興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

自己肯定感

2021-07-31 | プチ精神分析学/精神力動学

近年、「自己肯定感」について様々な書籍やネット記事があるのを目にします。YouTuberの方々も自己肯定感について熱心に語っておられますね。


一方で、こうしたコンテンツを片っ端から見たり読んだりして試したけれど自己肯定感は一向に上がらない、と私のところにいらっしゃるクライアントさんもたくさんいます。


私はこうしたコンテンツに直接触れる事は少なく、殆どが、クライアントさん情報なのですが、印象として多いのは、”to do list”的に、「これこれこういう事を日常生活に取り入れていきましょう、試していきましょう」という内容です。


確かに、生活の中に「新しい良いもの」を入れていくのは、何らかの効果をもたらすためには必要ですし、私もこの戦略はよく使いますが、意外と見かけないし聞こえてこないのは、「既存の悪いもの」を生活から取り除いていく作業の勧めです。


どんなに良い新しい習慣を生活に取り入れても、それを相殺するような悪い既存の習慣があれば、なかなか前進は難しいです。


例えば、「毎日最低3回身近な人に親切にする」という新しい習慣を取り入れても、その人が日頃自己嫌悪に陥りがちな「身近な人につらく当たる」という悪い行動を改めなくては、なかなか自己肯定感は改善しません。


もちろん新しい良いものを取り入れないよりかは遥かに良いですし、親切にする事を意識して生活する事で、自分の行動を客観視しやすくなりますし、つらく当たりにくくなる、という可能性は考えられます。


しかしこれでは「進歩や成長の効率」は良くありません。暴飲暴食をしながら質の高いサプリメントを飲むようです。


とは言っても、「新しい良い事」を生活に取り入れる方が、通常、「長年続いている悪い事」を生活から取り除くよりは取り組みやすいです。


というのも、「悪いこと」がその人の人生の中で継続されているのは、しばしばそこには深い意味や理由があり、それは多くの場合現時点では無意識だからです。


このように考えると、その「新しい良い事」が「長年続けている悪い事」の正反対の事だったりと、両者の関連性が深いほどに、その良い事を頑張って続けるほどに、悪い事の生活に占める割合は低くなっていくかもしれませんし、その深刻度や度合いも軽減していくかもしれません。実際、例えば、自傷行為に苦しむ人が、セルフケアの新しい習慣を生活に取り入れて継続していく中で、自傷が次第に減っていき、やがて自分を傷つけなくなった、という事例も少なくありません。


いずれにしても、自己肯定感を効率よく上げていくためには、新しい良い事を生活に取り入れると同時に、続いている悪いものを取り除く事が重要です。


それがすぐに取り組めないものであるならば、少なくとも、それが何なのか、何があなたを自己嫌悪へと貶めているのか、意識化して自覚していく事が大切です。


どのような「新しい良い事」を取り入れるのか決める時に、直接的でも間接的でも、上記の例のように、その自己嫌悪や自己否定の原因と関連性の深いものを選ぶと良いでしょう。