興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

檸檬と揚羽蝶

2023-09-27 | 戯言(たわごと、ざれごと)

 今年は庭に揚羽蝶がたくさん来るようになり、どうしてだろうと観察していたら、レモンの木に用があるようだった。

 それで息子が幼稚園から借りてきた図鑑で彼と一緒に調べてみたら、揚羽蝶はレモンを含む柑橘系の木に卵を産む事がわかった。

 随分前からこのレモンの木の葉は何者かによって食い荒らされていて、小さな芋虫を見つけては取り除いていたけれど、それが揚羽蝶の幼虫だったと知ったのは比較的最近だ。

 息子は1歳ぐらいからレモンが大好きで、例えばレストランなどで、我々夫婦が食べるカキフライに付いてくるカットされたレモンを目敏く見つけては食べてしまっていた。とても酸っぱそうに、とても嬉しそうに。

 それもあって、2年半ぐらい前に、妻がパルシステムでレモンの苗木を買ってくれたのだけれど、送られてきた苗木はほとんど葉っぱもない不思議なシロモノで、「これが果たしてレモンの木に展開するのだろうか」と半信半疑に育てていたら、ニョキニョキと大きくなり、いつしか私の身長を超えた。2メートルぐらいだろうか。

 しかし今のところまだレモンは結実していない。

 毎年、きれいで良い匂いのする白い花が咲き、小さな実ができ始めるけれど大きくなる前に落ちてしまう。息子も楽しみにしているので残念だ。

 でもレモンの木は姿が良くいい匂いで成長も早いので、既に十分に楽しくて、実はいつかそのうちに成ればいいと思っていた。

 しかし最近、揚羽蝶の大きな幼虫を複数発見して、新たな葛藤が出てきた。

 息子はレモンも好きだけれど、昆虫も大好きで、今はその緑色のかわいらしい芋虫に興奮している。

「そだてようよ!」

というので、芋虫たちが付いている枝ごとハサミで木から切り離し、水の入った一輪差しに入れて、大きな虫籠を縦にして、その中にそれらを丸ごと入れると、芋虫たちは、何事もなかったように、おいしそうにレモンの若葉を食べていた。

 揚羽蝶の幼虫を優先するか、レモンの木を優先するか。

 揚羽蝶の幼虫にとってはレモンの葉はご馳走で不可欠なものだけれど、うちのレモンの木はまだまだ小さく、あまり大きなダメージは与えたくない。すでにだいぶやられている。 

 それにしても、「害虫」って何だろうとつくづく思う。揚羽蝶の芋虫が害虫かどうかは、あくまでそれをその人間がどう捉えるかだと思う。

 話が若干逸れるけれど、最近、アメリカザリガニについてよく考える。

 というのも、6月ぐらいに、地域の固有の種のメダカを保護するための子供向けのザリガニ釣りのイベントに参加したときの、そこにいた何人かの子供たちのザリガニに対する残酷な扱いがとても気になったからだ。その子たちの親御さんたちの様子も気になった。

 そのイベントでは、みんなでザリガニを釣って一か所に集めて、最後は深く掘った穴にそのザリガニたちを生き埋めにして処理をしているので、そのイベントによく参加している子供たちは、大人たちのそうしたザリガニの扱い方をよく見ているのだろう。

 命と生態系の話にひとつの正しい答えなどもちろん存在しないし、大事なのは、それぞれが答えのない問いに考え続けて自分たちなりに行動していく事だと思う。

 自分としても、息子に、生き物の命の大切さと、外来種からその土地固有の生態系を守ることの重要性のバランスについてどう伝えていくか、考え続けている。

 いずれにしても、命に上下や優劣があるのだというメッセージは伝えないように気を付けているけれど、そこには様々な矛盾が孕んでいて、なかなか難しい。自分自身この辺りは矛盾していて、その矛盾がなかなか解けない。

「絶対に解放せずに、そのザリガニが死ぬまで責任をもつ」という条件で、このイベントでは、ザリガニは持ち帰らせてくれる。

 興味深いことに、持って帰る子はほとんどいない。いや、持って帰りたいという子はちらほらいたけれど、親御さんがそれを許さなかったりして、持ち帰りが成立しないのだ。

 うちには、以前カラスに襲われているところを息子と一緒に助けた大きなヒキガエルがいるので、そのヒキガエルの餌になると思い、事情をお話したら、主催者の方が、「まさに命の循環!」と快諾してくださり、特に小さいザリガニを厳選して持ち帰ってヒキガエルに与えてみたところ、最初は食いつきが良かったが、途中から全く見向きもしなくなった。

 それで、殺すわけにもいかないしどうしたものかと考えて、結局、この少し前から、めだかを飼おうと、タイミングよく息子と一緒に作っていたビオトープ池にはまだ居住者がいなくて空いていたので、そこで育てることにした。とりあえず、水草とタニシをたくさん入れて。ソーラーパネル式のエアポンプもついていて、なかなか悪くない環境だと思う。ザリガニは食欲がとても旺盛で、水草もすごい勢いで食べていくし、お世話はなかなか大変だけれど、それもだんだん落ち着いてきた。数か月経った今もそのザリガニたちは元気で、毎朝毎晩仕事の行き帰りなどにその子たちを観察するのが楽しみになっている。ザリガニは子供のころ大好きだったので、ザリガニを見るたびに、小さな幸福感が湧いてくる。

 話が大幅に脱線したけれど、今回の我が家の庭のレモンの木とアゲハチョウの幼虫の件は、そんなに難しい問題ではなく、彼の興味関心がレモンから揚羽蝶の幼虫にシフトした今は、幼虫を優先しようと思った。彼はもう少し大きくなると今度はレモンの木の方に再び興味を持つかもしれないし、小さな子供の好奇心はそれこそ生モノだ。

「よし、レモンの葉っぱをたくさんあげてアゲハ蝶の幼虫を育てよう!」

というと、息子は嬉しそうに「いいね!いいね」と言ったけれど、同時に、

「らいねんは このきに あみかけておこうね」

というので、どうして?と聞くと、

「らいねんは れもんたべたいから、はっぱがたべられちゃう」

と言う。「まあそうだけど、今後は揚羽蝶が卵産めなくてかわいそうだね」、と言いそうになったけれど、やめた。

 希望としては、揚羽蝶の幼虫がたくさん育っても大丈夫なくらいにレモンの木を大きく育てる事だ。

 今朝、息子は、その揚羽蝶の幼虫の入った虫かごを持って幼稚園に行った。息子の幼稚園は、みんなと共有する、という目的で、家で育てている生き物を幼稚園に持って行って良いことになっている。

 幼稚園に入ると、踊り場に、息子の親友の、大の虫好きの男の子が育てているカマキリの虫かごがあったので、その隣に揚羽蝶の幼虫の虫かごを置いた。

 すると、息子のお友達や親御さんたちがわらわらと集まってきて、絵本や図鑑によく出てくる揚羽蝶の幼虫の姿をみて喜んでくれて、息子もとても嬉しそうで、虫たちが与えてくれる豊かさを改めて感じた。

 あとで、カマキリの持ち主の男の子に聞いたけれど、彼は最近は、毎日幼稚園が終わると、カマキリのご飯のために必ず蝶を捕まえてから家に帰っているという。