興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

halo effect (光背効果)

2011-04-16 | プチ社会心理学

 世の中、容姿や外見の良い人がいろいろなところで何かと得をしている、ということについて疑念を持つ方はあまりいないと思います。あなた自身がそういう経験を実感しているかもしれないし、あなたの身近にいる人、たとえば親、きょうだい、親しい友人、恋人、配偶者が、そのように何かと「得」をしているのをしばしば見ているかもしれません。いずれにしても、「『見かけ』の良い人が社会的に有利」だということは、誰もが感覚的に知っていることだと思います。ところで直前の文で、『見かけ』と鍵括弧付きで書いたのは、見かけがイコール生まれつきの容姿とは限らないからです。ただ、仕事の面接などで、「第一印象が大事」というのは科学的にも根拠のあるもので、それゆえ人は大事な用事のときに外見に気を配ります。さらには、見かけだけではなく、学校で、成績の良い生徒が、成績がよいというだけで、それ以外の点、たとえば、性格や、行動面などでも、教師からポジティブに評価される傾向にある、ということについては誰もがご存知だと思います。

 さて、容姿や見かけについては、上記と正反対のことも事実であること、つまり、容姿や外見のよくない人が、何かと損をしていたり、社会的に不利だったりすることについても、疑念を持つ人は少なくないと思います。たとえば、太っている人がやせているひとに対して、ネガティブなイメージを受けやすかったり、中高年の女性が、若い女性よりも不利に扱われたり、秋葉系の男性が、そうでない男性と比べて何かと損をしていたり、喫煙者が非喫煙者に比べて、煙草を吸っている、というだけのことで、それ以外の点で偏見を受けたりして損をする傾向にあるのもご存知の方は多いと思います(これは超嫌煙地域カリフォルニア州では火を見るより明らかなことだけれど、近年嫌煙傾向が強くなってきている日本でもよく見られるようになってきている印象があります)。前の段落で、成績の良い生徒について述べましたが、成績の悪い生徒が、性格や行動面でも、教師から不当にネガティブな評価を受けやすいこともよく知られていますね。

 前置きがだいぶ長くなりましたが、これは社会心理学(或いは認知心理学)においては、「光背効果」(Halo effect)と呼ばれるものです。光景とは、聖像などの後ろに見られるあの光の輪です。わーっと背後からその人物を照らす光です。つまり、他者がある点においてポジティブな特徴(たとえば成績や能力や外見など)を持っていると、その評価が、その人の全体的な評価にまで広がってしまう、という手に汗握る恐ろしい傾向です。これは逆に、他者がある点においてネガティブな特徴(たとえば成績や能力や外見や喫煙など)を持っていると、その人全体の評価までがネガティブなものになってしまう、という手に汗握る恐ろしい傾向でもあります。そしてこの傾向は、好むと好まざるとに限らず、我々人間誰もが持っているもので、それはしばしば無意識的な選択や言動として現れていることがあります。

 これは社会における、明らかな差別や偏見の背後にあるものでもあるし、ずっと些細で当事者にしか分かりにくいけれど確かに存在する、という差別や偏見の根本でもあります。これは誰もが普段から「人間の性質」として十分に自覚している必要があるものですが、人を評価する立場にある人、たとえば教師、親、会社の上司などの立場にある人は、とくに注意が必要なものです。評価する側の人間は無意識的にしていることでも、評価される側の人間は、こういうことに敏感です。そこでこの二者の間でなんとなくネガティブな人間関係が展開して、それが複雑化する、ということもよくあります。人間が「完全にフェアに」誰かをありのままに見据えるのは難しいことですが(それが可能であるかも疑問です)この光背効果に気をつけることで、周りの人間が持っているいろいろな面を、バイアスなしに、あるいは少ないバイアスで、より正確に評価できるようになります。


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
おぉまぶしい! (Nancy)
2011-04-20 05:35:30
なるほど専門用語で光背効果というのですね。お勉強になります。
しかし今の世の中まったく手がかりが無いときにその人の判断材料を探して安心したりするのが当たり前になりつつあるんじゃないでしょうか。
例えば、
Yodakaさんが極悪事件を起こして捕まる、そしたらたいていの陪審員は、この人はエライセンセーなんだから被害者にも落ち度があったのかも?なんてまったく落ち度がない被害者の非を探してしまったり、、、
悲しいかな私達は「光背」に支配されているのかも?
返信する
Unknown (Yodaka)
2011-04-23 14:30:29
Nancyさん

こんにちは。実際これはいろいろな不公平、不平等のもとになっているもので、たとえばアメリカで交通違反などでPulled overされた人がたまたま若くて綺麗で感じのよい女の子で、Officeが男性だったときに、「この子はきっと運悪く魔が差したに違いない、常習ではあるまい」とか勝手に思い込んで見逃してしまったりペナルティーを甘~くしてしまったりするあれです。逆に一部のEthnic minorities(LatinoやBlackの人たち)が、Caucasianに比べて交通違反でずっと捕まりやすく、チケットも切られやすい、ということも、社会心理学や社会学の研究で明らかなことですね。力関係で強者にある人間(この場合Police)がそういうバイアスに無自覚だったりすると、それは非常に有害だと思います。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。