ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

W世界戦(アランブレットvs星野、徳山vsペニャロサ)

2002年12月20日 | 国内試合(世界タイトル)
・WBA世界ミニマム級TM ノエル・アランブレットvs星野敬太郎

星野もアランブレットも、本来は両者とも「待ち」のタイプのボクサー
なのだが、今回こそははっきりとした決着をつけようと、前に出て激しく
打ち合った。噛み合せが悪く、盛り上がりに欠けた前回に比べ、今回は
非常にスリリングな12ラウンズとなった。

前回の反省を生かし、星野はよく手を出した。しかしアランブレットも
それ以上に手を出した。アランブレットの攻め口は比較的単調だが、
星野が打ち合いに来たぶんパンチが当たりやすかったのかもしれない。
また、ピンチの時のクリンチワークも巧みだった。しかし星野も効果的な
パンチを随所にヒットし、どちらが優勢か分からないラウンドが続いた。

結果は前回同様、僅差の判定で星野が敗れたが、内容はかなり違った。
全体の戦力、技術の厚みでは星野は決して負けていなかったと思う。
しかしアランブレットの、「何としても勝つ」という気迫も見事だった。
何度も引退を宣言し、また撤回して再起してきた星野だが、今回は
即座に引退とは言わず、「体と相談してから決める」と進退を保留した。

両者の3度目の対戦はあるのだろうか。今回は年齢による衰えは特に
感じさせなかった星野だが、実力が拮抗したアランブレットとの戦いでは
わずかの戦力低下が命取りだ。普通に考えれば、星野にとってより厳しい
戦いになると予想せざるを得ないが・・・。


・WBC世界Sフライ級TM 徳山昌守vsジェリー・ペニャロサ

徳山とペニャロサの再戦も、またしても接戦となった。そして前回以上に
微妙な判定となった。しかし僕が見た限り、確かに僅差ではあるが、徳山が
前回よりは明白に優位に立ったように思えた。

手数では徳山が明らかに上。ヒット数もわずかに徳山が上回ったと思う。
見た目のダメージでは徳山の印象がより悪かった気もするが、それは徳山が
足を使うタイプだからだろう。

とにかく前進、という単調なペニャロサは、ダメージが仮にあってもあまり
見た目には変わらないが、徳山の場合は足が止まった時点ではっきりと動きが
鈍ったことが分かってしまうからだ。しかし後半にめっきり手数が減った
ことからも、ペニャロサも相当疲労していたことは確かだ。

単調ながらも前に出てパンチを当てるペニャロサと、下がりながらも多彩な
パンチをヒットした徳山。これまたどちらに優劣をつけるかは難しいところ
だが、少なくとも試合運びの面では、徳山が大勢のラウンドを支配していた
ように見えた。印象的に、ペニャロサが徳山に振り回されている、という
感じがしたのだ。

ペニャロサは確かに頑張ったし、判定を聞いた瞬間に座り込んでしまった姿に
同情も覚えた人も多いだろう。日本人は、心情的にひたすら前に出るファイターに
弱いものだ。しかし勝負は勝負だ。坂本博之がスティーブ・ジョンストンに、
あるいは畑山隆則がジュリアン・ロルシ-に敗れた時と同様、ファイターが
テクニシャンと対した時に見せる能力の限界を、ペニャロサは晒してしまった。
ペニャロサはテクニックにも定評がある選手だが、今回はただしつこいだけの
ファイターに見えた。それだけ徳山のテクニックが勝っていたのだろう。


それにしても今回は、4選手ともに死力を尽くした素晴らしい戦い振りを
見せてくれた。本来はテクニシャンであるはずの4人だが、技術よりも気迫を
全面に出したファイトをした。見る人が見れば、はっきりしない退屈な試合、
という後味を覚えたかもしれない。昔の剣豪ではないが、達人同士が戦えば、
表面的には凡戦に映ってしまうことも多いのだ。

見る者全てに強烈なインパクトを与えた、という内容ではなかったかも
しれないが、2試合ともに、2002年を締め括るにふさわしい非常に
レベルの高い世界戦であったことは間違いない。