興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

大切な人との会話が続かなくて困っている人へ

2013-01-15 | プチ臨床心理学

 「沈黙は金、雄弁は銀」、などと、もの静かであることが美徳とされていた時代がありました。しかし現在は、欧米文化の影響などで社会が変わり、また、個人個人の違いが大きくなり、黙っていても「以心伝心」で互いに分かり合えるようなことはあまり期待できず、「沈黙は禁」、ある意味、黙っていると誤解が生じたり、どんどん状況が悪くなるような時代、言語による直接的な表現、コミュニケーションが不可欠な時代になっているように思われます。2010年のわが国日本の離婚率は36%といわれていますが、これは日本社会の大きな変容、人々の、結婚や親密な人間関係における価値観の大きな変化の表れであるように思います。さらに、時代や価値観が変わりつつあるけれど、その変化に個々の人々がついていけず、適切なコミュニケーションの方法が分からないまま、はじめは小さな行き違いであったのが、その積み重ねで、気付いたら大切な人との間にどうしようもなく大きなこころの溝ができていた、という経験をした、している、という方も多いと思います。

 タイトルはあえて「大切な人」としました。というのも、これは親子間、夫婦間、恋人同士、親しい友人同士など、様々な、大切な人間関係について考えてみたいと思ったからです。こうした人間関係において、「話すことがない」、「共通の話題がない、なくなった」、「相手が何を考えているのか分からない」、「沈黙が苦痛」、「話を続けるのが大変」、「間が持たない」、などという悩みはよく聞くもので、誰もが経験したことのあることではないかと思います。

 さて、こうした厄介な状況を打破するのは、努力こそ必要であるもの、実はあなたが想像している程には難しくはなく、決して不可能ではない、ということがいえます。

 努力、と言いました。会話をするのに努力が必要であるということを知らなかったり、忘れていたり、また、話すのに努力するのは間違ったことだと思っている方がいますが、それは違います。会話には、努力が必要です。具体的に、努力とは何かと言うと、1)相手の話すことに興味を持つ、2)相手の話に注意を向けてよく聞く、3)会話を始めること、その会話を続けることは、「あなたの責任」、「あなた次第」であり、その責任を相手に委ねてはいけない、ということの自覚です。よく、相手が話し出すのを待っている方がいますが、それでは相手が話し出さなかったら一向に会話は起こらず、2人の間に交流が起こりません。また、相手のほうも、あなたが話し出すのを待っているかもしれません。そこであなたから話しはじめることで、相手も助かるし、あなたも不確かなものを待つ、という状況から脱出できます。そして何より大事なのは、会話が始まることで、少なくとも(会話がないことに対して)そこには相互理解や良い交流の可能性が発生する、ということです。「蒔かぬ種は生えぬ」、といいますが、会話をはじめること、つまり、種を蒔く事なくして、良い交流は望めません。

 さて、会話を始めましょう、といいましたが、別にあなたが話し続ける必要はありません。むしろ、あなたが一方的に話していては、そこにはよい交流は生じません。会話にはキャッチボールが必要です。ここで大変便利なのが、「開かれた質問」(Open-ended questions)と呼ばれる形の質問で、これは、Yes, Noでは答えられない、しかし、質問された人がその人の気分次第で自由に回答の長さ、深さなどを決められる種類の質問です。たとえば、「週末はどうだった?」、「学校はどうだった?」、「今日はどんな一日だった?」などのHow, Whatなどの質問です。これに対応する「閉ざされた質問」(Closed ended questions)は、「週末は良かった?」、「学校は楽しかった?」、「今日は良い一日だった?」などで、「よかったよ」、「楽しかったよ」、「うん」、「ううん」、などの一言で終わってしまいます。

 「開かれた質問だって、一言で終わっちゃうじゃん、『週末はどうだった』には『楽しかったよ』、『学校はどうだった』には、『普通』、『いつもどうり』とかで終わっちゃうじゃん」、という指摘がありますが、そうですね、これだけでは足りなかったりしますね(これでうまく話を引き出せる場合もあるのですよ)。どうしましょう。これは、先に述べた1)相手の話すことに興味を持つ、2)相手の話に注意を向けてよく聞く、に当たります。会話が続かないと言うあなたに逆にお聞きしますが、あなたは「本当に相手の会話に興味があります」か?「興味をもって聞いています」か?会話には努力が必要だと言いましたが、これには、「相手の会話に興味を持つ」、ということも含まれます。続けていくうちにそれがあなたの新しい能力となるので、やがてあまり努力しなくても興味がもてるようになりますが、そうなるまで意識的な努力が必要です。興味を持っているつもりで、「会話が途切れたらどうしよう」、「どういう風に返そうかな」、「なんていったら良いんだろう」、「良い返答が思いつかない」、などという自意識が生じて、話している相手よりも、自分のほうに注意が向いてしまっているひとは、少なくありません。そして、そういう空気は相手に伝わり、「あんまりきちんと聞いてないな」と思った話者は会話へのモティベーションを失います。だから、相手の話に本当に興味を持って、耳を傾けることが大事なのです。

 そういうわけで、相手に話に興味を持つわけですが、すると、「週末はどうだった」、に、「楽しかったよ」、という返答が帰ってきたときに、「何したの」、と自然に聞けるし、「映画館に行ったよ」、には、「何見たの」、「グーニーズ」、「へー、『グーニーズ』みたんだ。あれってどういう話なの」(もしあなたがその映画をまだ見ていなくて、見る予定がなかった場合。もし見る予定がある場合は→)「へー、『グーニーズ』みたんだ。まだ見てないんだけど、どこがよかった?(どこが見所だった?)」などと 「開かれた質問」が連鎖していき、話は徐々に深まっていきます。あなたのお子様に、「学校はどうだった」、と聞いて、「いつもと変わんないよ」、と言われたら、「そう、いつもと変わらなかったんだ、いつも通りにどうだった?楽しかった?」、「楽しくない、つまらなかった」、「つまらなかったか。何が一番つまらなかった?」、「体育」、「体育。どういうことしたの?」、「バスケ」、「バスケしたのね。どうしてつまらなかったの」、「補欠で試合に出してもらえなかったんだ。見てるだけだった」、「そう、出してもらえなかったのね。それは残念だったわね。つまらなかったの、よく分かるわ」などと話が続くことでしょう(ここで会話が終わったとしても、これは意味のある良い会話です。あなたのお子様が学校生活をどのように経験していて、どんな気持ちで生きているのか、何をしているのか、理解できました)。ここで、質問をするときに大事なのは、そこにあなたが本当に興味を持っていて、相手のことを知りたい、という気持ちがあることです。なんとなく無目的に質問していると、それは当然相手に伝わります。逆に、あなたが本当に興味を持って聞いていると、それも当然相手に伝わります。それからもうひとつ大事なのは、相手に「詮索されている」、「侵入的」、と思われないようにすることです。質問は矢継ぎ早ではなく、程よい間隔があると良いです。

 さて、以上の3点、1)相手の話に興味をもつ、2)相手の話に注意を向けてよく聞く、3)会話をあなたの方から始める、また、その会話に責任をもつ、ということを踏まえて、しかし気軽に、大切な人との会話を試みてください。大切なのは、種を蒔くことです。最初はうまくいかないかも知れませんが、それでも、トライすることで生じる問題はあまりありません。トライしないことで生じる問題は、計り知れません。そして、トライしているあなたの真剣さそのものが、あなたと大切な人との人間関係に良い変化をもたらすことも多いです。あまり気にせずに、楽しむつもりで、とにかくトライしてみましょう。相手もあなたと同じようなことで悩んでいるかもしれません。