『ジョーズ』(75)、あるいはシャマランの『シックス・センス』(99)を例に出すまでもなく、いくら斬新なアイデアがあっても、それを生かすストーリーテリング(脚本)がよくなければ話にならない。その点では、この映画も脚本がよくできているのが最大のポイントだろう。見かけは斬新だが、中身はオーソドックスなミステリーの作り方をきちんと踏襲しているからだ。
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『波の上のキネマ』(増山実)

2018-09-28 06:01:11 | ブックレビュー


 尼崎で小さな映画館を営む安室俊介。時節柄、閉館を決意した彼だが、創業者である祖父が“緑の牢獄”で過ごした事実を知ることになる。

 事実とフィクションを融合させながら、前半はほろ苦いノスタルジーを、中盤から後半は極限状態に置かれた者の苦難を描き、前向きなラストで締めるという構成は『勇者たちの伝言 いつの日か来た道』とほぼ同じだと言ってもいい。ここでは、阪急ブレーブス(野球)が映画館と映画に、北朝鮮が沖縄の孤島の炭坑に、朝鮮人の友人が台湾人に、置き換えられている。

 ジャングルの中に映画館があったという意外性、各章のタイトルを映画のタイトルと結びつけた構成などで、映画好きの心を刺激しながら、戦前の沖縄の炭坑の実態を明らかにしていく。炭坑からの脱走の件は、冒険小説の趣もある。

 野球と映画とは、まさに自分の泣き所をつかれた感じ。共感と多少の反発を覚えながらも、一気に読まされた。
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『勇者たちの伝言 いつの日か来た道』(増山実)

2018-09-27 13:46:27 | ブックレビュー


 50歳の放送作家・工藤正秋は、ある日、阪急神戸線に乗車中、車内アナウンスの「西宮北口」を「いつの日か来た道」と聞き違える。そして、小学生の頃、たった一度だけ、父と西宮球場でプロ野球を観戦した日を思い出し、球場跡地に建つショッピングモールへと向かう。そこで思い出に浸るうち、なぜか正秋は試合当日の昭和44年へとタイムスリップ。若き日の父と出会い、父の過去や、父の初恋の女性について知ることになる。

 阪急ブレーブスと西宮球場への追憶を枕に、主人公の父の初恋の人を通して、北朝鮮の帰国事業の悲惨な実態を明らかにする。前半はほろ苦いノスタルジーを、中盤から後半は極限状態に置かれた者の苦難を描き、前向きなラストで締めるという構成。

 作者が放送作家だけあって、例えば、山田太一の『異人たちとの夏』、浅田次郎の『地下鉄(メトロ)に乗って』、あるいは山崎豊子の『大地の子』などの影響を感じさせながらも、事実(元阪急の高井保弘とロベルト・バルボンには実際に取材)と、フィクションを巧みに融合させて一気に読ませるところがある。

 主人公が自分と同じ年という設定なので、関西と関東という育ちの違いこそあれ、うなずける(身につまされる)ところも多かった。自分自身は、当時は巨人ファンだったが、日本シリーズでたびたび対戦する阪急も好きなチームだったのだ。
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『ルイスと不思議の時計』

2018-09-26 06:39:20 | 新作映画を見てみた

 両親を亡くしたルイス(オーウェン・ヴァガーロ)は、伯父のジョナサン(ジャック・ブラック)に引き取られ、彼が住む古い屋敷を訪れるが、彼は二流の魔法使いだった。ルイスは、ジョナサンと隣人の魔法使いツィマーマン夫人(ケイト・ブランシェット)と共に、屋敷に隠された“世界を破滅に導く時計”を探すことになる。



 この映画の舞台は1950年代だが、監督がホラー畑のイーライ・ロスであるのに加えて、アンブリンが製作したためか、『トワイライトゾーン/超次元の体験』(83)『グレムリン』(84)『ロジャーラビット』(88)など、グロテスクでダークな雰囲気を持った80年代のこの手の映画に似ている気がした。

 敵役のカイル・マクラクランの怪演は予想通りだったが、70年代から活躍しているコリーン・キャンプが隣の太っちょおばさんとして出てきたのには驚いた。

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『父子草』再見

2018-09-25 09:34:59 | 映画いろいろ
「踏切が喜んでやがる」



 あることがきっかけで、『父子草』(67)を40数年ぶりに再見した。この映画は、東宝・宝塚映画だが、監督・丸山誠治、脚本・木下惠介、音楽・木下忠司という布陣なので、東宝と松竹の合作のような雰囲気がある。

