Sightsong

自縄自縛日記

小野善康『エネルギー転換の経済効果』

2013-02-06 15:13:27 | 環境・自然

小野善康『エネルギー転換の経済効果』(岩波ブックレット、2013年)を読む。

日本国内での脱原発と同時に再生可能エネルギー導入を進めた場合、経済への効果はどうなるのか。本当に、原子力発電の低コストというメリット(と信じられている)を棄て、採算性の悪い再生可能エネルギーを進めた結果、経済がさらに沈滞し、消費者は電力料金負担に苦しむことになるのか。

本書の試算によれば、そうではなく、逆にプラスの効果を生み出す。なぜなら、再生可能エネルギー産業が興り、それとオカネを介してつながっている消費財分野も潤うからである。ここでのミソは、好況時ならば既存産業を削ってのシフトとなるが、現在のような不況時では、余っている労働力を活かすために、そのようなマイナスの効果は出てこないという点にある。

従って、問題は、産業内・産業間での活動や体制のシフトがスムーズに進むかどうかということになる。

本書の主張には概ね共感できるものだった。テーマも絞り、よくまとまった本である。今後、再生可能エネルギー推進の説明用資料として使うことができる。

現実問題として、無理筋を通すのではなく、社会的に求められる新規産業を伸ばすことの方が良い筈である。

いくつか疑問点(とうに検討した結果かもしれないので、自分用の備忘録)。

廃炉コストの設定が安すぎることはないか(1,100MW級の大型で600~700億円としている)。ドキュメンタリー番組『活断層と原発、そして廃炉 アメリカ、ドイツ、日本の選択』(2013/1/27放送)(>> リンク)では、ドイツでの前例に倣い、1,000MW級で1基あたり1,000億円を要するとしている。
廃炉に要する期間が短くないか(25年間としている)。上記ドキュメンタリーでは、ドイツにおいて、解体・除染が大変な大型設備については50年間の中間貯蔵を選んでいることを紹介している。
廃炉ビジネスの推進をもっと積極的に評価すべきではないか。
○エネルギー分野の生産活動アップによる他分野への波及効果を、実質GDPと実質消費との直接的な関係から設定している。産業連関分析(逆行列計算)を行えば、もっと間接的な波及効果を見込めるのではないか。
○再生可能エネルギー産業による雇用の創出を、既存産業に傷をつけることなく、失業者から充てることを想定している。実際には、知見やノウハウを持った人材がそれを行うのではないか。

●参照
『活断層と原発、そして廃炉 アメリカ、ドイツ、日本の選択』


孫崎享・編『検証 尖閣問題』

2013-02-06 09:52:06 | 中国・台湾

孫崎享・編『検証 尖閣問題』(岩波書店、2012年)を読む。

著者の孫崎享氏には『日本の国境問題』 (>> リンク)という優れた著作があるが、本書も、従来の問題整理の方法や主張を踏襲している。

すなわち、
○尖閣諸島の領有や支配に関する歴史を辿ろうとすると、日本側からも中国側からも実に様々な主張が出てくるのであり、一概にどちらが正しい歴史認識だとは言えない。
○日本の領土を定義するためには、敗戦前後のヤルタ会談、ポツダム宣言、サンフランシスコ講和条約に立ち戻らなければならない。それらに依拠するなら、連合国側が尖閣諸島を日本の領土と決めているかどうかが重要だが、それは曖昧であった。
○1972年の沖縄施政権返還まで、米国は、尖閣を沖縄の一部だと認識していた。しかし、米中関係を重視していた米国は、返還時、それを敢えて日中間で解決されるべき問題にしてしまった。
○米国の戦略は、日ソ間の北方領土、日韓間の竹島と同様に、尖閣諸島を日中が接近しないための楔として利用するものだった。(オフショア・バランシング
○日中間では、1972年の国交正常化以降、尖閣問題を敢えて「棚上げ」にしている。今後も、日中が衝突して「ルーズ・ルーズ」関係になることなく「ウィン・ウィン」関係を築くため、再度「棚上げ」を合意することが必要。

さらに、新しい知見が示されている。

○最近の日本では、「棚上げ論」が両国の合意ではなく、中国の一方的な主張だとする強弁が目立ってきている。例えば前原議員。(昨年のテレビ番組でも、岡本行夫が同様の発言をしていたが、これも意図的な強弁だと見るべきだろう。)
○中国政府が、尖閣諸島を日本が「盗んだ」と主張していることは、決して過激な表現ではなく、ポツダム宣言にある表現の引用だということを認識する必要がある。
○菅政権は、中国漁船の船長逮捕を、日中漁業協定ではなく、国内法で処理すると表明した。また、石原都知事(当時)の動きを抑えられず、尖閣諸島の国有化を行った野田政権は、胡主席(当時)の面子を潰してしまった。いずれも、これまでの経緯を知らないことによる外交上の大失態であった。
○これに加え、現政権が、宮沢談話・村山談話・河野談話を否定するなら、中国は国交正常化を廃棄し、賠償請求に出る可能性がある(石川好)(!)。

子どもじみた勝ち負けの考えや、幼稚な歴史修正主義や、相手が悪いという煽りなどは廃して、また一からの出直しの時期だということだろう。ところが、大メディアは相変わらずである。ナショナリズムを煽ってもろくなことはない。

●参照
孫崎享『日本の国境問題』
豊下楢彦『「尖閣問題」とは何か』
朝まで生テレビ「国民に"国を守る義務"が有るのか!?」
斎藤貴男『東京を弄んだ男 「空疎な小皇帝」石原慎太郎』
ダイヤモンドと東洋経済の中国特集
国分良成編『中国は、いま』
天児慧『中国・アジア・日本』
『世界』の特集「巨大な隣人・中国とともに生きる」
『情況』の、「現代中国論」特集
堀江則雄『ユーラシア胎動』
L・ヤーコブソン+D・ノックス『中国の新しい対外政策』
2010年12月のシンポジウム「沖縄は、どこへ向かうのか」