ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

WBC世界バンタム級TM 長谷川穂積vsシモーネ・マルドロット

2008年01月10日 | 国内試合(世界タイトル)
長谷川が大差の判定で5度目の防衛に成功、日本人のバンタム級
世界王座防衛最多記録を更新した。

欧州王座8度防衛中の世界1位に対し、力の差を見せ付けて
完勝したことは素晴らしい。ランキングと実力は必ずしも比例しない
とはいえ、上位ランカーばかりを相手に勝ち続ける長谷川の強さは本物だ。
しかし、内容を見れば決して「会心の出来」とは言えない。


負の要素は、枚挙にいとまがない。一時は引退まで考えたという
ジム移籍のゴタゴタ、それに伴うブランク、約13kgに及んだ減量、
移籍後初の試合、そして夢のアメリカ進出のためには「いい勝ち方を
しなければならない」というプレッシャー(世界1位を相手に快勝が
義務づけられるチャンピオンなどそう多くはない)。

そして試合中には、相手のパンチによる大量の出血(実際は
バッティングによる傷である可能性が高い)。無理に打ち合いに行って
傷が深くなれば、試合をストップされてTKO負けになる恐れがある。
そこで長谷川は迷い、行くに行けなくなってしまった。

また、この日の長谷川は、なぜか動きにいつもの切れがなかった。
過酷な減量のせいだろうか、KOを意識しすぎたせいだろうか。
最大の魅力であるはずの、スピードがあまり感じられない。


様々な逆境を前にしても、長谷川は巧みな体さばきで相手のパンチを
かわしたり、終盤には激しい打ち合いを仕掛けたりと、何とか観客を
湧かせようという努力はしていた。そして何より、そういった状況の
中でも大差で勝ってしまう辺りはさすがである。

ただ、長谷川がさらに大きな舞台を目指していることを考えれば、
決して万人を納得させるような内容でなかったのも事実だ。
トレーニングによって体が大きくなり、減量も厳しさを増している。
コンディショニングの面も含め、今後に課題を残した試合でもあった。

WBA世界バンタム級TM ウラジミール・シドレンコvs池原信遂

2008年01月10日 | 国内試合(世界タイトル)
池原は大差判定で敗れ、王座獲得はならなかった。
王者シドレンコにとってはポイント差ほど楽な展開ではなく、
池原は健闘したとも言えるが、もっと出来ただろう、というのが
正直な思いだ。

池原は、2ラウンドにもらったパンチが効いたことにより、
ボクシングに迷いが生じてしまったという。「絶対に下がらず、
前に出て手を出し続ける」そこにしか勝機はなかったはずなのに、
思うように前へ行けなかった。というより、前には出ていたが、
そこにはシドレンコを下がらせるほどのパワーが感じられなかった。

リング中央で打ち合い、一見すると五分に戦えているようにも見える。
しかし、攻防ともに正確性では王者が一枚も二枚も上。必然的に、
ポイントはどんどんシドレンコの方に流れていく。リングの中央ではなく、
相手をロープやコーナーに押し込むくらいの勢いが必要だった。
多少見栄えが悪くとも、多少レフェリーに注意されても、シドレンコの
バランスを崩させ、疲れさせるくらいに押し込めれば・・・。

もちろん、それをさせなかったシドレンコの巧さもある。さすがに
無敗の王者だ。確かに崩しにくい選手ではある。しかし、決して
絶対に崩せない、というほどではない。


池原は試合前「負けたら引退」と考えていたようだが、今回は
少し悔いの残る負け方だったのではないだろうか。ファンが池原の
世界挑戦をもう一度見たがっているかどうかはさておき、個人的には
がむしゃらに勝ちに行けばもう少しやれたはず、という思いが強い。