Sightsong

自縄自縛日記

鶴見良行『東南アジアを知る』

2012-09-09 11:48:13 | 東南アジア

鶴見良行『東南アジアを知る ―私の方法―』(岩波新書、1995年)を読む。氏が1989-90年に行った講演録である。

何気なく読み始めたのだが、これがなかなか刺激的だった。さすがに歩く人である(本人は学者世界を批判し、自らを調査マン、ジャーナリストだと称していた)。ただ、あくまで講演録であるから、これをきっかけに次に進まなければならない。著者の本は、これまで『アジアを歩く』しか読んだことがなく、勉強不足を悔んだ。

その、きっかけとして。

○東南アジア諸国は、欧米の侵略によって、国境と定住を前提としたネーションにならざるを得なかった。もともと島嶼部東南アジアは多様な民族・文化があったところであり、ネーションの形成には無理があった。レナト・コンスタンティーノは、民族的自覚(ネーションフッド)を、未完の発展的概念としている。このことから、ネーション形成の歴史を逆照射しなければならない。
○7世紀後半からマラッカ海峡の交易ルートを支配したスリウィジャヤ王国も、14世紀末から110年間存在したマラッカ王国も、いくつもの港の連合体であった。そのため、縮んだり大きくなったりできるものだった。
○東南アジアのナショナリズムは、植民地主義に対抗するために人為的に作ったものだった。このあたりが、タン・マラカ(インドネシアの共産主義者、独立後にオランダの再植民化に抵抗して殺される)、プラムディヤ・アナンタ・トゥール(インドネシアの共産主義者、獄中で小説を執筆)、レナト・コンスタンティーノらを悩ませた問題であった。
マングローブの沼地において、東南アジアの一揆や反乱が起きた。日本の定着農耕地を前提とする考えとはまったく異なる。
○ハノイやジャカルタやマニラは植民地主義者が築いたものであり、これだけで考えれば、植民地主義者の眼だけで「第三世界」を考えることになる。
○また、「第三世界」の生産が、一方的にヨーロッパの市場だけにつながったとする教育や史観は間違っている。(早瀬晋三『マンダラ国家から国民国家へ』では、たとえばコメの輸出入経済を、ヨーロッパとの関係だけでなく、東南アジア諸国間やインドとの間で論じている。)
マラッカ海峡は交通の要所でありながら、浅くて通過しにくい(むかし)、海賊が出没する(むかしもいまも)、といった難があり、マレー半島・タイのクラ地峡に運河を建設する計画があった。かつては、船を棄てるか持ち運ぶかして陸域を横断したものだった。インド大反乱(セポイの乱)(1857年)では、英国が香港の極東艦隊を呼び寄せるために建設を画策した。スエズ運河を建設(1869年)したレセップスは、タイのチュラーロンコーン王(ラーマ5世)と会談し、やはり運河建設を画策した。日本は戦前にも計画したが、1973年にあらためてそれが浮上する。なんと水爆を使って運河を掘るというものだった。そして今も計画は死んでいない。
○東南アジアでは人跡未踏のマングローブ林はわずかなのではないか(たとえば、エビ養殖との関係)。


インドネシア・N島のマングローブ林

ついでに、現代の「ナショナリズム」について、いくつか指摘を整理してみる(これも、きっかけとして)。

ジャック・デリダ キリスト教の「普遍への意図」「政治的無関心主義」が、逆に、ナショナリズムを生んでしまった。(>> リンク
ガヤトリ・C・スピヴァク 「公」をそれぞれ「私」に近づけ、それを拡大していく想像力をナショナリズムの原点に置くことができる。(>> リンク
デイヴィッド・ハーヴェイ 新自由主義は、市場の自由を標榜しながら、実は逆に、ナショナリズムが効率的に機能する仕組になっている。(>> リンク
高橋哲哉 マジョリティ(民族的多数派)のナショナリズムはもはや「健全」ではありえない。それは必然的に暴力を孕み、排外主義を孕んでしまう。(>> リンク
村井紀 日本のナショナリズムを相対化する柳田國男らの試みは、実は、排他性が組み込まれたナショナリズムそのものであった。(>> リンク
加々美光行 孫文による、国境・宗教・民族などさまざまな要素を丸呑みする普遍的な「中華ナショナリズム」は、その抵抗的性格を失ってしまうと精神を失い、排他性を強め、自己を尊大視するものと化した。(>> リンク)(>> リンク
徐京植 「死者への弔い」が、たえず「他者」を想像し、それとの差異を強調し、それを排除しながら、「鬼気せまる国民的想像力」によって、近代のナショナリズムを強固にしている。(>> リンク

●参照
早瀬晋三『マンダラ国家から国民国家へ』
中野聡『東南アジア占領と日本人』
後藤乾一『近代日本と東南アジア』


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