今日の授業までの4つの発表について、まとめてコメントをします。いずれも、90分の授業に一人が発表をしました。授業の前半で発表し、後半で質疑応答という形をとりました。ハンドアウトの配布に加え、(多くの場合)教室備え付けのディスプレイ(50インチの薄型大画面テレビ)を通したデジタル写真の提示、現場から持ち帰ったチラシ類の回覧などがなされました。
4発表のそれぞれのタイトルは
「平和」の展示と美術作品―戦没画学生慰霊美術館「無言館」を通して
久高島における「伝統」の姿―イラブー漁を通して
屋久島のお土産―「屋久杉工芸品」から
鞆の浦・直島の調査報告書
でした。
どれも興味深い現場を選んでくれたので、刺激を受けながら発表を聞くことができました。
まず、強調したいこと。それは、
調べることの大切さ。
調査力が基本中の基本。調べることなくしてエスノグラフィーは成り立ちません。
調べることで、研究の土台がつくられます。調べて、はじめて「素材=データ」が得られるのです。素材がないとそもそも料理ができないように、データが集まらなければ研究はできません。
例えば、ある島について調べるということは、その島の基本情報(歴史、広さ、位置、人口、行政上の所属、産業などなど)からひとまず調べるということです。それから自分が関心を持っている事象について、絞った調査を進めます。
見学と調査とは違います。現地に行って、単に見学だけしても、調査とはなりません。「見学」から「調査」へと踏み込むことが期待されます。調査とは、現場で問いを立てて、それについて参与観察、インタビュー、文献調査などの方法で明らかにするということです。一歩踏み込む姿勢が必要です。
調査項目として重要なのは「文脈」です。直接の調査対象(屋久杉、無言館、イラブー漁、直島)の周りに、どんな歴史的、社会的文脈があるのかをよく調べましょう。対象だけ調べるのではなく、対象に関係のありそうなものも広く調べるべきです。
「現場語」への着目。現場、現地でどのような言い回しが使われているのか。その中に、現場の視点を明らかにする鍵がある場合が多いです。
理論的テーマについて考える以前に、詳細な調査が必要です。調査で「素材」を持ち帰り、それを土台に理論的テーマは浮上します。逆に素材と、現場での問いの発見がないまま、理論的テーマを考えようとするのは本末転倒です。
理論的テーマとして、例えば「資源化」が浮上してきた回がありました。しかし一つの抽象的な概念だけで、分析が終わるということはありません。理論的テーマの設定は、分析の終着点ではなく、出発点です。対象を捉え、説明するに適した概念を多く考え出しましょう。そしてそれらの間の関係性を考察していく中で、理論枠組みがはっきりとしてきます。
問いの発見の重要性についてはいくら強調しても強調しすぎることはありません。しかし、この点充分でない発表も見受けられます。前回のブログ記事も参照してください。
質疑応答の時間に、私が発表者や他の参加者とやり取りしながら、黒板に概念関係図(『エスノグラフィー入門』p.202)を書いてゆきました。これも一種の共同分析セッションです(p.202)。これは、現場の事象の関係性を明らかにしたり、理論的テーマを浮上させたりするために、かなり有効な分析の手段だと思いました。これを自分なりに予め作成してきて、ハンドアウトの一部として配布してもらってもよいかもしれません。
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