 舞台は、竹子(淡路恵子)が踏切近くのガード下で営む屋台のおでん屋。そこの客となった土工の平井(渥美清)、苦学生の西村(石立鉄男)、西村に思いを寄せる美代子(星由里子)が織りなす人間模様を描く。

 平井は一見、飯場暮らしの粗暴な男。だが、実は戦後、シベリアで抑留され、苦労の末に帰国するが、すでに死亡したものと見なされ、妻は弟と再婚していた、という悲しい過去を持つ。彼は「生きている英霊」として故郷を捨てざるを得なかった男なのだ。

 その平井が、偶然知り合った西村に別れた息子の面影を見出し、彼を援助することを生き甲斐としていく。この2人を、母や妻のように温かく見守る竹子(淡路恵子が絶品!)。つまり、この映画は、なでしこの別名だという『父子草』をタイトルとする“疑似家族”の物語なのである。

 老け役の渥美と淡路の会話の掛け合いは、まるで出来のいい古典落語を聴いているような味わいがあるし、対照的に、若き日の石立と星が初々しい魅力を発散する。特に暗い話題を明るく話す美代子=星がけなげでかわいい。だが、脇役の浜村純、大辻伺郎も含めて、もう誰もこの世にいないんだなあと思うと寂しい気もした。今や自分はこの映画の平井よりも年上になっている…。

 ところで、この映画の裏の主役は、節目節目で映る踏切のシグナルと、印象的に響くチンチンという音だと言ってもいいだろう。

 冒頭、踏切の音がうるさいという平井に対して、竹子が「あの踏切のチンチンだって、日によっちゃ色んなふうに聞こえるんですよ。うれしい時には喜んでいるように聞こえるし、悲しい日にゃ泣いてますよ」と語る場面がある。

 その時、平井は「そんなのは女の耳か豚の耳だ」と毒づくのだが、これが伏線となって、ラスト近くで平井が吐く「踏切が喜んでやがる」という名セリフにつながる。このあたり、さすがは木下惠介という感じがするし、池上線の踏切近くで育った自分にとってはこの感覚はよく分かるのだ。

 舞台設定は東京になっているが、走る電車は見慣れないものだった。調べてみると、どうやら阪急電車の沿線でロケをしたようだ。そうか、宝塚映画だもんな。
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『映画の森』「2018年9月の映画」

2018-09-24 06:23:24 | 映画の森
共同通信社が発行する週刊誌『Kyoudo Weekly』(共同ウイークリー)9月24日号で、
『映画の森』と題したコラムページに「9月の映画」として5本を紹介。
独断と偏見による五つ星満点で評価した。

ラインアップは

真の奇跡は人との出会いにあり『泣き虫しょったんの奇跡』☆☆☆
B級モンスターパニック映画の趣『MEG ザ・モンスター』☆☆
大人になったら忘れてしまうもの『プーと大人になった僕』☆☆☆
アイデアの集積がお見事『スカイスクレイパー』☆☆☆
もしも、あの時に戻ることができたら『コーヒーが冷めないうちに』☆☆

クリックすると拡大します↓


WEB版はこちら↓
https://www.kyodo.co.jp/national-culture/2018-09-25_1922855/

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【ほぼ週刊映画コラム】『スカイスクレイパー』

2018-09-22 17:59:25 | ほぼ週刊映画コラム
エンタメOVOに連載中の
『ほぼ週刊映画コラム』

今週は

ジョンソンの存在を際立たせるためのアイデアの集積が見事な
『スカイスクレイパー』



詳細はこちら↓
https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1164521
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『ビブリア古書堂の事件手帖』

2018-09-22 07:19:57 | 新作映画を見てみた

 三上延の原作小説を、三島有紀子が監督して映画化。



 就職浪人の五浦大輔(野村周平)は、祖母(渡辺美佐子)の遺品で、夏目漱石のサインが入った『それから』を、鎌倉のビブリア古書堂に持ち込む。店主の篠川栞子(黒木華)は筋金入りの古書マニアだったが、大輔はこの店でアルバイトをすることになる。

 現在と50年前の二つの恋を交差させて描きながら、漱石の『それから』と太宰治の『晩年』をめぐる謎を解いていく、という趣向は面白いが、ミステリーとしては弱く、人物描写も軽いところが残念。

 とは言え、大道具としての古書店、小道具としての古書、万年筆、原稿用紙、本をめくる音などで、本好きのツボを突きながら、同時に、本以外のことには無頓着な“古書マニアの業”も描き込んでいるところは面白かった。

 黒木華は、どちらかと言えば時代劇や古風な役が似合うので、こうした役は新鮮に映った。

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