(北大で講演するホセさん)
「コロンビアのアワ民族」?
最初聞いたとき、はずかしながら知らなかった。コロンビアと言えば、珈琲豆、誘拐、麻薬…頭に浮かぶのはそんなイメージ。そこの先住民族アワのホセさんという人が、日本に話をしに来るという。北海道での受け入れに、関わることになった。それが今年の2月。
何回かの打ち合わせで、だんだんとスケジュールが形になっていった。
まず、北海道の先住民族アイヌとの交流をしていただこう。その上で、札幌の講演に臨んでいただくのがいいのではないか。で、二風谷‐静内‐白老の訪問を組み、その後、北海学園大、北大などでの講演という予定にした。しかしそれだけでもハードスケジュールなのに、「コロンビア・スピーキングツアー」は日本縦断、北海道以外にも、広島、京都、愛知、茨城、東京で連日のように講演会をするという。大丈夫か。
5月30日に新千歳空港で、アワのマグイ自治区リーダーのホセ・メロ・チンガルさんと、現地で取材を進めるジャーナリスト柴田大輔さんを出迎えた。たいへんお元気。北海道の気候は快適とのこと。ホセさんの故郷は、標高1300mのアンデス山脈北部で、極端に暑くなったりすることがないそうだ。
その足で、二風谷方面へ。途中、鵡川の海産物店に立ち寄り、外でぐるぐる回っている天日干しタコに目を引かれ、フレンドリーなお店のみなさんとしばし歓談。タコ、シシャモ、サケトバを購入。ここの干しダコは美味。
二風谷ではまず貝澤耕一さんのお世話になった。アワ民族はトウモロコシ栽培などの農業が主な生業だそうで、アイヌの篤農家と交流できればと思ったからだ。ホセさんらが注目したのは、農業よりも、貝澤さんが中心となって進めている植林事業だった。ナショナルトラスト・チコロナイを立ち上げて、アイヌが生活のために利用していた木が生えている森林を再生させようと取り組んでいる。オヒョウ、カツラ、ミズナラなどが植えられた苗畑を見た後で、植林現場を見学した。オヒョウはその樹皮から繊維を採り、アットゥシという織物の材料となる。「植えてから樹皮を採るまでに40年はかかる。」この貝澤さんの言葉に、ホセさんは感銘を受けたという。文化の復興と継承はそれだけ長い目で見ることが必要だと実感されたのだ。
コロンビアでは政府軍と反政府ゲリラとのあいだで紛争が続いた。その板挟みになったのがアワのような先住民族だった。00年代には、直接武力紛争に巻き込まれ、多くの死者が出たり、村に地雷が埋められたりした。そのために多くのアワが故郷を離れた。近年の和平ムードの中で、徐々に帰郷する人が増えている。コミュニティの復興をホセさんはリーダーとして進めているのだ。そのために「歴史的記憶の家」というものを建設して、復興の中核にしたいのだという。そのこともあって、アイヌの歴史と文化を伝える施設を見学することにした。
二風谷では萱野茂アイヌ資料館と平取町立二風谷アイヌ文化博物館、静内のシャクシャイン像、そして白老のアイヌ民族博物館を、この後で回った。どこもホセさんの印象に刻まれたようだ。ご案内いただいた萱野志朗さん、関根健司さん、菅原勝吉さん、山道陽輪さん、ありがとうございました。
面白かったのは、袋を通した交流。ホセさんは樹皮繊維の袋を肌身離さずもっていた。それが二風谷では大注目を浴びた。アイヌにもサラニプという樹皮繊維の袋がある。しかしアワの袋は、なんというかスーパーでよくあるミカン販売用のネットのように、伸縮性に富んでいる。どうやって編むのかとしげしげと手に取って見つめられた。
反対にホセさんが注目したのは杖だった。アワにおいて杖は権威の象徴だ。リーダーが公の場に出るときには欠かせない。今回のツアーで講演するときにも、6色のリボンを結んだ木の杖をホセさんは手に持っていた。静内のシャクシャイン像や白老のエカシ像が手に持つ棒を見て、ホセさんが「あれはどういうものか?」と質問をしていた。アイヌにはリーダーが杖をもつ習慣は無いようだ。実用のため、山に入るときに携えるクワという杖はある。
札幌でいくつかあった講演会の内、僕は6月2日の北大を、笹岡正俊さん、宮内泰介さんと担当。コロンビアの憲法改正委員会には先住民族も加えられ、先住民族の権利が書き加えられたという。自治区での土地の権利も認められている。ホセさんが重視するのは教育。都市の学校に出て行くと、子供が差別にさらされたり、家庭の経済的負担も大きい。そこで、ホセさんらは自分たちで木を伐ってきて、自治区に学校を建設した!それを政府は正式の学校として認可したのだという。これには驚いた。それから色とりどりのトウモロコシの写真。アンデスはトウモロコシの原産地だからいろいろな種類が残っている。このようにいろいろな人びとが共に生きる社会を目指したいというお話しだった。
北海道で最後のイベントは、札幌のみんたるを会場にした「アワ&アイヌ・ナイト」。食事しながら、なごやかにホセさんと柴田さんのお話しを聞き、そしてアイヌのグループ、ピリカシムカとフンぺシスターズのパフォーマンスで大いに盛り上がった。ピリカシムカの川上裕子さんがお土産として、アイヌのサラニプをホセさんにプレゼント。
「コロンビアのアワ民族」が親しく感じられるようになった、充実の5日間だった。それにしてもホセさんのタフさには感嘆するのみ。アンデスの山を歩き回っているから、鍛え方が違うのか。いつも快活で、お元気。時差ボケゼロ。あやかりたい。
ホセさん、柴田さん、そしてツアーの準備に当たってくださったみなさんに感謝いたします。
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