興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

カップルセラピー (Couple therapy)とは?

2014-01-23 | カップル・夫婦・恋愛心理学

 心理カウンセリング、サイコセラピーと聞くと、日本では、クライアントの話をセラピストが一対一で聞く、というイメージを思い浮かべる方が多いと思いますが、実はそれだけではありません。日本ではまだあまり広く知られていないものの、特にアメリカで人気で、広く利用されているカップルセラピー(Couple therapy)というものがあります。

 これは、結婚関係に問題があって困っている夫婦、パートナー、恋愛関係で困っているカップル達が、ふたり一緒にやってきて、セラピストと3人で行うセラピーで、ふたりの間のコミュニケーション能力の向上、信頼関係の回復、向上、親密さの回復、向上を主なゴールにした治療です。冒頭で述べたように、これはアメリカ人の間で非常に親しみ深いもので、人間一対一の人間関係とコミュニケーションをとても大切にするアメリカ人は、その関係性に困ったら、すぐにカップルセラピーのできるセラピストのところにやってきます。

 ただ、残念なことに、本場アメリカでも、カップルセラピーのきちんとしたトレーニング、知識と経験を欠いたセラピストは多く、彼らはカップルセラピーを、まるであたかも個人セラピーX2のように行っていますが、これはあまり効果の期待できないもので、やはりこういうセラピストに当たってしまったカップルは、「カップルセラピーなんて効果がなかった」、と諦めてしまったりします。

 それではカップルセラピーは1セッションの間に個人セラピーを二人相手に交互にすることとどう違うのかといいますと、個人セラピーでは、クライアントとセラピストの人間関係とその対話がメインであるのに対して、カップルセラピーでは、あくまでそのふたりのクライアント(カップル)の対話と人間関係がメインであり、セラピストの役割は、そのカップルの対話を促進していくことにあります。

 カップルセラピーのきちんとしたバックグラウンドがないセラピストは、この大前提を知らずに、彼らにとってなじみの深い個人セラピーをそのまま応用しようとしてしまうのです。カップルセラピーにおいて決定的に大切なことに、セラピストはふたりの間の中立的な立場を守り、どちらかのサイドに回らない、ということですが、適切なトレーニングのないセラピストはこれに無自覚で、いつの間にかふたりのうちのどちらかに共感し過ぎて公平さを失い、もう一人のクライアントにそれを悟られて失敗します。

 また彼らは、カップルセラピー独特の、ひとりひとりのクライアントに対する適切な距離を知りません。私のところにも、以前にこういう経験をして嫌な思いをしてやめてしまった、というカップルが結構来ました。しかし、セラピストもただの人間ですので、この「中立を守る」というのは相当な訓練と経験が必要です。さらに、実際にこういうカップルに会ってみると、どうして彼らの前のセラピストがある一人の味方になってしまったのか、よくわかる、ということはよくあります。

 また、クライアントのほうから無意識にこうした問題を引き起こそうとしたりします。たとえば、「今日○○は調子が悪いから来ません。私だけ参加します」とか「前のセッションが辛かったみたい。彼は今回はパスするって。今日は私だけ」、などと、ひとりだけ治療にやってきたりします。こういうときに、うっかりひとりだけ会ってしまうとすぐにこのバランスは崩れてきます。また、一人が非常に自己愛的で共感性の欠けた人で、もう一人はその人の心無い言葉にとても傷ついている、となると、やはりセラピストとして中立を保つのは大変です。こうしたなかで、いかに公平に、この破壊的な関係性を変えていくように彼らをガイドしていくかが、カップルセラピストの腕の見せどころとなります。

 それから、離婚や別離が決まっているカップルでも、その別れの過程をより円滑で円満に経験したり、夫婦、恋愛関係は終わってしまうものの、良い人間関係は続いていけるようにカップルセラピー(しばしばDivorce therapy、離婚セラピーなどと呼ばれます)に参加するカップルも少なくありません。それから、カップルセラピーは開かれたセラピーであり、一緒にいることがよいことなのかどうかわからないカップルが、お互いにとって良い答えを見つけていく手助けをするのもカップルセラピストの仕事です。私は、Imago Relational Therapyと、Emotionally Focused Couple Therapyを融合したカップルセラピーを実践しています。日本人カップル及び、日本人と、英語圏の方の国際カップル、英語圏同士のカップルが対象です。異性カップル、同性カップルと、問いません。Imago Relational TherapyとEmotionally Focused Couple Therapy については、後ほど改めて書いてみたいと思います。