小田博志研究室

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『エスノグラフィー入門』を授業現場で使う(2学期編)7

2011-02-05 | エスノグラフィー

 授業「文化人類学演習」は先週で終了。

 期末レポート課題(=エスノグラフィー論文)の締切が来週という時期です。

 レポートを書くときには、『エスノグラフィー入門』を改めて開いて、参考にしてほしいと思います。

 最後の4つの発表に対するコメントをこのブログにはまだ書き込んでいませんでした。(発表によってコメントの時期や長さに違いがありますが、それはひとえに僕の忙しさによるもので、まとめた短いコメントなってしまった人には申し訳なく思っています。知りたいことがあればメールで聞いてください。)

 レポート執筆の参考になるように、要点に絞ってコメントします。

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 日韓大学の比較―〈研究テーマ〉グローバル化と日韓相互理解

 これは韓国人留学生による発表。日韓の大学の制度の違いの説明が主な内容でした。特にパワーポイントの活用が見事な発表でした。韓国の大学ではこの面での教育が盛んなのだそうで、はからずも日韓の違いが浮き彫りになりました。この発表者は特別に2学期から参加してもらいました。それもあって、よりエスノグラフィーの特徴を活かした発展が望まれます。具体的にいうと、大学の現場を内側からくわしく描くことをすれば、ぐっとエスノグラフィーに近づきます。韓国では受験生を白バイが試験会場まで送るといったことがあるそうで、それは日本では想像もできません。そうしたディテール(細部)にこだわって、その背景にどんな社会文化的・歴史的文脈があるのかを探ってみるとどうでしょう。

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 モエレ沼公園と地域の関係―市民団体の活動を通して

 札幌市のモエレ沼公園と市民団体および地域との関わりに注目して、調べてくれました。モエレ沼公園はイサムノグチのデザインで有名。その点での書籍はすでに多く出ているものの、この発表のような着眼点はユニークです。黒板に概念関係図を描いている内に、モエレ沼公園に関わるある市民団体と、それとは違う地域のイニシアティブとを包括する概念は何か?という問いが浮上しました。概念化の問いです。それについて議論していると、2種類の「コミュニティ」として捉えられそうだというアイディア出てきました。ひとつはモエレ沼公園やイサムに関心のある人たちがつくる「モエレ・ファン・クラブ」。このメンバーが住んでいる場所は特に定まっていません。それからモエレ沼公園近郊のコミュニティ「モエレまちづくり委員会」。これは近隣の住民と役所が主役で、通りの改称などの活動をしているのだそうです。モエレ沼公園をめぐる二つのコミュニティを比較しながら、コミュニティ論へと展開すると面白い理論的考察ができそうです。

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  文化財と自然災害―厳島神社を例として

 広島県の厳島神社が台風、高潮などの災害にどう対処しているのかについて調べたもので、これもユニークな切り口です。課題は理論化で、ぜひ概念力を発揮して、厳島神社(A)だけに留まらず、それを通して理論的テーマ(B)についても考察をめぐらせてほしいです。その際のキーワードとして、災害、文化財、世界遺産、変化、真正性などが挙げられます。それから例えば、神社一般に関する基礎的な事柄(スタッフの職名の種類など)についても調べてほしいと思いました。論文執筆の一般論です。ややもすると忘れがちなことで、意識してほしいのは、「自分が書いていることを知らない他人がわかるように伝える」ことです。そのために必要な説明、注釈を取り入れていきましょう。

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 現代のおみくじにおける聖と俗の両面性

 数々のおみくじを資料として用いた研究。こうやって対象化してみると、身近なおみくじからもたくさんの発見があるものですね。発表者はおみくじを分析する際に「聖俗」概念を用いました。これは理論的テーマとして適したものだと思いました。しかし聖俗を二分法的に捉えず(おみくじは聖か、俗か?)、両者が複雑にからみあった現場でのあり方を解きほぐして、言語化してほしいものです(現場に二分法があてはまらないということは、一般的に言えるかもしれません)。おみくじには値段がついていて、神社の収入源にもなっているでしょう。さらに時代のニーズに合わせた「商品開発」もなされています(「ドラえもんおみくじ」や「恋愛おみくじ」など)。それだけみると、おみくじは「世俗化」、「商品化」していっているといえそうです。その反面で、おみくじの扱われ方は明らかに「聖別」されています。おみくじが神聖なものであることが、むしろその商品価値を高めているようにも思います。つまりおみくじは聖と俗が複合する現象として捉えられるということです。「では両者はいかに複合しているのか?」という問いを立て、事例に基づきながらその点を分析する(=概念化する)ことができるでしょう。


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