<引作の大楠 ひきづくりのおおぐす>
自然信仰の痕跡があちこちに残る熊野という地には、
これまでご紹介してきた「巨石」「川滝」だけでなく、
スケールの大きな「巨木」の類もたくさん見られます。
かつて南方熊楠が一生をかけて神社を守ろうとしたのは、
「鎮守の森」に育まれた多種多様な樹木の中に、
「命の源」があると知っていたからなのでした。
巨木信仰の名残とも言うべきこれらの場所は、
ほとんどの場合、神社境内の一角に置かれていますが、
中には巨大な樹木の存在があったからこそ、
人々の畏敬の念を引き寄せ、次第に「神社」へと
その姿を変えたようなところも少なからずあります。
南牟婁郡・御浜町にある引作の大楠は、
日本を代表する民俗学者・柳田国男が、
南方熊楠の呼びかけに応じて協力を申し出、
国に働きかけた結果、伐採を免れた奇跡の楠です。
遠方からでも確認できるその規格外の「生き物」は、
近づいていくうちにさらに凄みを増して行きました。