北千住のBUoY(2020/3/1)。チューバ奏者の坂本光太さんについては、昨年Ftarriで観た特殊奏法を交えた演奏から興味を持っていた。
このプログラムで演奏されたのはヴィンコ・グロボカールの作品である。
1970年代前半の短い曲は演奏技術や演奏方法そのものに注目したコンセプチュアルなものであり、最初に演奏者が視えないようカーテンで隠されていたのはそれを強調する意図があったのかもしれない。確かに坂本さんの姿が視えるまで、さまざまな音がソロなのか複数によるものかわからなかった。それらの特殊なノイズに鼓膜を預け、演奏行為を凝視していると、音そのものが突き離されるようなおもしろさがみえてきた。
休憩をはさんで、1時間のシアターピース「変わらない一日」。クルド人弾圧をもとにしており、前後に配布されたテキストなしでもその悲惨さは強調される。人間の顔がそれとして提示されるのがソプラノの根本真澄さんだけであり、彼女は途中で屍と化す。それが常に視界に入ってくることが効果的だった。そしてそのような特異点があっても世界は日常に支配され麻痺させられる。
BUoYという意図的な廃墟空間に、この特別な作品の体験を求めた人たちがマスクを着けてずらりと座り、終わったあとはふたたび明るい外部に出ていく。いまの日本にあっていつ非人間的に抹消されるかわかったものではない。おそらく参加者は、北千住の住宅街を歩きながら別の眼鏡をかけているのだった。
●坂本光太
山田光+坂本光太@Ftarri(2019年)