田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『大いなる不在』

2024-06-29 17:52:21 | 新作映画を見てみた

『大いなる不在』(2024.6.22.オンライン試写)

 幼い頃に自分と母を捨てた父・陽二(藤竜也)が警察に捕まったという知らせを受け、久しぶりに父のもとを訪れた卓(森山未來)は、認知症で変わり果てた父と再会する。

 さらに、父の再婚相手の直美(原日出子)が行方不明になっていた。一体、彼らの間に何があったのか。卓は、父と義母の生活を調べ始め、父の家に残されていた大量の手紙やメモ、そして父を知る人たちの話を基に、彼の人生をたどっていくが…。

 藤とタッグを組んだ長編デビュー作『コンプリシティ 優しい共犯』(18)が、海外でも高い評価を得た近浦啓監督の第2作。森山と藤が親子役で初共演を果たしたヒューマンサスペンス。卓の妻の夕希役に真木よう子。

 第71回サン・セバスチャン国際映画祭のコンペティション部門で、藤がシルバー・シェル賞(最優秀俳優賞)を受賞。第67回サンフランシスコ国際映画祭では、最高賞のグローバル・ビジョンアワードを受賞した。

 この映画は、近浦監督の父親との実体験がモチーフになっているという。過去と現在と回想を錯綜させながら、夫婦や父と子のぎくしゃくした関係や葛藤、あるいはボケた陽二と彼の回りの人々が見る情景の違いから、記憶という名の迷宮が浮かび上がる。

 その点で、アンソニー・ホプキンスが主演した『ファーザー』(20)と通じるところもあるのだが、この映画は陽二の見る“幻想”を見せないところに現実感があるし、妻の失踪をめぐるミステリーとしての要素もあるところがユニークだ。

 藤は『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』(19)でもボケの兆候がある頑固おやじの役を演じていたが、今回はさらに進んだボケ老人を演じている。ただしそこに往年のダンディな姿の残り香を感じさせるところが真骨頂。

 そこに映画の“うそ”があるのだが、この場合、この役を生々しくリアルに見せられたら、悲惨さが先に立って見ていられないと思う。藤が演じればこそ、劇映画として成立しているといっても過言ではないのだ。


【インタビュー】『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』藤竜也
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/d3916ff2ee39a4eea974dbc322fad7a9

『ファーザー』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/ded3143b637e7b87b86bcc9121fd1826


 

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「島根マルチバース伝」

2024-06-28 23:39:22 | テレビ

「島根マルチバース伝」(NHKプラス)

 28歳のひかり(桜庭ななみ)は、高校演劇で神童と呼ばれ、女優になることを夢見ていたが、今は地元のスーパーでアルバイトをしながら、「自分が輝けないのは島根にいるせいだ!」と家族や友人に愚痴りながら過ごしていた。

 ある日、怪しいマスター(佐野史郎)の店に入ると、「あなたが輝くはずだった人生を見てみますか?」と言われる。そして別のバース(異なる選択をした人生)を生きる自分を目撃するが、そのどれもが理想とは程遠い姿ばかり。そんな時、妹から地元の市民劇に誘われて…。

 NHK松江放送局が制作した、島根発の地域ドラマ。稚拙なところもあるが、面白いドラマだった。

 島根から一度も出たことがないことを嘆くひかりが、マルチバースを体験することで変わっていく姿は、自分の住む街から一度も出たことがない主人公のジョージ(ジェームズ・スチュワート)が、二級天使(ヘンリー・トラバース)によって、自分が生まれなかった世界を見せられることで大切なことに気付くという、フランク・キャプラ監督の『素晴らしき哉、人生!』(46)と重なる。

 ここでは佐野が演じた怪しいマスターが天使の役割を果たすわけだ。脚本の竹田モモコは、多分この映画を意識したと思われる。

 また、劇中でひかりが口ずさむ、アニメ「はじめ人間ギャートルズ」のエンディング曲「やつらの足音のバラード」の作詞は島根県松江市出身の園山俊二(作曲はかまやつひろし)。この選曲もなかなかいい。そして時々『アルフィー』66・バート・バカラック)みたいな音楽も流れてきた。


Alfie
https://www.youtube.com/watch?v=_907Odc57-A

やつらの足音のバラード
https://www.youtube.com/watch?v=d1EUwrd0Mmg

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『クワイエット・プレイス:DAY 1』

2024-06-28 14:04:16 | 新作映画を見てみた

『クワイエット・プレイス:DAY 1』(2024.6.24.TOHOシネマズ新宿.完成披露試写会)
東和ピクチャーズからの招待

 猫のフロドとニューヨークで暮らすサミラ(ルピタ・ニョンゴ)は、不治の病に侵され、ホスピスにいた。そんなある日、突如として空から多数の隕石が降り注ぎ、周囲は一瞬にして阿鼻叫喚と化す。

