興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

家族で受けるカウンセリングについて

2019-08-30 | 記事のリクエスト、質問など


今回は、夏椿さんから「家族でカウンセリングを受ける場合」の質問です。

夏椿さん、ご質問ありがとうございます。以下が夏椿さんからのご質問です:

「夫婦間の問題や家族間での問題の場合、一緒又は個々に同じカウンセラーさんにカウンセリングを受けることがあると思います。

では、夫婦間や家族間の問題としてカウンセリングを受けるのではなく、あくまでも個々のカウンセリングを受けたい場合。同じカウンセラーではなく、別のカウンセラーにて受けた方が良いのでしょうか? または同じカウンセラーでも問題ないものなのでしょうか? 

以前”カウンセラーは分けた方が良い”という話を聞いたことがあり質問に至ります。ご回答頂けたら幸いです。
よろしくお願いいたします」

早速、順を追って回答していきたいと思います。

「夫婦間の問題や家族間での問題の場合、一緒又は個々に同じカウンセラーさんにカウンセリングを受けることがあると思います」

仰せの通りです。カップルセラピー、家族療法、いずれも、同じカウンセラーがすべてのメンバーを担当する場合もあれば、それぞれのメンバーについては別のカウンセラーが担当する場合もあります。そのカップルや家族を担当するセラピストの流派や、施設のポリシーなどによります。

中立性を保つために、カップル(家族)にはひとりのセラピストが、カップル(家族)のそれぞれのメンバーは、それぞれ別のセラピストが担当する、というスタイルのところは実際たくさんあります。

一方で、情報量という点においては、ひとりのセラピストがすべてのメンバーをひとりで担当するのに越したことはありません。ただ、カップルセラピーにおいては、カップルとそれぞれのクライアントと、物理的にもひとりのセラピストが担当しやすいですが、たとえば、祖父母と父母、子供5人の大家族で、このうち4人が個人セッションが必要な場合など、時間的、労力的な点においても、ひとりのセラピストが全員担当するよりも何人かのセラピストで協力した方が得策な場合もあります。

さて、本題です。

「では、夫婦間や家族間の問題としてカウンセリングを受けるのではなく、あくまでも個々のカウンセリングを受けたい場合。同じカウンセラーではなく、別のカウンセラーにて受けた方が良いのでしょうか? または同じカウンセラーでも問題ないものなのでしょうか?

以前”カウンセラーは分けた方が良い”という話を聞いたことがあり質問に至ります。ご回答頂けたら幸いです。」

良い質問ですね。これもやはりそのセラピストの流派にもよりますし、そのカップルの性質にもよります。私としても、カップル(家族)セラピーはやらずに、その構成員個人それぞれのセラピーを一人で行うことがありますし、カップル(家族)セラピーのみ、あるいは、ひとりの構成員のみのセラピーを担当する場合もあります。

「カウンセラーは分けた方がいい」という意見も、先述したように一理あり、中立性が重視される場合は特に、別々のカウンセラーが良いかもしれません。

ひとつの目安としては、そのカップル(家族)が、パートナーシップ(家族単位)としては良好であり、そこに目立った問題がない場合、ひとりのセラピストが担当しても良いと思います。もちろんカウンセラーのスキルにもよります。もしそのカウンセラーがひとりのクライアントに共感や同一視をし過ぎるようであれば、もうひとりのクライアントのセッションに好まざる影響が出る可能性もありますし、分けた方が妥当です。そして、心理カウンセリングとは、非常に有機的なものであり、始めてみないとどのような展開になるかはわかりません。そこで、予期せぬまずい状況を未然に回避するためにも、「分けた方がよい」という考えがあります。

とは言っても、これはあくまで理想の話であり、現実として、実力のある心理カウンセラーに出会うのはなかなか容易でない場合があります。たとえばその家族や夫婦が地方に住んでいて心理カウンセラーの数が絶対的に少ない場合など、無理にそれぞれ別のセラピストに会うよりも、実力のあるひとりのセラピストに担当してもらった方が効果的な場合もあります。

 



臨床心理学を学ぶのは日本の大学院がアメリカの大学院か

2019-08-30 | アメリカで心理学者になる方法

皆さん、こんにちは。

今回は、Matsuyamaさんからの質問にお答え致します。Matsuyamaさん、ご質問ありがとうございます。質問内容は以下の通りです:

質問なのですが、私は心理学部卒で低賃金の心理に関わる仕事をしているのですが、自分のスキルアップを目指して日本の大学院に進学するか、海外に出るか悩んでいます。しかし調べてみると、アメリカに行けたとしても黒川さんのように博士まで取得し、資格試験に合格できるかかなり不安を感じます。TOEFL iBTでは最高で84点ですのでギリギリ授業についていけるかもしれませんが、心理学の授業は言い回しも難しいように感じられます。そこでなのですが、修士のLicensed Clinical Social Workerであっても取得しアメリカ・日本で生活に困らないレベルで生きていくことはできますでしょうか?なぜ海外を希望しているかと言いますと、なるべく多様な意見を聞き、それを日本の中で苦しんでいる人々に知らせたい、と思っているためです。

順を追ってお答えしていきますね。

質問なのですが、私は心理学部卒で低賃金の心理に関わる仕事をしているのですが、自分のスキルアップを目指して日本の大学院に進学するか、海外に出るか悩んでいます」

両者にそれぞれ一長一短があり、これは確かになかなか難しい問題ですね。とくに公認心理師という国家資格ができた今、ご自身のニーズと日本の心理臨床の現状の様々な側面を慎重に考慮する必要があると思います。

