興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

自信とは

2012-11-19 | プチ臨床心理学

 今回は、yumeさんから頂いた3つの質問のうちのひとつ、自信について書いてみようと思います。普段私たちが何気なく口にしている自信という言葉ですが、これは臨床心理学的にはなかなか複雑で、とても重要な概念です。これも、多くの方にとってとても大切なテーマだと思います。yumeさん、良いご質問、ありがとうございます。以下が、yumeさんからの質問の引用になります。

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【2.自信はあった方がいいか、それはなぜか】


世間的によく、自信があった方がいいといわれているように思います。確かに「自信がある」と「自信がない」を比べたら、自信があった方が良さそうな気がします。
でも、私は正直、自信がある人があまり得意ではありません。(自信のない人が得意というわけでもないですが。)テレビでも、自信ありそうに話している人を見ると、偉そうに感じたり、ちょっと引いて見てしまったりします。
一方で、最近職場で自己分析をする機会があったのですが、私の場合、自信という項目がほかに比べて際立って低く、それはそれでショックでした。たぶん、自信がまったくないわけではないと思うのですが、なぜか自信を持つことができません。
こういうこともあって、自信の必要性や大切さについてご意見を聞いてみたいなと思いました。

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 まず、自信という言葉ですが、自信(Self-confidence)の心理学的な定義として、「自己に対する肯定的な評価」ということがいえます。ただ、この「自信」という言葉は、特定の分野や事象に限られた使い方をされることが多いですね。たとえば、「仕事の能力に自信がある」とか、「容姿に自信がある」とか、「スポーツにおいては自信がある」とか、「コンピュータの知識については自信がある」とか、「良い親である自信がある」、といった使い方です。

 これに対して、より専門的、広範的な概念に、Self-esteem、というものがあります。Self-esteemにはいろいろな邦訳があり、一般的なものとして、「自尊感情」、「自己評価」、「自己価値」、「自己尊重」などがあります。yumeさんの質問内容から察するに、これは職場の自己分析ではあったものの、前者の「自信」よりも、この、もっと広範的なSelf-esteem, 自尊感情とより関係の深いもののように思います。というのも、yumeさんは、たとえば、今の仕事を続けていって能力を高めていくなかで、「仕事に対する自信」は時間の問題で早かれ遅かれついていくものだと思いますが、文面からするに、yumeさんが悩んでいるのは、特定の分野ではなくて、yumeの生活、人生の全体的な意味においての自己に対する見解のように思います。

 Self-esteemとは、Self(自己)における評価(Esteem)感情で、自分という人間が基本的に価値のあるものなのだという感覚です。自分という存在を、基本的に価値があって大切なものなのだと評価することで、ひとはその人生に対して積極的になり、いろいろな経験を重ね、達成感、満足感を抱き、自分のことも、他者のことも、受け入れられるようになります。

 これは健全なSelf-esteemのあり方であり、Yumeさんが苦手である「自信のある人」が、この健全なSelf-esteemの持ち主であるかといえば、そうとは限りません。とくに、偉そうにしゃべる人、自分がすごいのだと相手に分からせるように話す人、自分は自信があるのだとひけらかす人は、Self-esteemがインフレ状態にあるわけで、健全なあり方ではなく、そうしたインフレ気味のSelf-esteemの人の潜在的な問題は、実は根本的な自信のなさだったりもします。なぜなら、偉そうにしゃべる人、自分はすごいのだと相手にわからせようとする人は、他者に対して受容的でないばかりでなく、本当の意味で、自分を受け入れられていないからです。「自分は(周りより、相手より)すごい」、という考えで、他者と自分を比較して、心の安定を図っている人の自己評価は、あくまで相対的なものであり、こういうひとは、自分よりも明らかに能力のある人に出くわしたときに心の安定に支障を来たします。

 別の言い方をすると、健全なSelf-esteemとは、他者との優劣とはあまり関係のない、深いところでの自分という存在の受容(Acceptance)だからです。自分を受け入れられないひとが、どうして他人を受け入れられましょう。専門的には、こうした人たちの人格をNarcissistic Personality(自己愛性人格)といいますが、Narcissistic personalityの人たちのNarcissism(ナルシズム)は、本来低いSelf-esteemに対する無意識のDefenseであることが知られています。自信のない自分と向き合うのは苦痛であるので、優越感、特別意識といったSelf-enhancement(自己高揚)によって無意識に精神の安定を図っている人たちです。

