岩波ホールに足を運び、エルマンノ・オルミ『木靴の樹』(1978年)を観る。
これまでに映画館やヴィデオで何度も観てきた作品なのだが、わたしにとっては、また体験しなければならない特別な映画なのだ。
19世紀末、北イタリアの農村。農民たちは玉蜀黍を収穫し、みんなでその皮を剥いたり、粉にして地主からおカネをもらったり。家畜の鶏や豚をつぶしたり、牛を大事にしたり、牛の蹄の中に拾った金貨を隠したり。15にもなって小さい子供たちと一緒にかくれんぼをして遊ぶ、おねしょが治らない子がいたり。たまに街のお祭りで大騒ぎしたり。みんなを驚かそうと早生のトマトを育ててみたり。
農業収益の3分の2は地主に差し出さなければならず、土地も家畜も地主のもの。生殺与奪の力はただ地主にあった。恋が実り結婚した男女は、舟でミラノまで旅をして、修道院で養子を授かる。育てることで養育費がもらえるからだ。そのような貧しい環境の物語でもあった。
なんということもない風景と物語とが、新鮮な野菜や果物のように感じられる。