気が向いて、ミルチャ・エリアーデ『ホーニヒベルガー博士の秘密』(福武文庫、原著1940年)を読む。
本書には、1940年に書かれた2つの短編が収録されている。
「ホーニヒベルガー博士の秘密」は、インドの秘儀を求めた「ホーニヒベルガー博士」に魅せられた研究者が、突然姿を消し、その謎を探ってほしいと研究者の妻が別の男に依頼するところからはじまる。書斎に残された、膨大な文献資料とノートの数々。実は、研究者は、秘儀を半ば習得し、そのために他者から視えなくなっていたのだった。しかし、男がそこまで追求したところで、世界が一変する。まるで時空間が狂ったかのように。この暗欝な雰囲気は、巨人エリアーデが住んだブカレストの街をイメージしてのものだという。
「セランポーレの夜」は、インドのカルカッタ(現・コルカタ)が舞台。ここに人生の意義を求めて集う男たちは、ある夜、魔術にかけられたように彷徨い、半死半生の目に遭う。かれらが入り込んだ世界は、100年以上前の西ベンガルであった。この謎は、論理的に解くことができるようなものではなかった。
いや、久しぶりにエリアーデなんて読むと、奇妙な魅力にやられてしまうね。『ムントゥリャサ通りで』と同様に、唐突に、読者が無重力・非論理の時空間に放置される感じ。未体験の東欧にも、足を運んでみたくなる。