第一次大戦下、1917年のある日の西部戦線。イギリス軍兵士のブレイク(ディーン・チャールズ・チャップマン)とスコフィールド(ジョージ・マッケイ)に伝令の命が下る。それは、対ドイツ軍との最前線にいる自軍に作戦中止を伝えるというものだった。
巻頭から、いきなり緊迫感に満ちた映像が映し出され、見る者を否が応でも戦場に引きずり込む。その点では、第二次大戦を描いたスティーブン・スピルバーグの『プライベート・ライアン』(98)や、クリストファー・ノーランの『ダンケルク』(17)のような、体験型の戦争映画と同じだ。
ただ、この映画が特異なのは、監督のサム・メンデスいわくの「全編を通してワンカットに見える映像」を駆使し、「実際の時間軸と同じスピードで物語が進行する」ところ。それ故、あくまで2人の兵士の目線で、連続性のある、途切れない物語が生まれた。観客は2人と一体になって、緊迫感や臨場感、そして戦場の恐怖を味わうことになる。この点は、ワンカットに見える映像を可能にした、撮影のロジャー・ディーキンスと編集のリー・スミスの功績が大だと言えるだろう。
また、メンデスは「この映画は事実に基づいたフィクションであり、今は失われた、自己犠牲の精神を描いている」と述べている。確かに、この映画は一見サバイバルゲームや冒険映画の要素を持ちながら、どこか神話的なものや風格を感じさせるところも魅力の一つになっている。戦場を再現した見事な映像と、そうした精神が相まって、久しぶりに「映画を見た!」という気分にさせてくれた。
第一次大戦の塹壕が印象的に描かれた映画には、チャップリンの『担え銃』(1918)、キューブリックの『突撃』(57)などがある。そういえばメンデスは『007/スペクター』(15)のオープニングもワンカットで撮っていた。
『インセプション』(10)(2012.6.10.日曜洋画劇場)
人の夢の中に入り込み、アイデアを盗むコブ(レオナルド・ディカプリオ)。だが、その才能ゆえに最愛の人を失い、指名手配されていた。そんな彼に、サイトー(渡辺謙)と名乗る男から依頼が舞い込む。それは相手の潜在意識に入り込み、ある考えを植えつけるというミッションだった。
どこまでが夢でどこからが現実なのか…。特撮を駆使した摩訶不思議な映像の中、クリストファー・ノーランの狂気がさく裂、という感じがした。ジョン・レノンの「夢の夢」じゃないが、夢の多層構造を利用した独特な味わいのある映画。夢を媒介とした一種のタイムトリップものだとも言える。見ながらケン・ラッセルの『アルタード・ステーツ』(79)を思い出した。
特別試写会を取材(2010.7.15.東京国際フォーラム)
『インターステラ―』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/0ceb1ca9563918da684d48385dad85d4
【インタビュー】『ダンケルク』クリストファー・ノーラン監督
https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/interview/1121880