 そういうわけで、Self-esteemが低いことを自覚して悩んでいるひとも、Self-esteemがインフレして自信過剰である人も、それは同じコインの裏返しであり、根本的な問題は、そのSelf-esteemの低さです。私たちがそれぞれ持っているSelf-esteemは、幼少期の親との人間関係、親の養育の姿勢、親の人格などと深き結びつきがあることが知られていて、たとえば、子供を首尾一貫して無条件に(つまりその子の出来、不出来、成功、失敗、行為などとは無関係に)受動的で、あたたかい親の元で育った人は、健全なSelf-esteemを持ちますし、逆に、親が厳しかったり、批判的だったり、子供に注意を向けてくれなかったり、条件的に子供を受け入れたり拒絶したりすると、その人は大きくなってから、Self-esteemの問題に悩むことになります。これは、親がそういう性格の人だったから、ということには限らず、たとえば、あたたかで、無条件に子供を受け入れる育児姿勢はあったけれど、癌など、重い病気などで、入退院を繰り返したり、長期の入院があったりと、どうしても子供に注意が向けられなかった結果であったりもします。

 しかし、Self-esteemの問題は、親との幼少期の人間関係には限らず、たとえば、結婚して、結婚相手がすごく批判的な人だったり、冷たい人だったり、自分のことでいっぱいいっぱいだったり、一緒にいる時間が極端に少なかったり、支配的だったり、暴力、言葉の暴力があったりすると、そうした結婚生活を続ける中で、もともと健全なSelf-esteemを持っていた人が、Self-esteemの低下で苦しむようになることも知られています。また、人生における大きな失敗、不幸なできごとなどがきっかけで、そうなる場合もあります。

 それでは、ひとはどのようにして健全なSelf-esteemを育むことができるのでしょうか。それにはいろいろは方法があります。ひと言で言うならば、あなた自身が、あなたの良い親になることです。これは言うは安く行う難しで、相当に根気の要るものですが、今日から出来るまず大切な質問は、「あなたは自分自身をどれだけ受け入れていますか」というものです。

 知らず知らずのうちに、自己批判的になっていませんか(こうしなければ、ああしなければ、なぜこうしなかった、こうすればよかった、もっとできるはず、もっとしなければ、自分は十分じゃない、あんなことするんじゃなかって、言うんじゃなかった、ああすればよかった、などなど)。自分を他人と比べて劣等感に陥ったりしていませんか。良い親とは、先に述べた、あなたを全面的に無条件に受け入れるあたたかな親です。たとえば、仕事でも、私生活でも、何かちょっといいことをしたとき、小さな達成があったとき、きちんと、ちょっと立ち止まって、それを認めて、自分を褒めてあげていますか。ときどき自分にご褒美をあげていますか。他人は関係ありません。自分自身に目を向けて、褒めて、認めてあげるのです。失敗したら、失敗した自分を責めるのではなく、慰めて、励ましてあげるのです、よい親のするように。

 このようなことに日々注意を向けて自分自身に対する姿勢を変えていくその積み重ねで、Self-esteemは徐々に健全なものになっていきますが、ひとは生まれながらに社交的な存在で、Self-esteemそのものが親との人間関係によって内在化されたものであるならば、当然、あなたが今置かれている環境での主要な人間関係はあなたのSelf-esteemに影響します。あなたの恋人、配偶者、親しい友人、仕事の人間関係など、見回してみてどうでしょうか。辛い人間関係はありませんか。もし、先述したように、恋人、配偶者との人間関係に問題があるのでしたら、その人間関係の改善が大切です。ふたりだけで難しいようであれば、カップルカウンセリングに行かれることをお勧めします。友人関係などで悩んでいるようであれば、その関係性について、今一度考えてみることが大切です。仕事の人間関係についても、同じことがいえます。ただ、私たちはその生活でいろいろな人間関係を持っているので、ある分野での人間関係の修正がどうしても難しくても(とくに仕事関係)、別の分野での人間関係をよくすることで、Self-esteemは改善します。

 最後にまとめますが、Self-esteemは、あなたの、あなた自身との人間関係(Intra-personal, Intra-psychic)の改善、それから、他者との人間関係の改善(Interpersonal)によって改善します。健全な自信、自尊感情を身につけることは、とても大切なことです。なぜならば、お分かりのように、あなたの自信、健全な自尊感情が、あなたの人生に対する満足感、充足感、幸福感と深く結びついているからです。そして、あなたの健全な自信が、あなたの大切な人たちにもよい影響を与えるからです。

 自信とは、読んで字の如く、自分を信じることですが、どれだけ本当の意味で自分という人間を信頼しているか、これは誰にとっても大切な問題ではないでしょうか。