池田先生とゴルバチョフ元ソ連大統領 世紀を超えて30年の友情2022年9月2日
- 「核なき世界」「対話の文明」へ共闘
ソ連元大統領のミハイル・ゴルバチョフ氏が8月30日、91歳で死去した。東西冷戦を終結に導いた指導者であり、10度会見した池田先生とは、ライサ夫人ら家族と共に、深い友情で結ばれていた。氏の功績をしのび、世紀を超えた30年余の先生との交流の足跡をたどる。
「きょうは、大統領と“けんか”をしにきました。火花を散らしながら、何でも率直に語り合いましょう」
「池田会長のご活動は、よく存じ上げていますが、こんなに“情熱的”な方だとは知りませんでした。私も率直な対話が好きです」
30年を超える二人の友情は、こんな語らいから始まった。
1990年7月27日、場所はモスクワのクレムリン。ゴルバチョフ氏は85年に政権を掌握して以来、閉塞した社会を立て直す「ペレストロイカ」、東西冷戦に終止符を打ち、核軍拡競争に歯止めをかける「新思考外交」を展開し、まさに世界史の渦の中心にいた。
池田先生が、対話による平和と「人間の顔をした社会主義」を志向する歩みに最大の称賛を送ると、氏はこう応じた。
「池田会長はヒューマニズムの価値観と理想を高く掲げて、人類に大きな貢献をしておられる」「ペレストロイカの『新思考』も、池田会長の哲学の樹の一つの枝のようなものです」
当時の日本での関心は、ソ連の国家元首として初の「ゴルバチョフ来日」に集まっていた。
先生が「来年の春に日本を訪れたい」との発言を引き出すと、日本のメディアは大々的に会見の模様を報じた。
翌91年4月、氏は約束通り来日を果たし、過密スケジュールの合間を縫って、池田先生と再会した。
ところが、その4カ月後、氏の運命は暗転する。クーデターによる軟禁事件である。
企みは失敗に終わり、氏とライサ夫人は生還するが、同年12月に氏が大統領を辞任し、ソ連は崩壊した。氏が覚悟の上で動かした巨大な歴史の波は、氏自身をも押し流してしまったのである。
辞任の報に接すると、先生はただちに書簡を送った。
「これからです。これから、あなたの本当の人生が始まります。21世紀、22世紀の人たちのために、ともに働きましょう!」
ソ連の崩壊後、社会が混乱を極める中で、氏への評価も二転三転した。書記長や大統領の時代に群がった人々も、潮が引くように去った。毀誉褒貶は指導者の常ではあるが、信頼していた人間の裏切りや「うそ」の横行は、氏の心にこたえた。
冷戦終結も、「西側の勝利」「東側の敗北」という単純な図式で語られ、「文明の衝突」という新たな難題が持ち上がってくると、抑圧された社会に「人間の顔」を取り戻そうとした氏の挑戦は「過去の出来事」とされ、その「精神的遺産」に光が当てられる局面も少なくなった。
ライサ夫人は語っている。「かつての私は『事実と歴史は不変のもので、反駁できない』と思っていました。しかし実際は、歴史家が見たいと思う歴史だけが書かれ、事実さえも歪められることが、今は、わかりました」
そんな激動と転換の時代に、池田先生とゴルバチョフ氏は出会いを重ね、未来のため、青年のために行動し、語り残す“共同作業”に取り組んでいった。
93年4月に氏は創価大学を訪れ、「人類の未来と新思考の哲学」をテーマに記念講演。池田先生と語らう前に、ライサ夫人と二人で「ゴルバチョフ夫婦桜」を構内に植樹したのも、この時である。
その後、氏と先生は対談の開始で合意。対談集は『20世紀の精神の教訓』のタイトルで発刊され、ドイツ語、フランス語、イタリア語など海外11言語で刊行されてきた。
97年11月、ゴルバチョフ氏夫妻は関西を訪問。19日に大阪市中央公会堂で氏の講演が開かれ、翌20日には関西創価学園で、学園生との交流がもたれた。
池田先生は学園生を前に訴えた。「この青年たちとともに、私はご夫妻に、改めて『民衆からの喝采』を贈りたい。また『全世界からの感謝』を捧げたい。そして、『21世紀の人類からの連帯の大拍手』で、ご夫妻を包みたいのであります」
99年9月、氏を支えた最愛の伴侶であるライサ夫人が白血病のため死去した。闘病中からお見舞いの伝言を届けていた池田先生は、すぐさま弔電を打ち、心からの哀悼の意を表した。
夫人亡き後、令嬢のイリーナさんらを交えた語らい(2001年11月、東京)で、先生は氏に強く語った。
「あなたは獅子です。私も獅子と思って戦っています。平和のために戦う獅子に、困難、苦難、迫害など小さいものです。あなたは勝ちました!」
大統領退任後も、ゴルバチョフ財団の総裁として活発に発言し、執筆活動を続けた氏。本紙に寄せた最後の原稿となったのが、昨年の5・3「創価学会の日」を慶祝して寄せられた文である。そこで語られていたのは、「核兵器なき世界」への執念と「対話の精神」への信頼だった。
「かつて、米ソ首脳は、レイキャビクで核兵器のない世界を目指す歩みを開始しました。それは平坦ではなく、茨の道でした。しかし、核兵器の全廃以外に目的はあり得ません」
「今、必要なことは『対話』です。恨みや非難や失望といった、感情にこだわった対話ではなく、『私たち人類には共通の運命があり、新たな脅威には誰もが脆弱である』との認識に基づいた対話が必要なのです。それはまさに、池田会長と私が実践してきた『対話』の精神であり、そこから、人類は共同の繁栄へと向かうことができるのです」
モスクワにフルシチョフ、チェーホフ、ショスタコービッチらの著名人が眠るノヴォデヴィチ墓地がある。その一角にライサ夫人が眠る。報道によれば、その隣に、ゴルバチョフ氏も埋葬される予定だという。