田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『HEY!スピルバーグ』(小林弘利)

2020-02-17 09:22:36 | ブックレビュー

(1988.5.)

 これは、まさに映画狂にしか書けない話であり、現在の映画界を支えるスピルバーグを、1938年のハリウッド(『風と共に去りぬ』『オズの魔法使』『駅馬車』などが製作真っただ中)にタイムスリップさせるという突拍子もないアイデアを生かして、見事に映画への愛を語っている。それを自分と同年代の人間に書かれてしまった喜びと悔しさが同時に浮かんできた。しかも表紙の絵は和田誠だ。うらやましい限り。

 この小説の“現在”で描かれるのは、『1941』(79)の製作風景だ。俺はこの映画は失敗作だと思うのだが、作者は、この映画はスピルバーグ、ジョン・ランディス、ジョン・ベルーシらの友情の結晶であり、昔のハリウッド映画に対するオマージュを込めた傑作だと捉えている。

 このように、映画とは、人によって見方や捉え方が異なる。それが厄介である半面、楽しいとも言えるのだが、そこに共通するのは“映画への愛”なのだ。そんな、ちょっと気恥ずかしいことを改めて感じさせてくれた。で、もしこの小説が翻訳されて、スピルバーグが読んだら…などと考えてみるのも楽しい。

【今の一言】これは、タランティーノの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』にも通じる、作者の夢を反映させたパラレルワールド話だといえる。作者自身がアナザーストーリーを考えていたらしい。

もうひとつの HEY! スピルバーグ 
https://note.com/etandme/n/n360d7f2221d4
 

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『先生と迷い猫』

2020-02-17 09:10:40 | 映画いろいろ

 伊豆を舞台に、偏屈な元校長(イッセー尾形)が、いなくなった地域猫を探すうちに、変化していく様子を、その猫とかかわった人々の思いとともに描く。

 よく言えば静かな映画で、猫とのふれあいを通して、“心温まるちょっといい話”の線を狙ったとも思えるのだが、逆に言えば、エキセントリックなキャラクターたちがだらだらと登場するだけで、一体何が言いたいのかが伝わってはこない。特に、猫を虐待する少年の描き方が中途半端で、見ていてかえって嫌な気分にさせられる。“スター猫”の存在の大きさに比して、それを取り巻く人たちの点描とのバランスが悪いのだ。

 この映画の脚本は小林弘利。偶然、彼が1988年に書いた『HEY!スピルバーグ』という面白い小説を読み直したばかりだったので、ちょっと残念な気がした。

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『グッドライアー 偽りのゲーム』

2020-02-17 08:21:13 | 新作映画を見てみた

『グッドライアー 偽りのゲーム』(2020.2.15.MOVIX亀有)

 インターネットの出会い系サイトで知り合った老紳士のロイ(イアン・マッケラン)と夫を亡くしたベティ(ヘレン・ミレン)。実はロイは詐欺師で資産家のベティから財産をだまし取るために近づいたのだった。ところが、事態は思い掛けない方向へと進んでいく。

 『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』(15)のビル・コンドン監督、ジェフリー・ハッチャー脚本、マッケラン主演のトリオに、ミレンを加えたクライムミステリー。ミレンがまだ十分に美しく魅力的な老女を演じている。

 見る前は、名優同士が繰り広げる、丁々発止のユーモラスなだまし合いという流れを勝手に想像していたのだが、実際は、過去の出来事から生じた嘘や復讐をはらんだ、ドロドロとした人間関係が描かれる。もっとも、少々話を広げ過ぎた感もあるのだが…。

 コンドン監督作に共通する「悪くはないが傑作というわけでもない」という印象は、今回も同様で、ミステリーなのに伏線がすっきりとは回収されず、見終わった後に何かもやもやしたものが残るのは否めない。

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