大阪の秘境路線「南海汐見橋線」 過疎地ばりの乗降客数がなぜか増加! もしや将来ワンチャンあるのか

Merkmal7/6(土)6:11

大阪の秘境路線「南海汐見橋線」 過疎地ばりの乗降客数がなぜか増加! もしや将来ワンチャンあるのか

西成区を走る汐見橋線の列車(画像:高田泰)

 

沿線は昭和のレトロ感いっぱい

 大阪市の真ん中を走りながら、過疎地のローカル線並みの乗降客しかいない南海電鉄の汐見橋線。廃止のうわさも絶えないが、乗降客はわずかずつ増加に転じている。大阪市の中心部を東西に貫く千日前通から駅舎に入ると、昭和の時代に迷い込んだ気分になった。1956(昭和31)年改築の駅舎は外壁に現代的なアート作品が描かれているが、内部は大正モダン風の壁、日本画風の観光案内図などレトロ感いっぱい。大阪市浪速区の南海汐見橋駅。ミナミの繁華街から1kmほどしか離れていないのに、異彩を放つ。

 1面2線のホームにワンマン運転で2両編成の電車がやってきた。西成区の岸里玉出(きしのさとたまで)駅まで4.6kmを30分に1本のダイヤで走るが、車内はガラガラ。車窓から昭和の街並みを思わせる木造の古びた民家や店舗が見える。

駅前が無舗装の木津川駅(画像:高田泰)

衰退する商店街と高齢化の現実

 西成区に入っていくつかの駅で途中下車した。無人駅の木津川駅は2022年の1日平均乗降客数が

「約130人」

と過疎地の駅と変わらない。駅前の路面は最近ほとんど目にしない無舗装。人通りは少ない。少し離れた場所に市営住宅があるものの、駅前から民家は見えず、古い工場や倉庫が並ぶ。その工場の外壁はトタンがさびて赤茶色になっていた。

 同じく無人駅の西天下茶屋駅は1930(昭和5)年ごろ建築の古い木造駅舎が残る。近くにNHK連続テレビ小説「ふたりっ子」の舞台になった銀座商店街(西天下茶屋商店街)があるが、コーヒー1杯160円で有名だった喫茶店など多くの店がシャッターを閉じている。西成区は過去60年間で人口が半減した。衰退する地域の姿が商店街に映し出された感じだ。

 商店街の周囲は古い住宅街が続く。西成区は65歳以上の高齢者が全人口に占める割合を示す高齢化率が37%と大阪24区で突出して高い。近くに住む60代の女性は

「年寄りばかりになったら、電車に乗る人も減るやろ」

と話す。木津川駅以外の1日平均乗降客数は2022年で浪速区が汐見橋駅約580人、芦原町駅約200人、西成区が津守駅約700人、西天下茶屋駅約210人。高度経済成長期よりひと桁少ないが、この10年ほどでわずかながら増加に転じている。

岸里玉出駅に到着した汐見橋線の列車。手前が南海本線(画像:高田泰)

汐見橋線の歴史と変遷

 汐見橋線は通称で、正式には南海高野線。もともと私鉄の高野鉄道が和歌山県の高野山へ向かう路線として明治時代の1900(明治33)年に敷設した。

 その後、高野鉄道が南海電鉄に合併され、列車の始発駅が中央区の南海難波駅に移ったため、汐見橋線は短距離路線になった。しかも、1985(昭和60)年の南海本線高架化で高野線の線路が完全に分断されている。

 汐見橋線は1960年代前半、汐見橋駅の1日平均乗降客が4500人を超すなど、都会の鉄道路線といえる利用があった。それを支えたのは沿線にあった工場への通勤だ。戦前にはユニチカの前身に当たる大日本紡績の津守工場が約4000人の従業員を抱え、西成区の社宅近くに鶴見橋商店街が形成された。

 大阪府によると、戦後も大阪府内にある工場のうち、大阪市が1955年で67%、1970年で54%を占め、汐見橋線沿線にも金属や機械、繊維関係などの工場が立地していた。しかし、工場の減少で通勤利用が減り、

「都会の秘境路線」

などと呼ばれるようになる。

阪神桜川駅と隣接する南海汐見橋駅(右)(画像:高田泰)

なにわ筋線ルートに選ばれず

 それでも、南海電鉄が路線を維持した背景には、JR西日本と南海電鉄が乗り入れるなにわ筋線との接続計画があった。国土交通省の近畿地方交通審議会が2004(平成16)年に出した答申では、なにわ筋線について

「JR新大阪駅からJR難波駅と南海汐見橋駅を結ぶ」

としている。

 これを見越し、南海電鉄は一時、汐見橋〜木津川間を地下化する構想を検討した。しかし、なにわ筋線との接続は2017年、浪速区のミナミの繁華街に新設される南海新難波駅(仮称)を通るルートに決まる。南海電鉄は汐見橋線廃止を一貫して否定してきたが、鉄道ファンの間では

「これで廃止になるのでないか」

と不安視する声が上がった。

シャッターを閉じた店舗が並ぶ西天下茶屋駅近くの商店街(画像:高田泰)

汐見橋駅と木津川駅は乗降客がほぼ倍増

 ところが、大阪府統計年鑑を見ると、2000年代まで減少の一途だった汐見橋線の乗客が増加に転じている。1990(平成2)年に800人以上の1日平均乗降客があった汐見橋駅は、2007年に約330人まで低下したが、その後は2010年に400人台、2014年に500人台、2018年に

「600人台」

を回復した。

 その他の駅で乗降客が最少になったのは、芦原町駅と津守駅が2014年、木津川駅が2012年、西天下茶屋駅が2018年。これら4駅もその後はコロナ禍まで増加が続いている。汐見橋駅と木津川駅に限れば、乗降客数がほぼ倍増した。

 南海電鉄は

「詳細な分析をしておらず、増加の原因は分からない」

としているが、沿線住民の間では阪神電鉄なんば線が2009年に開通し、汐見橋駅の隣に桜川駅が開設されたことで西九条や神戸、尼崎方面への移動が便利になったことを挙げる声が多かった。

 西天下茶屋駅近くの商店主は

「梅田や難波へ行くときは自転車で天下茶屋駅へ行き、南海本線か大阪メトロ堺筋線に乗るが、西九条や神戸に行くには汐見橋線が便利や。去年は京セラドームのプロ野球日本シリーズや甲子園球場の阪神戦に利用した」

という。沿線には高校があり、地域の足として欠かせない一面もある。西成区は利用促進などの対応をしていないが、高齢化が進む地域のコミュニティ維持を積極的に支援している。西成区総合企画課は

「高齢者や高校生の足でもあるだけに、汐見橋線の動向を注視している」

と話した。

 乗降客数が増加傾向にあるとはいえ、現在の数字が危機的水準であることに変わりない。利用をもっと伸ばすには衰退が続く沿線の活性化が必要だ。地域の足である鉄道を維持するためにも、大阪市が近年、力を入れる西成区振興策の次の一手が待たれる。

 

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