興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

お天気

2020-05-18 | 戯言(たわごと、ざれごと)
夕方。

在宅ワークが終わり、霧雨の中を息子と散歩していたら、彼は嬉しそうに、「おてんきだね!」と言った。

だいぶいろいろな事が話せるようになってきて、結構な会話もできるようになってきた。

それが嬉しくて、ついつい言葉についていろいろ説明しそうになるのだが、この時も、反射的に説明しそうになった。

お天気っていうのはね・・・と言い掛けて、ハッとする思いがした。

「お天気だね」という時の「お天気」は「良い」お天気の事なんだよ、と言いそうになったのだが、今日のこの天候が悪天候だと思うのは自分の主観に過ぎず、彼としてみたら、霧雨の中を歩く事はまだ新しい事で、楽しくて仕方がないようだった。

彼にとってはこの鬱蒼とした空のひんやりと冷たい雨の粒子たちが「良い天気」なのだろう。

刹那の逡巡の後で、そうだね、お天気だね、って答えたら、彼は嬉しそうに、「おてんきだね」を連発して走り出して、そんな彼を見ていたらこの天候もなかなか悪くないなと思えてきた。

いつものように、我々は駅に向かって歩いていた。彼の大好きな電車を見るためだ。

ここは結構な田舎で、2メートルどころか10メートル以内に人がいることも少ない。そんな片田舎の自宅から最寄りの駅は通常1時間に1本しか電車が来ないが、帰宅ラッシュ時は30分に1本来るので、夕方のこのタイミングに行くと上りと下りで大体2本は見られる。


到着する電車が目の前で見られるいつもの見送りスポットに着くと、ちょうどもうすぐ電車が来るという時で、駅には働きに行く服装の人たちが5人ぐらいプラットホームに立っていた。

不謹慎な話かもしれないけれど、自分にはこの在宅ワークが本当に合っている。

三度の飯より好きな心理カウンセリングの仕事だけれど、家族との時間はまた別次元の楽しさで、この2つのバランスにいつも葛藤していたら、こういう事態になった。

1セッションが終了して部屋の扉を開けるたびに、「パパ おかえり〜!」と満面の笑みで息子が走ってきてぎゅーしてくれるのだ。妻との時間もずっと増えた。

こんな日々が期間限定である事はもちろん分かっていて、オフィスに戻る日の心の準備をしなければと思いつつ、なかなかできずに日々は瞬く間に過ぎていくけれど、このおごそかな空気の夕方に仕事着で車内に入っていく人たちを見ていたら、ふいに、電車に乗ってオフィスに行く日が少し楽しみになってきて、そんな自分に少しだけ安心した。