しかし調べてみると、アメリカに行けたとしても黒川さんのように博士まで取得し、資格試験に合格できるかかなり不安を感じます。TOEFL iBTでは最高で84点ですのでギリギリ授業についていけるかもしれませんが、心理学の授業は言い回しも難しいように感じられます。そこでなのですが、修士のLicensed Clinical Social Workerであっても取得しアメリカ・日本で生活に困らないレベルで生きていくことはできますでしょうか?」

まず、仰せのように、アメリカに留学して臨床心理学で博士号を修得し、資格試験に合格するのは、実際かなり大変なことです。博士号を修得するところまでは何とかなっても、サイコロジストの国家試験と州試験の受験資格を得て、資格試験に合格するまでアメリカに残ること自体が、移民法の関係で、非常に難しいです。

もっとも、これはLicensed Clinical Social Worker(LCSW)のプログラムにおいても言えることです。確かにLCSWは修士号の資格なので、Psychologistと比べると、修得しやすいですが、LCSWになるためにも数千時間の実務経験が必要ですし、授業(ディスカッションやプレゼンが多い)、課題、修士論文、実習と、相当な英語力が要求されます。そういう私も英語には本当に苦労しました。

ただ、これは本質的な問題ではないかもしれません。

Matuyamaさんが中学、高校時代に留学経験があったり、インターナショナルスクール出身だったり、家庭環境が英語であったりして、SpeakingとListeningのスキルが相当ない限り、大学院である程度英語で苦労するのは必至ですし、個人的には、これ自体が実はものすごく為になる経験だったと思っています。

苦労して授業についていく中で、また、英語圏の暮らしの中で、英語は身につけていくものです。いずれにしても、Readingの分量も修士課程の時点で半端じゃないので、勉強に明け暮れる生活になるのは覚悟した方が良いでしょう。

だた、こうして苦労して身に着けた知識は、ずっと残るものですし、努力は報われます。

「そこでなのですが、修士のLicensed Clinical Social Workerであっても取得しアメリカ・日本で生活に困らないレベルで生きていくことはできますでしょうか?なぜ海外を希望しているかと言いますと、なるべく多様な意見を聞き、それを日本の中で苦しんでいる人々に知らせたい、と思っているためです。」

正直なところ、これは保証はできません。というのも、アメリカ、特に西海岸と東海岸は、Psychologist、精神科医、LCSW、Marriage and Family Therapist(MFT)、それ以外の修士号の有資格者と、Mental health professionalで溢れていて、アメリカ人の有資格者でも開業を含めたいくつもの仕事をして生計を立てているのが現状だからです。

移民法の関係で、就労においてアメリカ市民が外国人に対して優先されるので、特に移民に対して排他的なトランプ政権下では、アメリカ人の有資格者を相当に引き離す何かを持っていない限り、労働ビザの獲得も難しいです。

やはり、何といっても、Matuyamaさんが大学院生時代にどれだけ臨床経験をして、どれだけ臨床心理学の知識と技術を身に着けて、どれだけプロフェッショナルなネットワークを作るかに掛かっています。

とはいっても、Clinical Social Workの修士号を修得し、LCSWの資格を取れる時点で、Matuyamaさんは相当な臨床技術と専門的知識を身に着けていることになるので、きっとその頃にはある程度道が開けているのではないかと思います。

CSWにしても、修士号を修得するまでは何とかなっても、ライセンスの受験資格を得てライセンシング・イグザムに合格するのは別次元の問題です。こうしたハードルを越えてLCSWの資格を得られるならば、その時点で、アメリカはともかく、日本では、かなりスキルのあるセラピストの部類に入るでしょうし、大幅なスキルアップは確実です。

ただ、Matuyamaさんもご存知のように、日本は医療機関や教育機関で働くには、公認心理師の資格が今後ますます重要になってくるため、もし公認心理師の受験資格がおありでしたら、今現在の移行期間中にまずは公認心理師の資格を取ってから進学されるのが良いと思います(もしまだ取っていないのでしたら)。日本の大学院は、公認心理師の資格ができてから、だいぶ様子が変わってきていると聞いています。私は詳しいことは分かりませんが、今後、条件を満たした心理学の学士号がないと、大学院を出ても公認心理師にはなれないと聞いています。

今後日本のメンタルヘルスの分野がどのようになっていくのか、正直ちょっと先が読めないのです。

Matuyamaさんが、心理臨床のスキルアップのみを目指しているのであれば、確かにアメリカの大学院が最善だと思います。多様性という観点では、アメリカ、特に西海岸と東海岸の心理臨床に勝る場所はないでしょう。

ただ、「生活に困らないレベルで生きていく」ことは、また別の話です。ご存知のように、有資格者であっても、日本の心理臨床は、決して高収入の業界ではありません。臨床心理士の有資格者が時給1000円で雇われていたりする国です。スクールカウンセラーなど、比較的お給料は良いですが、人気があり、競争率も高いですね。「生活に困らないレベルで生きていく」には、やはり、どこかに就労するだけでなく、ご自身で独立開業などをしていく必要があると思います。

とはいっても、LCSWの資格を取れるぐらいの実力があれば、日本で独立開業をすることは十分に可能だと思います。ただ、先述したように、公認心理師の資格が導入されて以来、日本の心理臨床の様子が急速に変わりつつあるので、常に情報収集しながら、様々な可能性に対応できるように計画を立てていく必要があると思います。

老婆心からいろいろ言ってしまってすみません。この回答がMastuyamaさんの進路決定に少しでもお役に立てば幸いです。