興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

フネさんの眼差し

2017-11-15 | 戯言(たわごと、ざれごと)

日曜日にたまたま付いていたテレビでやっていたサザエさんを見ていたらすごく面白くて見入ってしまいました (ちびまる子ちゃんも大変面白かったので機会があれば別エントリーで書きたいと思います)。

サザエさんのその回は、カツオのお母さん(フネ)が異様にババ抜きが強い、というところから物語が展開していきます。

お母さんの強さの秘訣として、最初、カツオ達はお母さんの「ポーカーフェイスの上手さ」仮説を立てるのですが、タラちゃんはこの「ポーカーフェイス」という彼にとっての新概念にときめき、おばあちゃんに憧れを抱きます。

ここにはタラちゃんのフネさんに対する無意識の理想化の規制が働いているわけですが、ここからが見もので、タラちゃんが、「何があっても動じない、顔色ひとつ変えない」と思っていたおばあちゃんは、ふたりでお出かけした行き先で不意に出くわした蜘蛛に悲鳴をあげます。そこでたらちゃんにそれまで利いていた理想化の規制が若干解け、おばあちゃんも自分と同じ不完全な人間なのだと感覚的に感じます。さらには、おばあちゃんはタラちゃんの心を読んで、喫茶店に寄り、タラちゃんが言語化していなかった「パフェが食べたい」ニーズを叶えてくれます。タラちゃんびっくりで、どうしてわかったのか尋ねると、おばあちゃん、「(タラちゃんの)顔に書いてある」との返答に混乱します。「顔に書いてないですぅ」。この「顔に書いてある」が良く理解できないながらもタラちゃんの心に留まります。

この後フネさんは文房具屋でカツオとワカメの学習帳がそろそろ終わるころだと言ってノートを2冊買って帰るわけですが、カツオとワカメはお母さんのこのタイムリーぶりにびっくりです。本当にふたりともノートが終わるところでした。

ここでカツオは「お母さんがババ抜き強いのはポーカーフェイスが上手い」説の誤りに気づきます。そして、お母さんがトランプに強いのは、カツオ達を普段から良く見ていて、子供たちの表情をよく見ていて、そこから子供たちの心の様子を読むのが上手だからだと悟りました。

この回の見どころは、フネさんの孫と子供たちが、その交流を通して、また、フネさんを注意深く観察することで、フネさんの本当の魅力に気づくところだと思います。タラちゃんが最初に「かっこいい」と思ったのはおばあちゃんのポーカーフェイスなどに見られる冷静さで、タラちゃんはその冷静さにほれ込んで最初一生懸命真似るわけですが、なかなかうまくいかず、落ち込んだりしているところ、フネさんも蜘蛛を見て大きく動揺するのを見て、おばあちゃんにだって自分と同じように隠せない感情があるんだ(この他者が自分と同じなんだと感じて安心させてくれる対象を精神分析学では「双子自己対象」と言います)、おばあちゃんのすごさはポーカーフェイスではない、他にもっと大事なものがあるんだと、子供ながらに感覚的に感じました。

なんだか取り留めのない文章になってしまいましたが、なんというか、ポーカーフェイス VS. 共感性・情緒応答性というテーマも面白かったですし、親がスマートフォンに夢中になって子供をきちんと見ていない、子供の気持ちに鈍感になりがちだ、ということが社会問題になっている現在、いろいろと考えさせられる一話でした。