興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

嫌な記憶と良い記憶

2011-06-24 | プチ認知心理学

 以前、「なぜ私は良い思い出よりも嫌な思い出のほうをたくさん覚えているのでしょう」という質問を受けたことがあります。

 これにはいろいろな理由が考えられます。たとえばその人の人格や生育歴、精神状態などで、実際,鬱状態にいる人が、嫌な思い出ばかりに苛まれて良い思い出の影響力が無効化している、ということも良くあります。

 さて、このように個人差はありますが、人は多かれ少なかれ、ある出来事や行事において、嫌なことばかり覚えていて、良いことがあまり思い出せなかったりして、その嫌な記憶に苛まれる経験はあると思います。これが何故かといえば、人間は、認知の傾向として、「解決した事物よりも、未解決の事物のほうをよく覚えている」からです。

 あながたもし何かの出来事において(たとえばあるパーティー、飲み会、旅行、デート、イベント、誰かの結婚式・・・)嫌な思い出のほうをよく思い出すとすれば、それがまだあなたのなかで未解決であるからだと考えられます。

 ここで、思い出されるがままに悶々と嫌な回想をするのではなくて、「なぜ」その嫌な記憶が思い出されるのか、それが自分にとってどのような意味のあるものなのか、それと似たようなことが過去になかったか、それが今の自分の人生にどのような影響を与えているのか、それから、これが一番大事ですが、そのときに自分がどのような気持ちや感情を経験していたのか、(あまり愉快な作業ではありませんが)ゆっくりと自分と向き合って自己分析したり、文章にしてみたり、できれば信頼できる人にゆっくりと聞いてもらったり、それらの記憶とうまく折り合いがつけられるようになると、今まであまり意識していなかった、気に留めていなかった、その出来事における良い記憶をもっと思い出せるようになり、嫌な記憶に煩わされることも少なくなります。

 これは、精神分析学的にいうと、あなたの中で未解決であった問題が、解決、統合された、ということになります。その結果、嫌な記憶は記憶として残りますが、それが今まで持っていたあなたに対する影響力はなくなるか、激減するでしょう。また、それがそれほど「嫌」なものでなくなったりもします。