田中雄二の「映画の王様」

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『ザ・ファーム 法律事務所』

2020-02-18 10:21:48 | 映画いろいろ

『ザ・ファーム 法律事務所』(93)(1993.9.16.渋谷東急2)

 ハーバード大を卒業したミッチ(トム・クルーズ)は、メンフィスの法律事務所に就職し、妻のアビー(ジーン・トリプルホーン)と共に新天地に移る。ミッチは上司のトラー(ジーン・ハックマン)のもとで仕事に打ち込むが、ある事件をきっかけに、事務所には裏の顔があることを知る。シドニー・ポラック監督が、ジョン・グリシャムのベストセラー小説を映画化。若き弁護士が巨大な悪の組織に挑む姿を描く。

 シドニー・ポラックという監督は、どうしょうもない駄作や大失敗作は決して撮らないが、もう一歩の突っ込みが足らなかったり、詰めが甘いところもあり、結果的に大傑作も撮っていない。それ故、見る側に「今度こそは…」という思いを抱かせる不思議な監督である。

 この映画も、題材、キャストともに素晴らしいのに、またしても大傑作とはならず、残念ながら“いつものポラック”だった。犯罪ミステリー、謎解き、アクション、夫婦愛、『スティング』(73)的なだまし合い、盟友デーブ・グルーシンのジャズ風の音楽と、サービス満点なのだが、雑多な要素を詰め込み過ぎて、消化不良を感じさせる2時間半という印象が残るのだ。

 キャストも、クルーズは毎度の自己発見路線から逃れられず、ハックマンもいつになく存在感が薄い。ところが、女優陣はファニーフェースが魅力的なトリプルホーンと、『ピアノレッスン』(93)でアカデミー賞を受賞したホリー・ハンターがいい味を出していた。

 特に探偵(ゲイリー・ビジー)の助手を演じたハンターは、こちらでこそ受賞するべきだったのでは…、と思えるほどの名演を披露する。このバランスの悪さが、いかにもポラックの映画という気もする。惜しいんだな、これがっ。

 とはいえ、この題材をオリバー・ストーンあたりが撮ったら、陰惨な暴露ものになっただろうし、シドニー・ルメットが撮ったら、もっと硬い告発ものになったかもしれない。また、原作のラストは映画とは違って夫婦の再生劇ではないという。だとすれば、ポラックの処理は案外いい線をいっていたのだろうか。などと、俺の感性もバランスが悪いのか、ふらふらしている。

【今の一言】文中の「惜しいんだな、これがっ」は、当時、ショーケンが出ていたサントリーモルツのCMのセリフ「うまいんだな、これがっ」に引っ掛けたのだろう。我ながら気恥ずかしいが、こういうところにその時代を感じるところもある。

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