<滝の拝・矢倉神社 たきのはいやぐらじんじゃ>
古座川町・滝の拝の山中にある神社を探すべく、
民家の裏手の山へと足を踏み入れたとき、
人里との境界を示す林の向こう側にあったのは、
「山師」が歩き回るようなケモノ道でした。
人の足で踏み固められたその「道らしきもの」は、
山の斜面を四方八方に這うように広がり、
どちらの方向に進めばよいかすら見当がつきません。
とりあえず、一番歩きやすそうな道を選び、
手探り状態で坂を登りはじめてはみたものの、
表土は崩れやすく、一歩足を踏み外せば、
たちまち斜面をすべり落ちるような地形です。
神社の痕跡などどこにも見当たらないどころか、
幾度となく枯れ枝や切り株に足を取られ、
すぐに先に進むことが難しくなりました。
さらに上へと伸びる道を見上げても、
動物の本能が「これ以上進むのは危険」と訴えます。
とにかくにも出直したほうが得策だと考え、
山の入り口のほうへとふと視線を移すと、
木々の間を横切る人影が目に入りました。
大急ぎで今来た山道を引き返し、
その人影を追いかけて行ったところ、
留守だと思っていた麓の民家の庭先で、
植木に水をやるひとりの女性を発見したのです。