 そして、隕石とともに襲来した凶暴な“何か”が人々を無差別に襲い始める。何の前触れもなく日常は破壊され、瓦礫の山となった街の中を逃げ惑うサミラは、同じように逃げてきたエリック(ジョセフ・クイン)とともにニューヨークからの脱出を図るが…。

 音に反応して人間を襲う“何か”によって人類滅亡の危機にひんした世界で、沈黙を守って生き延びる一家の姿を描いた人気サバイバルホラー「クワイエット・プレイス」シリーズの第3作。

 田舎の町を舞台にした前2作から、舞台を大都会のニューヨークに移し、これまで語られてこなかった“何か”が地球に襲来した最初の日を描く。

 前2作で監督や脚本を担当したジョン・クラシンスキーは、本作では製作と脚本を担当。代わりに新鋭監督マイケル・サルノスキがメガホンを取った。前作の謎の生存者(ジャイモン・フンスー)も登場する。

 音を出したら殺されるという極限状態の中、病と猫を抱えた主人公のサミラがサバイバルを繰り広げるという設定。最初のうちはサミラや猫の行動にイライラさせられるところもあるが、それが後半の変化に生きてくる。また、病で死を間近にしたサミラが必死に“何か”から逃げるところに、生への執着や人間の悲しさを感じさせる。

 騒音の街ニューヨークが廃墟となり無音になるギャップ、臆病なエリック、静かにできない猫の存在といったアイデアが面白い。“何か”が水が苦手というところは、ちょっと笑えるが。

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【ほぼ週刊映画コラム】『GEMNIBUS vol.1』『プロミスト・ランド』

2024-06-28 08:02:34 | ほぼ週刊映画コラム

共同通信エンタメOVOに連載中の
『ほぼ週刊映画コラム』

今週は
若手監督たちの試金石『GEMNIBUS vol.1』
熊について考えるという意味ではタイムリーな『プロミスト・ランド』

詳細はこちら↓
https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1438496

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「BSシネマ」『昼下りの決斗』

2024-06-28 07:14:58 | ブラウン管の映画館

『昼下りの決斗』(62)

ペキンパーが老ガンマンに贈った鎮魂歌
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/f14113d05f80fedff0458bb913cae3f8

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『おとなのデジタルTVナビ』2024.8月号

2024-06-27 09:12:23 | おとなのデジタルTVナビ

『おとなのデジタルTVナビ』(2024.8月号)



「劇場へ行こう!」(新作映画紹介)



「BS松竹東急」

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「BSシネマ」『特攻大作戦』

2024-06-27 08:00:42 | ブラウン管の映画館

『特攻大作戦』(67)

「十二人の汚れた男」
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/85d6f95492de8979625d3e9dc00e0358


 

 

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【インタビュー】『プロミスト・ランド』杉田雷麟・寛一郎

2024-06-26 09:03:27 | インタビュー

 マタギの伝統を受け継ぐ東北の山間の町に、役所から今年の熊狩りを禁止する通達が届いた。違反すれば密猟とみなされ、マタギとして生きる道を閉ざされてしまう。だが、20歳の信行は、兄貴分の礼二郎から2人だけで熊狩りに挑む秘密の計画を打ち明けられ、一緒に山に入るが…。

 飯嶋和一の同名小説を飯島将史監督が映画化した『プロミスト・ランド』が6月29日から公開される。本作でマタギの信行と礼二郎を演じた杉田雷麟と寛一郎に話を聞いた。

「大きなスクリーンでこの大自然を楽しんでもらえたら」
「いい時代の邦画の匂いを感じていただけたら」
https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/interview/1438193


『プロミスト・ランド』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/a14d633d5d84f7e9bb390f4a7c39b2b4

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「午後のロードショー」『ウォーターワールド』

2024-06-26 07:18:40 | ブラウン管の映画館

『ウォーターワールド』(95)



“二人のケビン”の友情の終焉
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/ffb6325d5aeb0fba5acb7b4bd8467fcb

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「BSシネマ」『マネー・ピット』

2024-06-26 07:11:08 | ブラウン管の映画館

『マネー・ピット』(86)

若き日のトム・ハンクスの魅力が存分に楽しめる
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/ae50044a241d6c7c80968a56c7d396c2

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