最近出た「日中韓を振り回すナショナリズムの正体」という本を読みました。歴史家の保阪正康さんと半藤一利さんの対談本です。日本、中国、韓国のそ れぞれのナショナリズムの背景、第二次大戦にいたる日本と中国のナショナリズムなど、歴史家のお二人ならではの指摘もあり、たいへん興味深い本でした。
とても読みやすく、多くの人に読んでほしい本です。お薦めの本です。
特におもしろかった箇所を出典を明記して引用します。
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保阪:
「今の若い人たちに言っておきたいんですが、玉砕だ、特攻だ、というのは、断じて、下部構造の、庶民の側にあったナショナリズムなんかじゃありません。日本の伝統文化に反します。」(中略)
半藤:
「そ
うですよ。特攻とか玉砕とか、そういう思想は、本来、日本人にないものです。当時の指導者の愚劣と無責任と腐敗を示すだけのものです。ですが、それを上部
構造の人たち、つまり権力者たちが上手く使うんです。戦争中の「国のため」という言葉がそのよき例のように思われます。」
保阪:「玉砕や特攻に若い人を平気で駆り出す」
半藤:
「指導者がそれで『国のために、いさぎよく死んだ』と美談にするんです。「滅びんとする国家を救うために、おまえたちが死んでいくことは美しいことなんだ」と思い込ませて、庶民の心を上手く利用してしまったんですよ。
こ
の頃さかんに出版される戦記小説なんかを読むとびっくりさせられる。悠久の大義の美名のもとに、若い人たちに無益な死を強いる。その醜悪とも言える面に目
をつぶって、その燃え上がるような意思を強調するものが多いんです。これはまさに、上部構造の権力者たちが庶民の心に上手く取り入る方法論と、そっくりで
す。」(26~27ページ)
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無謀な作戦を美化したら、もう一度同じことをやらせようとする為政者や軍事指導者が出てくるかもしれません。
保阪さんのご著書だったと思いますが、「海軍のバカヤロー」と叫んで特攻に行った特攻隊員も多かったそうです。
尊い犠牲を無駄にしたいためにも、美化しすぎないよう、英雄視しすぎないよう、気をつけた方がよいのかもしれません。
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保阪:
「確か昭和十三年か十四年頃から、当時の文部省な
どが礼儀に関する本を出しているんですよ。『年上の人に会ったらこうやって礼をしろ』とか、口の利き方がどうだとかいう内容で、国民の礼式に関する作法の
本なんです。なぜ、昭和十三年頃からこんな本が出るようになったのか不思議だったんですが、当時の国家権力が、国民の外形さえもナショナリズムの鋳型に入
れる目的で出版したんですね。」
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安倍総理の周辺取り巻きには、道徳教育とか、「親学」とか、好きな人が多いです。従順な国民をつくり権力に盲従させるための「道徳教育」にならないか監視していかないといけないと思います。
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保阪:
「各国でヘイトスピーチをする人たちを分析する
と、客観的にものを考えているところがなく、主観ばかりで発言するというんです。主観の領域でしか考えない人は、形容詞ばかりで語るものです。例えば、安
倍さんがよく言う、「強い国にする」とか、「美しい国」とかね。情緒に流されて、事実を確かめることを怠っているんですよ。何をすべきかが具体的でなく、
しかも、聞いている人に誤解を与える危険性がある。あるいは、情緒をかきたてることで、良からぬ目的に利用されかねない。形容詞を安易に使う人は、ナショ
ナリズムを軽々に語ってはいけないと、僕は思う。客観的に考える能力を付けるためには、知的な関心をもっと高める必要があります。知的関心を高めれば、自
然に想像力が働くようになる。相手はどう思うのか、相手の立場からはどう見えるのか、そうした想像力を持てば、自分勝手な主観だけでものを言うことはなく
なると思うんです。(208~209ページ)
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ものごとを独りよがりの主観で語る、見たくない現実から目をそむけ過去を美化する、そういう態度が戦争を再び招くのだと思います。今の政権の閣僚にはそういう人が多い印象があります。
ナショナリズムとうまく付き合う方法を真剣に考えなくてはいけません。そのためにはこの本はよいと思います。ぜひご一読を!
*出典:「日中韓を振り回すナショナリズムの正体」保阪正康、半藤一利著、東洋経済新報社、2014年
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